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2000年6月号

温度のお話

第3回 温度計測により他の物理量を計測する事例(2)

エム・システム技研顧問/(有)ケイ企画 代表取締役 西尾  壽彦

 2-2 熱放散量を利用した質量流量計
 白金測温抵抗体のコイル(温度センサ)に電流を流すとジュール熱が発生してコイルは自己加熱されます。図1に点線で示すA-C曲線は、センサの周囲気体または液体が静止状態にあるときのセンサ電流とセンサ抵抗値の関係を示しています。周囲の流体に流速(気体では風速ともいう)が生ずると、センサ表面からの放熱量が増加してセンサは冷却され抵抗値は低くなります(A-B曲線)。
 このように白金コイルの熱放散量が流量により変化することを利用し、流量-センサ抵抗特性(B-C目盛)の検量線を作成することによって、質量流量計や風速計が製作されています。
 測定の信頼性を高くするためには、流れが層流状態か理想的乱流状態であることが望ましく、そのために種々の工夫が施されています。
 2-3 温度のデジタル検出を利用した流量計
 深海底、地下水などに見られる毎分数センチの低流速や心臓カテーテルの血流速の測定に適している方式です。
 図2に示すように、パイプ内の上流に熱源(ヒータ)を、下流に温度センサを間隔Lで配置します。ヒータにパルス的に短時間電圧を印加すると、加熱された液体はt時間後に温度センサで温度変化として観測することができます。流れは低流速で層流であるため、図2中に示す算式によって流速を求めることができます。ヒータ加熱パルス信号とセンサからの温度変化パルス信号を、電子回路上で工夫して高い信頼性をもって検出し、両信号の時間間隔(t)を計測することにより流速を求めます。

3.濃度・純度の測定
 固体、液体、気体の温度、また融解(凝固)温度、蒸発(液化)温度など臨界状態、変態点や熱転移点を正確に測定することにより、対象とする物質の様々な性質を調べることができます。
 シリコンやガラスなどの無機物質や高分子・有機物質の純度、濃度、分子量、粘度、活性度など各種の精密な計測は温度計測 を介して行われています。
 示差熱分析に見られるように、対象物質と計測内容に応じて最適な装置を工夫、製作して、温度制御・記録を行うことにより、20世紀の新材料であるプラスチックなどの高分子材料や半導体材料に関する基礎的かつ重要な研究に大きく貢献しています。
 その中で最もわかり易い簡単な事例として、共沸点式アルコール濃度計について紹介しましょう。
 アルコールは酒、焼酎だけでなく、食品、化粧品、工業溶剤として広く使用されており、大蔵省にとっての重要な課税対象でもあります。かつては、和洋酒メーカーの工場には工場長室以上に立派な国税局検査官の部屋があり、アルコールの濃度を比重式の浮き計りで検定し、課税算定していました。
 工場では、その検査官に対し格別の応対をしていたものです。目盛の目視読み取りにおけるわずかな差違によって、工場収益は大きい影響を受けたようです。
 共沸点式アルコール濃度計は、東京通産局千葉アルコール工場をはじめ洋酒大手メーカーのアルコール工場、石油化学会社などに納入されたプラント中のインラインシステムです。
 共沸点式アルコール濃度計以前のアルコール濃度測定は、有効数字3桁目があやしい程度の精度でしたが、沸点の精密温度計測 により4桁目までの信頼性が得られ、プラントのインライン制御装置として安定稼働しています。
 一般に有機溶媒(アルコール、ベンゼン、アセトンなど)は、加熱されてその蒸気圧が大気圧と等しくなったときに沸騰現象を起こし、沸点に達します。同様に、多成分の溶液の場合には、各成分の蒸気圧の和が大気圧と等しくなったときに沸騰が起こります。
 つまり、溶媒成分の濃度比率によって沸点が異なるため、2成分溶液の沸点温度を測定することにより、含まれる成分の濃度を知ることができます(エタノール沸点曲線)。
 水・エタノール溶液で、濃度差による沸点差が約20℃とすれば、2/1000℃まで温度差を正確に測定することにより、概略1/10,000 の分解能で濃度計測ができます。
 この装置では双子セル型構造を採用しており、一方のセルで水や基準濃度(94.3%)のアルコール溶液の沸点を測定し、他のセルで未知の試料の沸点を測定し、両方のセルの温度差と成分濃度の間の検量線を求めています。この双子型セルには特殊な工夫が施され、セル内は気・液平衡が十分図られた構造であり、高感度にもかかわらず大気圧、外気温の影響をまったく受けない安定した測定を可能にしています。
 図4に示すブロック線図は通産省のアルコール工場で実用されたシステムです。毎時32klの高濃度アルコールを原料とし、配管中に設けた三方弁を用いた加水制御によって所定の正確な93.4%アルコールがつくり出されます。
 制御目標値に近い濃度の溶液を下段ループの基準溶液として沸点を測定し、本管からバイパスで導入した微量の試料を測定容器に流します。この双子セル間の温度差は2~3℃程度であり、その値を低ドリフト精密温度計測 により3/1000℃の精度で測定し、アルコール濃度を0.01%まで正確に検出しています。このアルコール濃度測定法を利用して、食酢醸造メーカーで食用の酢酸菌発酵のコントロールに活用している例があります。
 現在我々が食している食酢はサトウキビ、いも類、穀類、果実を原料として酢酸発酵されたものであり、お寿司屋さんに供給されている高濃度の酢酸が上等とされています。現在大量生産されているお酢は、空気を吹き込んだ最適な温度環境のコンクリートミキサーのようなタンク内で深部培養されています。酢酸菌はモロミのアルコールを栄養として増殖しつづけ、アルコール濃度は反比例して低下して行きます。アルコールが1%以下になると、増殖した酢酸菌は栄養が不足してふらふらになり弱ってしまいます。したがって発酵プラントでは、アルコール濃度が1%以下になったら、温度を下げて発酵を止めます。温度検出精度は2/100℃であり、アルコール濃度の信頼性は0.1%です。     ■
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