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2002年7月号

圧 力 の お 話

第1回  圧力とは

松山技術コンサルタント事務所 所長 松 山 裕

はじめに
 今月より「圧力のお話」を6回にわたって連載させていただくことになりました。圧力は、温度・流量・レベルと並ぶ工業分野での重要な測定量ですが、そればかりではなく、圧力測定は温度測定・流量測定・レベル測定においても重要な役割を果たしています。
 連載の予定としては、第1回に圧力の定義や単位などの概要について述べ、第2回以降に圧力測定法について説明します。今回は第1回なので、「大気圧の発見」など歴史的な話もご紹介します。

1.圧力の定義と大気圧
 圧力は、単位面積当たりに加わる力と定義されています。まず、図1を見てください。この容器に入っている液体を水とすると、密度ρは1000kg/m3です。水柱の高さhを10mとすると、この容器内の水の質量はA×104 kgです。この水の質量が地球の引力によって発生する力(重力)が容器の底面積Aに加えられますので、底面に加えられる圧力は10,000kgf/m2となります。ここでkgfは1kgの質量の物体が発生する重力をいいます。
 こうして見ると、この圧力はかなり大きいと思われますが、我々は常にこれとほぼ同じ大きさの圧力を体に受けて生活しているのです。これが大気圧であり、これは我々の頭上にある空気の質量によって発生したものです。
 現在は、毎日気象予報などで「○○ヘクトパスカルの低気圧がどことかで発生した」などと報道されていますので、大気圧の存在は常識になっていますが、17世紀までは必ずしもそうではありませんでした。

2.大気圧の発見
 1643年、イタリアのトリチェリは、一端を閉じたガラス管に水銀を満たして水銀だまりの中に倒立させる実験を行いました(図2)。このときガラス管の中の水銀柱の上に真空の空間ができました。これがいわゆるトリチェリの真空です。トリチェリは、この水銀柱が下に落ちないように支えているのは大気圧であると説明しましたが、当時の学者はこれを信ぜず、“自然は真空を嫌う”からであると考えていました(真空嫌忌説)。この説を打ち破ったのは、“人間は考える葦である”で有名なフランスのパスカルでした。
 パスカルはトリチェリの実験を追試し、さらにこのトリチェリの装置における水銀柱の高さが、山の頂上とふもとで異なるかどうか調査するように義弟ペリエに依頼しました。ペリエは1648年この実験を行い、場所が高くなるにつれて水銀柱の高さが減少することを確認しました。実験にあたったペリエとその一行は、この事実をまのあたりに見て、感歎と驚異のあまりしばし我を忘れたと伝えられています。この実験により、水銀柱を支えているのは大気圧であることが証明されたのです。なお、大気圧の存在を証明したもう一つの実験に、1654年ドイツのゲーリケが行ったマグデブルグの半球の実験がありますが、これについては説明を省略します。

3.圧力の単位
 圧力の単位には、大きく分けて重力単位系と国際単位系(略称SI)の2つがあります。重力単位系では、力をkgfで、圧力をkgf/m2またはkgf/cm2で表します。また水柱メートル、水銀柱ミリメートルという表示もあります。これらは人間の感覚にマッチしているのでわかりやすいのですが、現在の計量法には採用されていません。平成11年10月からは、国際単位系に属するパスカル〔Pa〕、ニュートン毎平方メートル〔N/m2〕、およびバール〔bar〕と、非国際単位系の気圧〔atm〕だけが一般的な法定計量単位として認められることになりました(表1)。
 パスカルは、前出のフランスのパスカルにちなんだ名称です。1パスカルの表す圧力は、つい最近まで一般的に使用されていたkgf/cm2のおよそ105分の1ですから、非常に小さい量です。そのためヨーロッパのほとんどすべての国では、バールが一般的に使用されています。1バールは約1.02kgf/cm2ですので、kgf/cm2から切り換えやすい単位です。バールは上記のように現在の計量法にも採用されているのですが、お役所の行政指導により日本ではほとんど使用されていません。このようになったいきさつについての説明は省略しますが、ご興味のある方は小著“やさしい計量単位の話”をご覧ください。
 なお、アメリカは今でもヤード・ポンド法のpsi(pound per square inch)を使用しています。したがって、先進国でパスカルをメインに使っている国は日本のみなのです。

4.圧力の種類
 通常の圧力計は、大気圧を基準として圧力を測定しています。これをゲージ圧といいますが、これには正圧と負圧があります。一方、完全真空を基準とした圧力を絶対圧といいます。大気圧は常時変動していますから、絶対圧を得るためには別途大気圧を測定してゲージ圧に加算するか、差圧計の一方の圧力室を真空にして封止した絶対圧力計を使用する必要があります。これらの圧力の種類の相互関係を図3に示します。  ■

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