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2000年5月号

温度のお話
第2回 温度計測により他の物理量を計測する事例(1)

エム・システム技研顧問/(有)ケイ企画 代表取締役 西尾 壽彦
はじめに
 温度計測技術は本来どうあるべきか、どのような知識が必要か、どのような準備が必要かなどについては、このシリーズの後半に述べることとします。
 先ず読者に温度計測に興味を持っていただくために、近年のあらゆる科学技術の進歩の過程で、温度計測がいかに重要な役割を果 たしているかについて、多少とも認識を高めていただければと思い、比較的身近な事例を数回にわたり紹介いたします。
 したがって、温度計測をいかに正確に行うかという事例ではなく、本来の目的である計測システムについて、筆者が実用化を実施した事例を交えて記載して行きます。

1.冷凍能力試験装置(圧力計測)
 大型冷蔵庫、家庭用冷凍・冷蔵庫、ビル空調、カークーラー、家庭用空調などに普及しているカルノーサイクルによる冷凍サイクルシステムの効率の改善は著しく、かつてのムーンライト計画の省エネルギーに大きく貢献したものです。
 とくに日本の小型コンプレッサは、高カロリー、小型、耐久性、ローコストなどの点で国際的に群を抜いた技術水準といわれています。
 その構成を簡略化して図1に示します。
 このシステムはコンプレッサの冷凍能力を試験するシステムです(JISB8606)。液体が気化するときに必要なエネルギー(カロリー)を潜熱といいます。このエネルギーは液体の種類によって異なります。
我々が庭に高くバケツを振り上げて水をまくと、水が霧状になり、また水が蒸発して潜熱を周囲から奪って涼しくなることでよく知られていることです。
 この原理を利用して、潜熱の大きな冷媒(フロンガス)を閉回路中で効率よく利用したものが冷凍サイクルです。
 図1に示すように、フロンガスはロータリー型コンプレッサで高圧に圧縮されて液化され、凝縮器内は一定圧のフロン液が蓄積されます。この高温液を過冷却器で冷やし、膨張弁で断熱膨張させて噴霧状に放出します。このとき冷媒は大きな潜熱カロリーを熱面 積効率の大きな構造の蒸発器から熱を奪い、冷却したい室温空気を冷却します。
 自動膨張弁の開度を絞ると、凝縮器圧力が高くなり、蒸発器圧力が低下して圧縮比が大きくなり、全体の冷却カロリーは減少しますが、空気の温度は圧縮比にほぼ比例して低くなります。開度を広げるとその逆となります。一般 の冷凍サイクルでは一定開度の自動膨張弁が使用されていますが、大容量の冷凍庫や試験システムでは、サーボ型のPID制御が行われています。
 空気の気体状態式はファン・デル・ワールスの式が正確ですが、説明上簡易とするために、ボイルシャールの式(下記)で説明します。
 PV=RT
 P:圧力 V:=体積 T:温度
 R:普遍気体常数
 冷凍サイクルは一定閉回路であり、体積(V)は一定ですから、温度と圧力は比例関係にあります。冷凍サイクルに限らず、蒸気加熱ボイラーなど体積が一定の閉回路の熱サイクルのシステム応答の早いものでは、圧力計測を温度計測に置換することができます。冷凍サイクルにおいても、家庭用の空調機は1980年代から実用化されています。圧力センサの場合は、配管や構造内部に挿入するためにテーパーネジで気密を保つことが必要ですが、温度計測であれば、配管外壁の温度を外部断熱しセンサを密着させれば、容易に実施できる場合が多く、経済性・メンテナンス性に優れ、有効です。

2.熱式流量計(流量計測)
 流体流路あるいは流路に取り付けた温度センサに一定の熱量を電気的に与え、流体の間の熱量 の授受が流量の影響で変化することを利用し、温度測定を介して流量を測定することが可能です。これが熱式流量 計の原理です。
 流体が加熱物体から熱を奪う単位時間当たりの熱量は、その流体の質量流量 に比例します。したがって、温度・圧力補正を行うことなく直接質量流量が測定でき、熱式流量 計の特長の一つと言えます。
 従来の機械式、電磁式、カルマン渦式、超音波式流量計と比較して、特長も多く、測定方式もかなり多種のものが考案でき、目的に応じて最適な方式で優れた商品が開発されれば、かなり普及するものと期待されています。性能、機能、コスト的には、かなり多様な商品群が出現する可能性があります。トランスデューサとしての構造は、比較的シンプルで、経済性が高いことも特長です。
 2-1 キャピラリ式(毛細管)サーマル・マス・フローメータ
 図2に示すようにステンレス製キャピラリチューブの中央部に細線ヒータを捲いて、その前後の対称位 置に温度センサを設置してあります。チューブ、ヒータ、センサ全体には断熱材が塗布されています。チューブ雰囲気はアルミケース内に収納されており、室内温度と等しい温度になるように工夫されています。
 図3はキャピラリチューブ長さの温度分布曲線を示しています。
 今、流量がゼロのとき、実線で示されているように、温度センサS1とS2は等しく、温度差ゼロ、流量 ゼロの状態です。
 ガス流量が生じたとき、入口側のセンサS1は点線で示されているようにΔT1だけ冷却され温度降下します。ヒータコイル内を流れたガスは加熱されてセンサS2はΔT2だけ温度上昇します。このとき生じる温度差(ΔT1+ΔT2)はガスの質量 流量にほぼ比例しています。
 このキャピラリチューブは、流量諸特性を改善するために10cc/min以下の微少ガス流量 検出が好ましく、図2に示すように本管からバイパス(バイパス比数1000倍)された構成です。キャピラリの検出精度が1%であれば本管流量 の測定精度も1%となるよう工夫されています。
 他の測定方式の流量計と比べて性能的に遜色なく、高精度で、かなり経済性は高いものです。温度センサはチューブ外壁に密着させる構造であるため、流量 内塵換による汚れのトラブルがなく、センサが流速を妨げません。ただし細管であるため、ゴミによる目詰まりや、キャピラリチューブ全体の熱容量 の影響で、レスポンスに難点があります。 ■

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