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2002年12月号

圧 力 の お 話

第6回(最終回)  真空測定法

松山技術コンサルタント事務所 所長 松 山 裕

1.真空とは
 真空は、大気圧より圧力が低い状態をいいます。その極限には絶対真空がありますが、大気圧と絶対真空の間は圧力に応じて、低真空、中真空、高真空、超高真空の4つの区分に分けられています(JIS Z 8126)。これらの区分における圧力範囲を、主な応用および主として使用される真空計とともに、表1に示します。
 真空の主な応用は表1に示すように多岐に亘っていますが、産業として見た場合は半導体・電子部品向けの薄膜形成・加工装置が金額的に大部分を占めています。また近年急速に普及してきたCDやDVDも、真空を利用して形成した薄膜による製品です。

2.真空計の概要 1)
 真空計は、全圧真空計と分圧真空計に分けられます。全圧真空計は、気体の種類を問わず全体の圧力を測定する真空計です。これに反し分圧真空計は、気体の種類別に圧力を測定します。したがって、圧力計というよりむしろ分析計です。
 全圧真空計は、さらに絶対真空計とその他の真空計に分けられます。絶対真空計とは、JIS Z 8126によると、「物理量の測定だけから圧力が求められる真空計」と定義されています。
 その他の真空計には、気体の熱伝導を利用するもの、気体の粘性を利用するもの、気体の電離作用を利用するものがあります。

3.絶対真空計
 これには液柱差真空計、マクラウド真空計、隔膜真空計があります。
 3.1 液柱差真空計
 液柱差真空計は、本シリーズの第2回(今年8月号)にて説明した液柱式圧力計と同じですが、U字管の片側を大気に開放せず真空に吸引するか、片側を封止しています。後者の場合、封止側にトリチェリの真空(第1回参照)が発生します(図1)。使用する液体には、水銀もしくは油を使用します。この真空計は原理的に簡単ですが、感度が低いので高真空用には適用できません。
 3.2 マクラウド真空計
 マクラウド真空計は、原理的には液柱差式と同じですが、測定対象の気体の体積を100~1000分の1に圧縮して測定します。すなわち圧力を100~1000倍にして感度を上げるのです。気体を圧縮するには、まず圧縮部に気体を導入し、次に水銀を下から圧縮部に押し上げ、気体を細管部に送り込みます(図2)。この状態で左右の水銀柱の差を読んで圧力を求めます。水銀を押し上げるには、図2に示す空気圧による方法と、ゴム管でつないだ水銀だめの位置を変える方法がありますが、後者は水銀が汚れる欠点があります。ほかに、装置全体を90°回転させて圧縮操作を行う回転形マクラウド真空計があります。
 マクラウド真空計は、手動で操作し目視で圧力を測定するのであまり便利ではありませんが、絶対圧力計としてほかの真空計の校正に使用されています。測定範囲は103~10-2Pa程度です。
 3.3 隔膜真空計
 隔膜真空計は、第4回で説明したダイアフラム式圧力計の片面を真空にして封止したものと同じです。圧力の測定には、一般に静電容量方式が使用されます。従来は感度を上げるため、隔膜には金属の薄い膜が使用されてきました。しかし機械的強度や温度に対する安定性などに弱点があるため、最近はセラミックやシリコンのダイアフラムを使用した製品も開発されています。測定範囲は大気圧から10-2Pa程度です。

4.熱伝導を利用する真空計
 電流によって加熱された金属の細線を気体中におくと、細線は気体分子によって熱を奪われます。このときの冷却の度合は気体の圧力によるので、熱線の温度を測定して気体の圧力を知ることができます。これはピラニ真空計の名でよく知られています。回路の例を図3に示します。熱線の温度を熱電対により測定する製品や、熱線の代わりにサーミスタを使用する製品もあります。
 この真空計は精度はあまり高くありませんが、簡単で取り扱いが容易なのでよく使用されています。測定範囲は大気圧から10-1Pa程度です。

5.粘性を利用する真空計
 気体中に小さい鋼製の球を磁気的に浮かし、回転磁場により高速回転させます。回転磁場を切ると、気体分子による摩擦(粘性)のため鋼球の回転速度は徐々に減少しますが、この減少の度合より気体の圧力を求めることができます。この真空計は、通常スピニングローター真空計といわれています。気体の種類による影響はありますが、10-2~10-5Paの範囲ではほかの真空計より精度が良いとされています。

6.気体の電離作用を利用する真空計
 フィラメント、イオンコレクタ、陽極グリットをもつ真空管の内部に測定対象の気体を入れます(図4参照)。フィラメントから出た熱電子が、真空管内の気体分子に高速で衝突し、これを電離させてイオンにします。このイオンの量は、気体分子の密度に比例するので、このイオン電流を測定して気体の圧力を知ることができます。この原理の真空計には多くの種類があり、10-11Paといった非常に低い圧力まで測定できる製品もあります。

7.分圧真空計
 分圧真空計は、排気した真空装置に残っている気体の組成を知るために使用する真空計で、残留ガス分析計ともいいます。原理的には質量分析計です。
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 今回で「圧力のお話」を終わります。記述を簡潔にしたので、説明が不充分なところがあったかもしれません。もし疑問なり質問がある方は、ご遠慮なくお問い合わせください。          ■

参考・引用文献◆ 
1)松山 裕:実用 工業計測、日刊工業新聞社(1999)

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