エムエスツデー 2021年1月号

設備と計装あれこれ

第17回
エネルギー利用の課題
(資源有効活用と省エネルギー推進)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

製造業とくに素材産業においては原料を加工して製品に仕上げるまでに、電力や燃料、蒸気などエネルギーを大量に消費します。計画生産量を確保し製品品質を維持することが製造の原則ですが、そこでのエネルギー使用量の大小は収益そのものに影響します。それでどこの工場でも達成課題に「省エネルギー」の項目がありますが、放置しているとその改善は進みません。一方、産業社会全体でエネルギーの効率利用の動きが広がっており、これは各企業、団体などで継続して進められてきています。活動の内容は個々の機器の効率改善、無駄の削減などに始まり、資源の有効利用、熱の再利用また環境保全までと、対象分野は幅広くあります。最終的には消費する原料や燃料を自製する、また資源の再利用を図る、そして廃棄物を出さない循環型の製造工場を目指しています。

生産活動にともなう化石燃料の使用削減

大量の電力を使用する製造工場では、自家発電設備を設けて電力原単位を下げるとともに、各工程で使用する蒸気や圧縮エアなどを安価に自製します。ただし火力発電に使用する燃料の石炭や重油またLGN(天然ガス)などは化石燃料と呼ばれ、資源が有限であること、そして地球温暖化の問題から使用の削減が求められるようになってきています。今までそれらに頼り過ぎていた面がありました。そこで自然エネルギーの活用、これには 太陽光発電、風力発電、地熱利用などがあり、また循環型エネルギー利用としてはバイオマス燃料、スラッジ(排泥)回収燃焼などがあり、これらは使われていない、もしくはムダとなって廃棄されている資源を再利用することに繋がっています。

省エネルギー活動の取組み

エネルギーを多く利用する産業ではその使用量を下げることは収益確保の課題であり宿命ともいえます。その使用量を下げるには、高効率ボイラの採用や自家発電設備を導入することがありますが、生産設備の機器一つ ひとつのムダを削減し効率改善に注力する活動が進められてきました。 たとえば高効率機器の採用、それに加えて複数台あって並列運転されているポンプの台数を削減する、または過剰能力の設備を適正化するなどの 対処が行われてきました。小集団活動のテーマにも取り上げられ、また成功した事例を他設備や他工場にも応用、水平展開してコツコツと積み上げてきています。代表的省エネルギー対策のテーマを図1に掲げました。 これらの中で大きな効果を生んだ事例としてインバータを利用したポンプやファンの回転数制御があります。図2はその一例で、バイオマスボイラの燃焼空気を炉内に送り込む押し込みファン(FDF)と燃焼後のガスを排出する誘引ファン(IDF)の回転数変更を行い、燃焼の最適化をします。従来は煙道に設けたダンパの開度を調節して風量や炉内圧を調節するのですが、ファンの回転数を制御することでダンパでの圧力損失を最小化し、風量や炉内圧力を最適にするとともに消費する電力を適正化することに効果を上げています。ただしインバータ設備は費用が大きくなるため個々の案件での相談で、経費削減効果が大きい案件に限定されるようです。

図1 代表的省エネルギーテーマ
図1 代表的省エネルギーテーマ

図2 バイオマスボイラ通風系制御
図2 バイオマスボイラ通風系制御

環境保全と熱回収のコラボ

工場の環境保全の取組みは幅広く行われますが、ここでもエネルギー使用削減に大きく関与しています。製造ラインで発生する臭気ガスは直接大気に排出させずに捕集して、ボイラの燃焼空気の一部として送り消費されます。また工場排水の浄化をする際には、脱水して排泥に含まれる微細有機物を固形物として回収し、これもボイラで燃焼して熱量に変換するとともにスラッジの外部排出を極力減らしています。これらは廃棄物を工場系内に留まらせると同時に熱回収が行われるものです。大量に排出される排水を浄化し再利用する取組みも行われていて、これには微生物を利用した活性汚泥処理技術に加えて、昨今では膜処理技術も加わり使用した水を再生利用する工夫が始まっています。

循環型産業への取組み(紙パルプの例)

古くから行われてきたのがボイラで発生する蒸気で発電すると同時に生産設備でも利用をするコージェネと呼んでいる方法があります。またパルプ製造工程で排出される黒液を燃焼し発電して熱回収を行います。そして工場の外でも資源の再利用、再生が進められています。図3のようにまず古紙利用は、使用済みの紙類を回収して再利用するものです。これは以前からあったのですが、コストとの絡みがあり利用率が高まってきたのは最近数十年のことです。古紙の品質を損なわずに再利用する技術に加え、プラスティック製品の代替としての役割も評価されています。さらに植林事業においては製紙原料である木材を生育し、成長に伴い伐採してパルプ原料とします。そのあと植林し次のサイクル使用に備えますが、これには植物による二酸化炭素削減効果もあります。これらの活動により循環型製造構造を確保し、資源の節減や再利用でエネルギー使用の極小化を図る取組みが始められています。

図3 循環型資源・エネルギー利用(紙パルプ)
図3 循環型資源・エネルギー利用(紙パルプ)

【コラム】設備投資の判断規準

工場の設備投資は様々な分野におよび、収益改善・品質維持・修繕保守・安全環境確保などの項目に分類されます。その中でもエネルギー対策は収益改善に含まれると同時に社会の要請事項でもあり、一般の収益改善工事よりも利益率が低くとも実行に移されることが多いようです。今後の投資規準としては事業を継続するための新しい取組みが優先されていくと思われます。原料の枯渇問題、環境負荷低減となるゼロエミッション、化石燃料の使用削減などが投資テーマの上位にくることでしょう。


ページトップへ戻る