エムエスツデー 2022年4月号

エム・システム技研のBAよもやま話

第2回
世界のBAと日本のBAの違い

(株)エム・システム技研 顧問 富田 俊郎

はじめに

第1回では「BAいろいろ」という視点でシステム構成がPA(プロセスオートメーション)やFA(ファクトリオートメーション)に似ているものの、機能やシステム応答性、運用形態がかなり異なること、また日本では海外のBAシステムと比較して、独自の発展をしてきたために、世界のオープン化の動向からかなり離れてしまったことなどを紹介しました。なかでも世界標準の通信プロトコルにより、BAの相互接続を実現してきた世界のBAシステムの流れに対し、日本では自社の製品群と自社通信プロトコルですべてをカバーする独自BAシステムを長く維持してきたため、世界のBAオープンアーキテクチャの流れに大きく遅れることとなってしまいました。図1は世界のBAと日本のBAの市場占有率を示していますが、競争原理が働きにくい状況がよく分かります。

図1 世界のBAと日本のBAの違い
図1 世界のBAと日本のBAの違い

しかしながら自前のBAシステムは維持と機能アップの継続が容易ではなく、BA専業メーカーを除くと、現在はゼネコンの清水建設BECSS/ESMARTや、サブコンの新菱冷熱sc-brainなど数社のBAシステムが、総合BAシステムとして提供されています。
日本におけるBAオープンアーキテクチャの普及活動は2000年頃からLonWorksの普及推進や、電気設備学会におけるBACnetの普及推進など、オープン化普及の努力は継続的に行われてきましたが、主要なBAメーカーが積極的にオープンシステムへ切替えはじめたのは比較的近年の動きであり、世界から見れば10年以上遅れてしまったのが現在の状況となっています。世界標準のプロトコルはBACnet、LonWorks、KNX、Modbus、HD-PLCなどがあり、その変遷を図2に示しています。

図2 ビル通信プロトコルの変遷
図2 ビル通信プロトコルの変遷

海外のBAシステムも歴史的経緯は同じ!

世界のBAシステムのメジャープレーヤーはハネウエル、ジョンソン、シーメンス、シュナイダーなどであり、1980年代頃ではそれぞれ独自のシステムとプロトコルにより通信を行っていました。当時はメーカーの違うBAシステムの相互接続はそれぞれ独自のゲートウェイを介して実現していましたが、そのエンジニアリングの困難さとコスト高は海外でも同じでした。
日本ではAzbil(旧山武)が米国ハネウエルのデジタルシステムを導入したのが最初であり、その後日本の状況に合わせて独自の機能を付加し進化していきました。大規模ビルシステムのシステム構成では、上位にホストコンピュータを置いて複数のサブシステム(空調、電気、衛生、防災、防犯)を独自ゲートウェイを介してホストコンピュータに統合するシステム構成でした。当時の主なホストコンピュータの機能はNEC、富士通、東芝、IBMなど大手電機メーカーにより提供されていました。
しかしながら1990年代にネットワーク化が進み、ビルシステムもインテリジェントビルといわれるネットワーク接続されたビルシステムへと進化しましたが、なかでも1990年代後半から進展しはじめたインターネットのビルシステムへの影響は大きく、インターネットの爆発的進展に伴ってビルシステムのアーキテクチャも劇的な変化を遂げました。2020年代では地球温暖化問題解決とSDGs実現のための新しい技術としてIoTやクラウドおよびビッグデータAIと統合されたスマートビルが、スマートシティ実現へ重要な要素として進化しています。

世界のビルシステムメーカー、デバイス供給メーカー、インテグレータ

1980年代頃の世界のBAシステムメーカー(ハネウエル、ジョンソン、シーメンス、シュナイダーなど)は、システム製品とサービスおよび保守を全部提供するビジネススタイルであり、オープンシステムには消極的でした。しかし1990年頃からはじまったオープン化の流れは次第に加速し、デバイスのみを供給するメーカーや、SCADA(中央監視用ソフトウェア)の専業メーカーなどが台頭してきて、1社でなんでも供給するビジネスモデルから、オープン接続可能な機器を使って、インテグレータがビルシステムを自由に構築できる環境が急成長してきました。一方、IOあるいはコントローラだけを供給する専門メーカーが機器のみを提供し、メーカーの異なる機器や、世代の異なる機器を含めてオープン接続可能なSCADAソフトが登場してきました。例として、カナダのDISTECH Controlsはコントローラやゲートウェイなどの機器を提供し、シンガポールのEasyIOはIO専用デバイスの提供などオープンシステムに必要な機器を供給しています。また彼らは自社用としてではなく、メジャープレーヤ―のハネウエル、ジョンソンコントロールズやシーメンスビルテクノロジーなどにもOEM供給をしています。日本ではオープンビルシステム機器(LonWorks、BACnet、Modbusなど)を供給しているメーカーの一つとして「廃形しない」ことを特長としているエム・システム技研があります。海外ではビルオープン機器を提供するSCADAは従来いろいろな製品がありましたが、インターネット時代の最先端ソフトウェア技術を駆使し、ビルのエンジニアリングノウハウを熟知しているTridiumのSCADAソフトであるNiagara4のワークベンチは、その後各社のオープン接続のデバイスを統合するツールのデファクトスタンダードとなっています。一方欧州では、オーストリアのLoytec(現在はデルタ電子)のビルシステムが、国際標準プロトコルを取入れたオープン性の高い相互接続可能なビルシステムとなっています。いずれも国際標準プロトコルに準拠することにより、標準に準拠しているすべての機器に接続可能なコントローラやゲートウェイが利用可能となっています。

図3 世界のBAオープンシステム製品例
図3 世界のBAオープンシステム製品例

【コラム】日本のビルシステムのオープン化とスマートビル化の流れ

日本のビルシステムは、従来のビルシステムの範囲を超えて地球温暖化対応やSDGs、スマートシティへの対応が要請されており、ますますその重要性が認識されてきています。
1. 相互乗り入れと統合化を可能にする国際標準に準拠したオープンビルシステム
2. 地球温暖化対応、SDGs対応、エネルギー統合のツール対応など
3. スマートシティ実現の要素としてスマートビルの役割の実現


ページトップへ戻る