エムエスツデー 2021年10月号

設備と計装あれこれ

第20回(最終回)
プロセス産業の今後(計装技術を生かす)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

製造業はその製品を通じて私たちの豊かな生活を支えてきました。将来に向けてもそうあり続けるために、今後も同じ方法や形態で進めていって良いのかどうか曲がり角にきているようです。工場のオートメーションは今までに築いてきた自動化や省力化の推進実績をベースに極めて高度になっていますが、紙パルプ産業を例にとると原料を輸入し、国内消費で行ってきた生産構造がこれからも継続可能であるか揺れ動いています。もともと戦後復興期の用語である「傾斜生産」とは、現在でも生産収益の良い工場へ集中投資をして生産力を上げコストを下げることの意味に使います。大量生産品においては、とくにこの傾向が強く、需要が伸びているときに各地に建設された工場のうち、需要減退に際して物流費を含め生産コストの高い工場や設備は、統廃合または縮小化の方向に動きます。これに対して、少量生産でも付加価値のある特殊品を製造する工場は存続する可能性が十分にあります。独自性の高い品質の維持、コスト高への対処が鍵を握ると考えます。よく産業や企業の「持続的成長」といわれますが、そのためには収益の改善や社会要求へこたえることに加えて、工場の生産工程では幅広く進める環境保全が不可欠となります。

図1 環境保全の課題(資源循環)
図1 環境保全の課題(資源循環)

完全循環型製造に向けて(環境保全がテーマ)

生産設備は高効率化に向けて改造を続けてきましたが、それに加えて製造業が存続していくための古くて新しい課題が環境保全です。これには一般的な廃棄物の削減、水質改善、臭気回収などに加えて、今や地球規模でいわれるようになったエネルギー問題、そして水の再生利用さらには使用する原料の自製と再生利用などがあります (図1)。これらは大きな課題であり将来に向けて解決策を模索していくものですが、いずれも利用した後に空いた穴にはその補修をして原状回復をしていこうとする発想からきています。①動力(エネルギー)については、生産に必要となる電力や熱源に自然エネルギー(太陽光など)、再生エネルギー(回収資源など)を利用し、いずれ枯渇する化石燃料の使用を減らし脱炭素や地球温暖化について考慮するものです。②水の再生利用は使用量削減と同時に都会地工場ではとくに重要な課題です。また飲料業を中心に「水の涵養(かんよう)」をテーマとして、森林の水源保全機能を高めることにより製品となる水そのものを育てようとしています (図2)。③原料の自製や再生は業種によってはさらにレベルが高い取組みになりますが、これの優良産業は紙・パルプです。原料となる木材を植林して育てる、そして不要となった製品は回収して古紙として再利用することが従前より行われてきました。

図2 水の涵養
図2 水の涵養

素材産業から複合品生産へ(付加価値品の製造)

需要が伸びていくときに限られた設備で多品種の作り分けをするのは我が国のお家芸であるものの、減退時に生産の継続を行なうためには新規製品の模索が必要です。またAI(人工知能)技術の活用を進めていくとそれにより存在が脅かされ駆逐される業種や職種が論議されるようになります。その際まったく新しい業種や製品製造に移行するのは簡単ではありません。製紙産業でいえば新聞や雑誌等大量印刷物の需要は明らかに減少してきています。パソコンが一般に普及した頃に印刷物が減ると危惧されたときはそれほどでもなかったのですが、現在いよいよ多くの情報源がデジタル機器に頼られる中、出版物としての紙製品が生き残れるかどうかを問われるタイミングにきています。ここではデジタルと紙のお互いの良い点を生かし棲み分けをすることで、紙が一方的にデジタル機器に押し切られることがないようにできないかと考えます。データの長期保存の観点でも紙は存続できるものであり、デジタル記憶媒体はレアメタルやレアアースの枯渇の心配があり、良いこと尽くめとはいえないはずです。モノにはすべて特質を生かした使い道があり素材産業は付加価値を高め新たな需要を掘り起こせるかが鍵となるでしょう。

あらためて計装は操業の指標

製造工場において計装は設備と操業の間を繋ぐものであり、正しい計測値や安定制御は操業の立場から常に求められているものです。どのような製造設備であっても計測技術がなければ生産が成り立ちません。プロセス制御はよくPAの世界とされますが、筆者のように工場の中にいて生産に関与してきたものから見るとPAにFAをも取り込んだ総合力が発揮される世界と思っています。設備があって計装技術が補完することで、安全操業や環境保全を図りつつ、生産の最適化ができるものです。
この連載の前半では機械要素や物性の経験事項を、続いて計装技術の役割を中心に述べ、後半では自動化への歩みそして人と機械の融合もしくは総合力の発揮について述べてまいりました。その中でいくつかの業界特有の特種システムの説明は割愛せざるを得なかったこと、それと電気設備の制御技術の進展は製品の量産化や品質安定に多大な貢献をしているのですが、これは筆者の経験の外であったことゆえ紹介することができませんでした。そのほかいい足りないところも多くあり、各回の技術紹介や説明はその入り口の部分に終わっており、それぞれに本来第二章とか詳細項目があります。とくに設備の自動化推進によって、省力化が押し進められ、省エネルギーや効率アップにもつながったことなどについてはまた機会があるときに述べていきたいと思います。

【コラム】水の涵養とは

森林は多量の水を貯える機能をもっており、植林を続けていくことで地中に保有する水量を高めることができます。このことを水源もしくは水資源の涵養といいます。飲料業界では水そのものが製品となるものであり、循環型製造の立場からすると製品として出荷される水を新たにどこかで確保しようということです。それで新たな植林をすることで森林が保持する水を増加させて供給と使用のバランスを取り、同時に環境の急激な変化を防止することを図っていくことができます。森林資源の確保は製紙産業が存続していくための課題であり、水資源の確保は飲料業界の課題です。河川の上流域で植林をし、下流域で水を使用することが連携した水の涵養が現実のものとなってきました。


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