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2001年11月号

流 量 の お 話

第5回  渦流量計

(有)計装プラザ 代表取締役 佐 鳥 聡 夫

1.名前の由来
 木枯しにヒューヒューと鳴る電線。冬の風物詩ですね。ところで、なぜ電線が鳴るかご存じですか。これは図1に示すように、電線の後ろに空気の渦が発生し、これが音となって聞こえるのです。
 電線に限らず、流れの中にそれを横切るように柱状の物体(渦発生体)を置くと、その両側縁部から交互に渦が剥離し、下流側に規則正しい渦列が発生します。そして、その発生頻度(周波数)は流速と物体の形状・寸法(主として断面の幅)によって決まります。この現象を理論的に解明した研究者の名にちなみ、この渦列をカルマン渦(列)と呼びます(図1)。
 カルマン渦には、高い煙突や潜水艦の潜望鏡を揺らしたりする悪影響があり、どうやってこの影響を減らすかがまず問題でした。ところが、この現象を積極的に利用した流量計が、70年代に実用化されました。

2.動作原理
 カルマン渦の周波数は流速に比例しますから、パイプの中に渦発生体を置き、発生する渦を数えれば流量が分かります。実際の渦発生体の断面形状は、渦の剥離する場所を一定にするため、図2に示すような台形がよく用いられます。渦の検出方法は、渦によって生じる力を圧電素子か半導体歪ゲージで電気信号に変えるのが一般的です。そのほか、サーミスタ式、静電容量式、超音波式などがあります。

3.渦流量計の特性
 渦流量計の長所は次のような点です。
 1)構造が簡単で堅牢
 機械的可動部がなく、定期点検が不要です。渦発生体は磨耗しにくい形状です。
 2)精度がよい
 (10mm以下の小口径を除き)指示値の1%が一般的で、流量が下がっても、積算流量精度は低下しません。
 3)流量範囲が広い
 精度を保証する最大最小流量比が、液体の場合で10:1から15:1程度あります。
 4)多種類の流体に適合
 液体、気体、蒸気と多種類の流体が測れます(ただし、超音波渦検出方式の場合は液体専用)。
 5)圧損が少ない
 渦発生体による圧損は、オリフィスによる圧損より小さい値です。
 6)パルス信号が直接得られる
 渦の数を数えているため、流量積算に便利なパルス信号が直接得られます。瞬時流量(アナログ信号)からパルス信号を作り出す方式と違って、余計な変換誤差が生じません。
 では、短所はどうでしょうか。
 1)直管部が必要
 差圧式流量計、超音波流量計と同様、流量計の上流側に口径の10倍、下流側に5倍程度、配管状況によってはさらに長い直管部を必要とします(詳細は私の運営する計装プラザhttp://www.keisoplaza.co.jp/ 参照)。
 2)振動に弱い
 流量計には、様々な外部振動が配管を通して伝わってきますが、渦検出素子がこの振動を拾い、偽の流量信号を出力することがあります。最近の製品では改良が進み、振動の影響を受けにくくなりました。
 3)脈動流の影響
 プランジャーポンプやダイアフラムポンプは、流速が周期的に変わる脈動流を作り出します。脈動と渦の発生周波数が近いと、両者が同期してしまうことがあります。脈動流は容積式流量計や渦流量計の出口にも生じますから、これらのすぐ下流側に設置するのは避けてください。
 4)高粘度流体に不適
 流体の粘度が高くなると、精度を保証できる下限流量が上がります。下限流量以下でも信号は出ますが、これにも限界があり、限界を超えると信号が消えます(詳細は計装プラザ 参照)。
 5)低流量で信号が消える
 前項の問題と関連しますが、流量がある値以下に下がると信号が出なくなります。出力が急にゼロになるので、システム設計の際注意が必要です。

4.応 用 例
 いろいろ短所を挙げましたが、弱点を避ければ渦流量計は素晴らしい能力を発揮します。150mm以下の口径であれば、比較的安価で、何でも測れる汎用流量計としての条件を満たしています。シンプルな構造であるため取付けが簡単であり、一旦うまく動き出せば後は放っておいてかまいません。
 以下、渦流量計の応用例をいくつかご紹介します。
 1)高温流体の測定
 400℃の高温で使える製品があり、過熱蒸気も測れます。オリフィスを使った差圧式流量計より測れる流量範囲が広いため、季節により流量が大きく変わる蒸気配管の流量測定には好適です。またオリフィスの場合のように、導圧管内部に凝縮水を満たす必要もありません。
 熱エネルギーを運ぶ熱媒油は常温で高い粘度を示しますが、運転時の粘度は大幅に下がるため、渦流量計が使えます。同様にして溶融プラスチックを測った例もあります。
 2)スラリーの測定
 渦発生体から渦が剥離する部分のエッジは、オリフィスのエッジと同様にシャープに保つ必要があります。しかし、オリフィスより流れの絞り具合が緩やかで、磨耗しにくいといえます。したがって濃度の低いスラリーであれば測定可能です。
 あるユーザーが磨耗性のスラリーに渦流量計を試用したところ、1年足らずでエッジが磨耗しました。このスラリーは非導電性であるため、スラリー計測に標準的に用いられる電磁流量計は使えません。そこで、渦流量計を毎年交換するのが、最も経済的な方法であると決めたそうです。
 3)信号変換器との組合せ
 渦流量計は精度がよいので、流量の積算によく使われます。流量計の出力パルスに対応する流量値は、流量計1台ごとに異なり、また一般に整数値にはなっていません。そこで、1パルス当たり100Lなどになるように、分周器で調整します(図3)。瞬時流量を表示するにはパルスアナログ変換器を用います。
 渦流量計の信号は本来パルスです。しかし、2線式DC4~20mA伝送システムが普及しているため、流量計内部でパルスをDC4~20mA信号に変えて送り出すことが多いのです。この流量信号をカウンタを使って積算表示するには、電流パルス変換器でパルス信号に再変換します。瞬時流量(アナログ信号)はパネルメータで表示するのが便利です(図4)。      ■

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