2004年4月号

PID制御のお話

第3回  手動制御から自動制御へ

ワイド制御技術研究所 所長 広 井 和 男 

1.加熱炉出口温度の手動制御
 分かりやすくするために、どこの家庭にもある湯沸器出口水温制御の例をそのまま大形化した、産業用加熱炉出口の流体温度を制御する例を用いて説明します。図1(a)に加熱炉出口温度手動制御系の構成を示します。原料を加熱炉に入れ燃焼熱で、原料の加熱炉出口温度を80℃に加熱しようとする場合を考えてみましょう。
 まず、出口温度を温度検出器で測定し表示します。制御する人はこの温度表示を見て、目標値80℃と比較し差がいくらかを計算します。そして、この差をゼロにするにはどれくらい手動弁を操作して燃料流量を増減させればよいかを判断し、手動弁の開度を増減させます。その操作の結果を、再び加熱炉出口温度表示を見て確認し、差があれば差がゼロになるように判断して手動弁を操作します。目標値と測定値の差がゼロ、つまり目標値=測定値になるまで、この動作を繰り返します。この人間の制御動作を機能ブロックで表現したものを図1(b)に示します。さらに、手動制御系の情報の流れを図1(c)に示します。図1(c)において、情報の流れを追ってみますと、出口温度 → 温度検出器 → 表示 → 目 → 頭脳(比較、判断、操作) → 手 → 手動弁 → 燃料流量 → 燃焼 → 出口温度というように情報の流れは人間を介して一巡しています。このような制御を閉ループ制御(Closed loop control)と呼び、操作した効果を測定して次の制御信号の決定に用いる方法をフィードバック(Feedback:帰還)制御と呼びます。
 このようにして、プラントの中の制御しようとする量(制御量)、たとえば温度、圧力、流量、液面、成分などを目標値に一致させるように比較・判断し、操作することが「制御」ということになります。これを人間が行うのを「手動制御」と呼びます。

2.手動制御から自動制御へ
 現在のように大規模で、複雑化したプラントの合理的な運転は、もはや「手動制御」では実現できなくなっています。その理由としては、人間は1時間や2時間なら神経を集中して制御できますが、24時間から数百~数千時間になると持続的で良好な制御は不可能なこと、また1つの事業所で数百~数万個所の制御を実行するには、数百~数千人の操作員が必要になりますが、これはまったく現実的ではないことなどが挙げられます。これを打破するには、「人間」が制御を行う代わりに「機械」によって自動的に実行する「自動制御」にしなければなりません。
 プラントの中の制御量を目標値に一致させるように比較・判断し、操作するという制御を、人間に代わって調節計を用いて自動的に実行することを「自動制御」と呼びます。加熱炉出口温度の自動制御の例を図2に示します。図2(a)に加熱炉出口温度自動制御系の構成、図2(b)にその機能ブロック構成、図2(c)にその情報の流れを示します。
 図1に示す手動制御と図2に示す自動制御を比べると、手動制御では人間が考えて制御していた内容を、自動制御では調節計が代わって実行することになっています。このときまず問題になるのは、調節計にどのような比較・判断・操作をやらせるかということです。
 これまでの説明の流れから考えると、調節計で行う制御内容は当然のことながら「人間が行う比較・判断・操作の内容をそのまま数式化したもの」にすればよいということは容易に推測できます。

3.自動制御の必要性
 前述しましたように、自動制御はプラント運転には欠くことができず、非常に重要です。しかし、自動制御はプラント運転の目的ではなく、プラント運転の目的を達成するためのあくまでも手段です。プラント運転の目的は、企業の利益が最大になるように、与えられた製品をその品質・環境規制・納期を守って、合理的に製造することです。プラント運転の目的を達成するための原点に立ち返って考えて見ますと、不合理な点があります。本来、どのようなプロセスでも制御が不要なように設計・製作することが望ましいことです。「この温度が変化するから、一定に温度制御します」などという例が多いですが、これは温度が変化しないように、または温度が変化しても支障のないようにプロセスを設計・製作することが先決問題であると思います。しかし現実の世界では、プラントの敷地面積、立地条件などプラントを取り巻く制約条件や製造プロセス技術の問題などがあるため、このような理想的なプラントを作ることは不可能です。そこで、理想のプラントと現実のプラントとのギャップを補完することが自動制御の重要な役割であるといえます。自動制御を導入する主な目的としては、(1)限界の少人数運転、(2)省資源・省エネルギー、(3)ストックレス化・フレキシブル化、(4)均質化・高品質化・多品種化、(5)設備保護・設備ストレスの低減、(6)環境保全などが挙げられます。

4.自動制御のメリット
 最近の自動制御の動向について見ると、ユニット・プラントの自動化は当然のことであり、さらにIT(情報技術)を駆使して需要変動に対応できるフレキシブルな生産を実現しようと、工場まるごと制御、会社まるごと制御といった統合制御が進展しています。ただし、自動制御のコストパフォーマンスは、初期レベルでは良いが、ある段階を越えると急速に悪化するため、注意が必要です。自動制御のメリットは、前述の自動制御の導入目的を達成することによって、製品を合理的に製造し、企業経営の総合的視点から見て、利益を改善・向上させることです。
 世界を舞台とするこれからの激しい競争の中で、企業が永続的に発展していくためには、自動制御の絶えざる進化・高度化が必要不可欠となります。■

 
 
 
 

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