通信/ネットワーク

エムエスツデー 2015年10月号

計装豆知識

920MHz帯無線通信について印刷用PDFはこちら

920MHz帯無線通信の特徴をご紹介します。

950MHz帯から920MHz帯に

電波法の改正に伴い、従来の950MHz帯の無線通信用帯域を携帯電話で使用することになったため、代わって採用されたのが920MHz帯域です。

2012年2月に一般社団法人電波産業会(ARIB)によって、「920MHz帯テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備」の標準規格が制定され、2012年7月に使用可能になった簡易無線局と特定小電力無線局の2種類があります。それ以外に920MHz帯の標準規格では、「920MHz帯移動体識別用無線設備」の構内無線局と「920MHz帯移動体識別用無線設備」の特定小電力無線局もあります。

950MHz帯と920MHz帯との比較を表1に示します。920MHz帯になったことで帯域幅が増え、また、2012年の放送法の改正によって出力を上げることが可能になったため、送信電力が上がっています。

950MHz帯の使用期限は2018年3月31日迄となっているため、今後下記に示す分野において、920MHz帯の利用が広がると期待されています。

表1 950MHz帯と920MHz帯の比較
周波数帯 950MHz帯 920MHz帯
標準規格 ARIB STD-T96 ARIB STD-T108
帯域幅 7MHz 13.8MHz
占有帯域幅 1000kHz 1000kHz
送信電力 10mW 20mW
920MHz帯無線機の利用が期待される分野:

● スマートメータ、電気・ガス・水道メータなど(電力量・流量の測定)
● 環境モニタなど(温度・湿度・圧力などの測定)
● 工業用計測(各種モニタリング)
● 建物内の各種通信制御(空調・照明・防犯・振動 その他)

920MHz帯無線の特徴

(1)特定小電力無線の比較

特定小電力無線のテレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用の場合、免許不要*1で使用できる周波数帯域としては315MHz帯、400MHz帯、920MHz帯、1200MHz帯があります。
920MHz帯無線と他の周波数帯との比較を表2に示します。

表2 特定小電力無線の場合に、免許不要*1で使用できる周波数帯域の比較
周波数帯 315MHz帯 400MHz帯 920MHz帯 1200MHz帯
標準規格 ARIB STD-T93 ARIB STD-T67 ARIB STD-T108 ARIB STD-T67
帯域幅 3.25MHz 0.11MHz /
0.56MHzなど
13.8MHz 1MHz
占有帯域幅 1000kHz 8.5k / 16kHz 1000kHz 16k / 32kHz
送信電力 EIRP0.025mW 1mW / 10mW 20mW 10mW
デメリット 小出力のため
通信距離が短い
狭帯域のため
通信速度が出ない
狭帯域のため
通信速度が出ない
(2)920MHz帯、400MHz帯、2.4GHz帯の比較

920MHz帯には、400MHz帯や、同様に免許不要で使用でき無線LANなどで使用される2.4GHz帯と比較すると、以下のような特徴があります。

● 通信速度について:
920MHz帯は、他の帯域と比べて広い帯域を確保しているため占有帯域幅を広くすることができ、通信速度を上げることが可能です。

● 通信エリアについて:
送信電力が上がったため通信距離が伸び、通信エリアが広くなります。

● 伝送距離について:
電波の周波数が高くなると伝送経路での電波の減衰が大きくなるため、伝送距離が短くなります。送信出力と受信感度が同じであれば、920MHz帯は2.4GHz帯と比較すると約3倍の伝送距離が得られます。

● 回折について:
電波の周波数が高くなると直進性が大きくなります。920MHz帯は2.4GHz帯より電波が回り込んで届きます。

● アンテナサイズについて:
電波の周波数が高くなると波長が短くなるため、アンテナサイズが小さくなります。920MHz帯は400MHz帯と比較すると当然アンテナは小さくなります。

