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2004年5月号

PID制御のお話

第4回  P(比例)制御

ワイド制御技術研究所 所長 広 井 和 男 

 今回からいよいよPID制御がどのようにして生まれ、なぜ現在使用されている実用形態になったかという基本的流れを解説する本論に入っていきます。

1.手動制御の手順
 手動制御から自動制御に移行するためには、調節計にどのような機能をもたせればよいのでしょうか?
 具体的には、手動制御の場合に「人間が行う比較・判断・操作の内容をそのまま数式化したもの」を調節計にやらせるのが自然な流れと見ることができます。
 この連載で、例として取り上げている加熱炉出口温度を手動制御する場合に、人間がどのように制御するのかを追ってみると、次のような手順になります。
 手順1:加熱炉内を所定の原料が流れている状態で、燃料流量調節弁の開度を増減させて出口温度測定値を目標値に一致させ、偏差をゼロにします。
 手順2:この偏差ゼロ状態を基準にして、原料流量変化や目標値変化によって、偏差が1℃出たらこれをゼロにするために操作信号を何%変化させればよいかを決めます。そして、そのルールに従って以降の手動制御を行います。たとえば、偏差1℃当たり2%の割合で調節弁開度を調整すればよい場合の偏差 e と弁開度との関係は図1に示すようになります。これは、偏差 e の大きさに比例して調節弁開度を増減することを意味します。

2.自動制御の原点:P制御
 前記の人間が行う制御の方法を一般化して数式で表現すると、(1)式のようになります。
 MV KP × eb …(1)
 MV :操作信号 (Manipulative variable)
 KP :比例ゲイン (Proportional gain)
 e :偏差(Deviation) (=目標値-制御量:Error)
 b :バイアス
 (1)式の比例ゲイン KP をパラメータとし、偏差 e と操作信号 MV との関係を図2に示します。バイアス b は偏差 e がゼロのときの操作信号の大きさ、つまり制御の起点を与えるもので、その後の操作信号 MV は偏差 e の大きさに比例して増減することになります。比例ゲイン KP を大きくしていくと、操作信号 MV は偏差 e の変化に対して急勾配で増減するようになります。
 (1)式に示すように偏差 e の大きさに比例して、修正動作を行う制御方式をP(Proportional:比例)制御と呼んでいます。

3.P制御系の特徴
 P制御を用いた加熱炉出口温度制御系の構成を図3に示します。一般に、制御系で偏差をステップ状に変化させたとき、制御量が定常状態に達するまでに時間的にどのような経過をとって応答するかという「動特性」、また定常状態に達したとき偏差がゼロになるかどうか、すなわち定常状態で偏差が残らないかという「静特性」が制御性評価の指標になります。そこで、P制御系の場合これらの特性がどのようになるかを探ってみましょう。
 ステップ 偏差 e 0 を与えたとき、操作信号MVはどのようになるかを図4に示します。P制御の場合の特徴は操作信号 MV が偏差 e の大きさに比例して増減し、偏差 e が一定のときには、操作信号 MV は一定になることです。

4.P制御の限界
 図3に示すP制御系において、目標値を変化させて偏差 e を与えたときの制御応答特性を図5に示します。制御なし( KP =0)の場合には大きな偏差が出ますが、比例ゲイン KP を大きくしていくと、偏差はだんだん小さくなります。しかし、比例ゲイン KP を大きくしていくと、制御応答がだんだんと振動的になり、ついには持続振動状態になってしまいます。比例ゲイン KP を制御応答が振動しない範囲で大きい値に設定しても、偏差は完全にはゼロにならないでオフセット(off-set:制御を行っても定常的に残る偏差、つまり定常偏差)が残ってしまいます。このようにP制御では制御量を目標値にピッタリと一致させることができません。これがP制御の原理的な限界です。
 ここで少し定常偏差を定量的に追ってみましょう。式の導出は省略しますが、目標値だけをステップ状にaだけ変化させたときの定常偏差 eV の大きさは(2)式で表されます。
  eVa /(1+ KPK ) …(2)
  KP :比例ゲイン
  K :制御対象のゲイン
 この(2)式で、比例ゲイン KP を大きくしていくと、定常偏差eVはゼロに近づいていきます。しかし実際には KP を大きくし過ぎると、制御系のループゲインが過大になり、制御系が振動して、不安定になるため、比例ゲイン KP の大きさには限界があり、どうしても定常偏差が発生してしまいます。また(2)式によれば、制御対象のゲイン K が変化した場合にも、定常偏差の大きさは影響を受けることが分かります。
 このP制御で、定常偏差が生じる理由については、次回に詳しく説明します。■

 

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