エムエスツデー 2021年4月号

設備と計装あれこれ

第18回
高水準の品質保証(製品品質維持とオンライン欠陥検査)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

製品の品質維持は製造工場の最重要課題のひとつで、業界各社とも品質保守体制を長年の実績や経験に基づいて強化してきました。製造計画は同一品目だけを連続して長期間生産していれば楽なのですが、そのようなことはまずありません。基本的に生産計画は月単位で組まれるのですが、分野ごとに独特の生産管理や支援システムが作られてきました。「品質保証」とは工程の品質管理とともに各社の組織や体制のシステム化までを要求されるものです。そして具体的な品質の維持のためには検査技術が重要で、今回はオンラインで製品表面を検査する欠陥検査装置について紹介します。検査情報を原料品質に反映することや加工設備への品質伝達は、工程に欠かせないものとなりました。

品種変更と品質の維持

一般に多品種小ロット生産といわれますが、これは製造業で生産品目の多様化と少量生産に対して取られる手法で品種変更時の品質維持には特に注意が必要とされます。芸術的とさえいわれる品揃えは、当然のように長い操業経験に基づいています。品種替えを行う際には、いち早く次の目標の品質に到達維持することが必要で、製紙産業では客先ごとの仕様の違いに対応するため、原料や添加物を細かく調整して作り分けを行います。原料となるパルプは植物由来のため、毎月の同銘柄製品の品質を合わせることに細心の注意を注ぎます。抄紙工程では品種替えにともなう損失時間を少なくするために、具体的には工程内の貯蔵原料タンクを通常時の液位よりも下げて、仕掛かり中間原料を減らしていく作業があり、この自動化にも取り組んできました。生産計画は目方の軽いものから重いものへ、また原料の白色度が高い銘柄から生産を始めて、次に低いものへと移行することで色合せがやりやすくなります(図1)。そして生産計画は設備を健全な状態に保つために、系内洗浄や修繕停止計画を組み入れ、突発停止や品質トラブルを避けるように策定されます。

図1 生産計画の例 (多品種作り分け)
図1 生産計画の例 (多品種作り分け)

製紙の欠陥検査装置

シート表面検査装置は、鋼板、フイルム、製紙など連続製造される製品の欠陥を光学的に検出するものをいいます。シート状の製品が巻き取られる直前に投光器と受光カメラを配置して、製品の主に表裏面を監視して品質の向上に貢献するものです。欠陥の判別には初期設備であってもラインセンサと称して高速で流れる製品の幅方向にカメラを多数配置して欠陥の大、中、小の判定をし、とくに紙製品では透過光により穴や地合いを、反射光により黒点や汚れの区別を行うことができました(図2)。しかしその当時は欠陥発生のアラームが出ても後工程で実物を確認するまでは詳細な欠陥内容がわからないものでした。
次の段階として1980年代後半になると欠陥が発生すると同時にその検出画像を表示し、また録画を行うものが登場しました。それで欠陥の形状が確認できるようになり、最近では技術の改良を加え、欠陥の種類が異物、汚れや穴であるかの情報に、形状の特徴をとらえて重大欠点となる昆虫類をとらえることや、場合により不純物の成分種類までを瞬時に判別することができます。そしてこれらの情報は前工程、後工程で利用されます。上流に対しては、製品としては問題がないとされる微細な黒点や汚れをカウントし、規定時間毎に発生した個数を統計処理して前工程にフィードバックして、状況に応じて原料の精選工程の強化や、設備の点検を行います。また下流に対しては、マーキング、欠陥種類の伝達、欠陥位置での不良品の排除、選別作業に対する情報提供となっています。

図2 欠陥検査装置のコンセプト
図2 欠陥検査装置のコンセプト

【コラム】画像認識技術に向けて

音声認識、画像認識という言葉が最近よく聞かれるようになりました。シート欠陥検出装置に画像表示が加わったことで、品質管理情報量は相当豊かなものになりました。しかしながら初期の画像表示には誤表示がつきものでした。アラームが発生しても画像に何も表示されなかったことや、極端な例では空気中に浮遊していたものが映し出されることもありました。もちろんその後、マイクロコンピュータ等の進展でさらに高速に情報処理や判断がなされるようになってきて、90年代後半にはカメラ、判別機構ともデジタル化された結果、かつてのようなエラー発生がなくなって、システムの信頼性が向上しています。これらの経緯が基となりコンピュータ技術や処理速度向上を背景に、画像判断処理が実現して現在の画像認識技術へと繋がってきています。

飲料の世界で見る品質管理

清涼飲料業界の生産は、販売がピークを迎える7、8月に合わせて生産計画を組みます。筆者の勤めた四国の飲料会社では地産地消の考えから地域内への製品供給を網羅するためにほぼ毎日のように品種替えが行われました。飲料では品種替えの際はもちろん、同一品目が継続する場合でも24時間に一度は設備や配管の洗浄、さらに必要により殺菌工程を入れます。その間に製品容器を搬送するコンベアラインのガイド位置調整を容器形状に合わせ一斉に行いますが、これに要する時間を極小化することが生産効率の鍵となります。
飲料には三分の一ルールというものがあり、製造、販売、消費者がそれぞれ賞味期間を分けもつことをいいます。製品がひとたび出荷されるとその追跡には相当な困難がともないますので、製造工場では最低一週間の出荷待ち日数をとり、その間に製品の異常がないことや品質に問題発生がないことを確認します。工程検査では光学式検査装置も設置されているのですが、撹拌機やポンプなどの機器、軸受け摩耗などにより金属粉が製品に混入すると大問題となり、これに対してはX線検査装置が設置され万全を期しています。このように食品や飲料業界では品質の維持管理に、製紙産業以上に特別の配慮を加えています。


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