● フレネルゾーンとアンテナ高さについて:
電波伝搬には波長に対してある程度大きな空間が必要になります。その空間がフレネルゾーンであり、空間が障害物や反射面から十分離れていて影響が少ない場合は自由空間と見なすことができます。電波の周波数が高くなると、ゾーンは小さくなります。920MHz帯は400MHz帯と比較するとゾーンは小さくなります。また、距離を長くするとゾーンが広がるためアンテナ高さを高くする必要があります。920MHz帯の場合は、400MHz帯と比較すると当然低く設定できます。

マルチホップ無線ネットワークについて

920MHz帯を使用してマルチホップの無線システム構成が可能です。

マルチホップとは、複数の無線端末がそれぞれの隣接する無線端末を経由して、データを伝送していく通信技術です。

一般的にネットワークの接続形態のことをネットワークトポロジといいます。ネットワークが利用するトポロジには、スター型、ツリー型、メッシュ型があります。マルチホップはメッシュ型トポロジに該当し、メッシュネットワークと表現されることもあります。

ノード構成は、コーディネータ、ルータ、エンドデバイスの3種類のノード*2から構成されます。

表3 ネットワークトポロジの特徴
  スター型トポロジ ツリー型トポロジ メッシュ型トポロジ
特徴 スター型トポロジ ツリー型トポロジ メッシュ型トポロジ
中心となるノード(コーディネータ)から放射状に端末ノード(エンドデバイス)を配置した構成。端末間の通信は行わない 最上位ノード(コーディネータ)から下位ノード(ルータ)、下位ノードからさらに下位のノードへとピラミッド型に配置した構成。上位と下位の関係で通信を行う 中心となるノード(コーディネータ)に対して、中継機能を持つノード(ルータ)をメッシュ状に配置した構成
通信距離 短い 長い 長い
信頼性 低い 低い 高い
冗長性 少ない 比較的少ない 多い
遅延時間 少ない 予想可能 予想難しい
メリット 構成がシンプルである。端末ノードは常に動作不要で交信しないときは省電力が可能 ポップ通信ができる。通信ルートが確定している マルチホップ無線通信が可能。通信の信頼性を上げることができる
デメリット 1ホップだけの通信となるため通信距離が短い 中継するノードにて障害が発生した場合に通信できない。上位に行くほどトラフィックが上がる データ伝送時の遅延時間の制御ができない。冗長性が多い

エム・システム技研の920MHz帯無線対応製品

マルチポートゲートウェイ
マルチポートゲートウェイ(形式:IB10W2

920MHz帯特定小電力無線の親局モジュールと2.4GHz帯、5GHz帯の無線LANおよび有線LANモジュールを内蔵した無線ゲートウェイで、屋外使用を目的とした防塵・防滴性IP67に対応しています。920MHz帯特定小電力無線はマルチホップ無線ネットワークに対応していて、RS-485透過タイプでModbus RTUプロトコルの通信ができます。

リモートI/O R3シリーズ 通信カード
リモートI/O R3シリーズ 通信カード(形式:R3-NMW1

920MHz帯特定小電力無線の子局モジュールを内蔵したリモートI/O R3シリーズの通信カードです。920MHz帯特定小電力無線はマルチホップ無線ネットワークに対応しています。

*1 使用するにあたり免許不要であっても、製品は技術基準適合認定を受ける必要があります。
   製品には技適マークが付加されています。
*2 コーディネータとはネットワーク全体を管理するノードです。
   ほとんどの場合、Ethernetなどの上位有線ネットワークに接続されているノードで、多くの場合
   ゲートウェイの機能をもっています。ルータとは通信経路を選択するルーティング機能をもつ
   ノードで、他のノードのデータを中継できます。エンドデバイスとはコーディネータ、ルータとしか
   直接に交信できないノードで、省電力動作が可能なノードです(ここに説明しているノード名称は
   エム・システム技研が使用しているマルチホップ無線のノード名称であり、他のネットワーク
   プロトコル(ZigBeeなど)の場合には、別のノード名称が使われるため、ご注意ください)。

【(株)エム・システム技研 開発部】


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