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2001年1月号

温度のお話

第9回 プラズマディスプレイパネル(PDP)

(有)ケイ企画 代表取締役/エム・システム技研 顧問 西尾 壽彦

 これまでにも述べてきましたが、ハイテク技術を駆使した成果として、世界的にも日本固有の技術分野として確立されたLCD、DVD、PDPは、その微細加工工程の中での乾燥、硬化、焼成、アニール等の熱処理がキーテクノロジーであるといわれています。我々温度計測に携わる技術者にとっては、今日では、かつての製鉄工業などの熱産業よりもはるかに身近かな産業となってきたもので、身近な日常商品になっています。すでに広く普及し、解説されてはいますが、多少温度のお話を交えてご紹介します。

1.プラズマディスプレイの原理
 大型テレビ画面として普及しはじめたプラズマディスプレイは、気体放電を用いた表示デバイスです。放電で発生する電離気体をプラズマと名付けたものです(ギリシャ語)(図1参照)。「鋳型でかたちを創る」という意味であり、放電管内にできる電離イオンが管内全空間を満たす性質をもつことがこの名前の由来だそうです。
 太陽は巨大な高温核融合炉であり、内部は完全に電離したプラズマ状態になっています。月や惑星などを除いて、夜空に輝く星のほとんどもプラズマです。宇宙はプラズマで充満しています。PDPで用いている放電は、照明用の蛍光灯の中の放電と同種のものです。正確にいえば低気圧グロー放電です。カラーPDPは、まず気体放電で紫外線を生成し、この紫外線を赤色、緑色および青色発光の蛍光材料に照射して、人間が見ることができない紫外線を可視光線にカラー変換します。蛍光体は波長変換物質といえます(表1)。レントゲン写真でX線をシンチレータと呼ばれる物質に当てて可視光に変換し、写真フィルムに撮影しているのと似ています。

2.パネル製造のプロセス
 PDP製造プロセスの詳細説明は割愛しますが、図2にその概要を示します。
 製品品質および生産歩留まりに最も大きく影響するため、メーカー各社が大変苦労し、種々工夫改良を重ねているのは「蛍光体塗布」工程です。パネルのカラー発光面である背面基板の障壁(図3、図4参照)に平行面で均一に蛍光体を塗布する技術は、蛍光体吸収波長である赤外線による蛍光体の乾燥および焼成の巧拙に大きく依存しています。図5に示した温度プロファイルも大変厳密なものです。40インチ以上の大型パネルのガラス基板としては、従来のソーダガラスや白ガラスは使用できず、高価ではあるが大変優れもののPD200という熱処理特性上、有効なガラスが使用されています。

3.PDPの普及
 35年前に発明されたPDPは、液晶やCRTと比べて輝度が低く製品寿命が短く、改良見通しも十分でないため、将来性はあまり評価されていなかった製品です。それにもかかわらず、この10年間、社会的需要・要求からフラットパネルディスプレイの研究開発・生産技術は著しく発展してきました。PDPも当初の欠点がすべて解決され、寿命、輝度、コントラスト、視野角、消費電力などについて、今やCRTにより近い画像を目標とする実用化段階にあります。液晶は小型パネル、PDPは大型パネルと需要の住み分けも明確になりました。当初は1インチ当たり4万円でも採算がとれなかったものが、最近は1インチあたり2.5万円(42インチで100万円)になっています。1インチ1万円になれば、需要は世界的に見て急拡大する見通しです。コストダウンと技術改良をうながす大量生産体制を維持できるように、大型画面の需要環境を整えることが重要な段階になりました。PDPは日本のお家芸であり、その経済的効果が楽しみです。
 表2、表3、図6はLCDとの比較、用途別開発動向、関連業界を示しています。参考にしていただければ幸いです。          ■

◆ 参考文献 ◆
1)プラズマディスプレイのすべて  内池 平樹・御子柴 茂生 共著
 工業調査会
2)PDP市場の現状と展望
 日債銀総合研 和泉 志伸 著
 日刊ディスプレイ(1997年10月号)
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