エムエスツデー 2017年10月号

設備と計装あれこれ

第4回
材質の選択(性能と経済性それと経験則)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに(適切な材質の選択とは)

 プラントは多くの機械、塔槽類、配管でつながっています。それらを構成する素材の材質はどのように選択されているか、性能を維持するためにその基準はどこに置かれているかなど、非常に興味のあるところです。材料の強度は機械的な要素と化学的な要素とに大別されます。ですから一般に摩耗といったときに機械的な磨り減りと化学的な腐食とがある訳です。そしてこの両方が同時に発生することも考慮しないといけません。
 生産設備はすべて性能と経済性の背中合わせで成り立っていますから必ずしも高価な材料が使われないのは当然ですが、折角高価なものを採用しても材質不適合となって設備が破壊されたりすると元も子もありません。熱交換器の伝熱部の素材はエネルギー効率上、高伝熱品を使いたいのですが、強度、価格、加工性などを総合判断して選ばれるものです。生産設備の分野では新規開発された材料が広まることは少なく、経験と実績が重視されるところです。
 さて今回は筆者の材質に関する経験と失敗例をいくつか紹介することにしましょう。

機械的摩耗の例

 (1)アフタークーラーの水漏れ
 工場のユーティリティ設備の一つである圧縮エアはコンプレッサで大気中の空気を圧縮して作られます。加圧されたエアは高温になりますので、熱交換器を通して冷却しますが、通常水を冷却媒体とします。冷却後に各種用途に分岐していき、計装用エアは更に脱湿装置により含まれる水分を落とします(図1参照)。コンプレッサの後に設置されるので、通常アフタークーラーと呼ばれる熱交換器では伝熱材料に銅が多用されます。銅は鉄(ステンレス)に比べて10倍以上の高い熱伝導率を誇り空気と水の熱交換には多く用いられます。
図1 計装エア系統図  さてある年の正月のこと、工場は運転を休止しエアコンプレッサも停止させました。一方冷却水はポンプのシール水にも使われますので、通常工場が止まっていても運転されます。正月明けに工場に出てみると、なんと計装エア配管から大量の水が出ていました。初めは見間違えたかと思いましたが、調べてみるとアフタークーラーの伝熱部が破損してそこから水がエア側に入り込んでいました。エア圧は水圧よりも高く通常運転中には、起こりにくい現象です。破損の原因の一つとして銅は柔らかいため強度不足が考えられますが、熱交換器の設計は機械強度を考慮して伝熱面の厚みを決めていますので、材質選択の間違いとはいえないところがあります。しかしながらそのときは熱伝導よりも強度を考慮して部材をステンレス(SUS)に変更して対処しました(この事故の時に幸いであったのはエアの末端細管までは水が到達していなかったことでした)。

【コラム】ユーティリティ設備

 一般にプラントのユーティリティ設備には、まず電気それにスチーム、用水、エアなどがあります。スチームは生産工程で加熱用として使われますが、ある程度の規模の工場になると蒸気タービンで自家発電を行ってから工場の工程に供給してエネルギーコストを改善します。用水はもちろん生産の原料として使われるものですが、設備的には冷却水やシール水という役割があります。圧縮エアは製品の工程間移動や加圧、掃除に使われると同時に計装用機器や制御信号として使われてきました。エアは圧縮すると含まれていた水分が露出して水滴となり、計装機器の腐食や誤動作となります。この防止にエアは加圧後に脱湿装置を設け水分を除去します。

 (2)石灰泥(スラリー)による摩耗
 製紙工場のKP設備には苛性化といわれる石灰の再生工程があり、ここでは石灰泥による配管の摩耗の課題があります。ステンレスは一般に酸には弱いがアルカリには強いという性質をもっています。それで化学的な適性はあるのですが、いわゆるスラリー流体はステンレス管、とくに制御バルブの弁体などを削っていきます。ここでは定期的にメンテナンスを加えるという作業が欠かせません。肉盛り加工はバルブの本体を同一原料により溶射して復元し、その後旋盤で研削して再生させるものです。かつてはこのような方法で補修することがいわば常識でありました。現在は人件費の高騰もあり必ずしも最適な手法といえないかもしれませんが、壊れたら交換するのではなく、生産効率と修繕費用のバランスを見ながら行っていくのがメンテナンスといえます。

化学的腐食の例

 化学的な摩耗は時に腐食とも呼ばれ、流れる流体との不適合は急速に材料を溶出させ設備の破壊へとつながります。塩素系の腐食摩耗の事故を2例紹介します。

 (1)塩酸とステンレス
 塩酸はボイラーの純水装置などに使用されます。図2は一般的な電磁流量計の配管組立図で、そのアースリングに通常のステンレスを使用したために塩酸に腐食されたものの写真が図3です。
 電磁流量計を購入するときは流れる流体の性状をメーカーに伝えメーカー側は管内壁、電極、アースリングの材質を選定します。アースリングは配管が樹脂(ライニング)の時にはノイズ除去のために必ず設けますが、そのアースリングだけ材質を間違えたためにこの事故は起きました。運転開始後2か月程でフランジから塩酸が漏れ出したのが発見され対処し事なきを得ましたが、塩酸とステンレスは材質不適合の代表とされるものでした。
図2 電磁流量計とアースリング / 図3 アースリング(SUS)の塩酸による腐食

 (2)金属チタンと乾燥塩素
 チタンは地殻中に比較的多く存在し、軽量ながら強度もあり、熱伝達率も良好であるため工業的に多用され、またゴルフクラブや家庭品にも使われるようになりました。製紙産業では漂白工程の耐塩素用の配管に使われます。ただしここで使われる塩素は湿潤塩素といわれ、チタンは非常に安定した材質として扱われます。しかし乾燥塩素に対してチタンは激しく反応するため通常の鋼管(SGP)を使用するもので、チタンはこの場合材質不適合となります。これは特殊な例ともいえますが、材質選択には事前の実地確認が重要とされる所以です。


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