エムエスツデー 2017年7月号

設備と計装あれこれ

第3回
油圧の基本(特徴と役割)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

図1 油圧が使用される機器の分類  油圧は大変便利なもので、これがなくては近代的な生活を支えることができません。油圧ジャッキを用いると、いとも簡単に重量物を持ち上げることができ、最近では青森県弘前城の石垣改修のためにお城ごと油圧で持ち上げ別のところに移動するということでも話題になりました。
 油圧の応用箇所は極めて幅広く図1にその概要を示しました。生産機械、建設現場、輸送や搬送機器などに分類されます。また航空機では操舵に使われますし、自動車では日頃お世話になっているパワーステアリングがあります。ある程度の年輩者であればかつて車庫入れなどのハンドルの切り回しに苦労したのを覚えておられるでしょう。航空機の操舵にしても自動車のパワステにしても、近年電動式と併用されているものが実現されてきていますが、基本の油圧がなくなることはないでしょう。
 さてプラントを動かす動力源は油圧のほかに電気、圧縮空気などがありますが、それぞれに特徴と役割があります。油圧についていえばその特徴は高圧、確実、コンパクトの3点に集約されます。油圧はパワーがあるというのはよく知られたことですが、それと同時に動作が確実に行われるということが大切な要素です。また油圧はエアと異なり非圧縮性流体の特徴を生かし油量調節による速度変更が容易です。

油圧機器の応用例(製紙工場では)

 プラントの例を製紙工場で見てみますと、重量設備の昇降や回転、ロール加圧それと仕上げ加工の分野で紙製品の移送などに多く油圧機器が用いられています。その中でも特徴的といえるのは製紙の主要プラントである抄紙機のワインダーで、ここではリールで巻き取られた親巻から小巻へと生産加工します(図2)。 図2 ワインダーを中心とした抄紙工程の流れ 図3 ワインダーのタイムスケジュール リールで親巻き1本が、たとえば50分程度で巻かれたものをワインダーでは10分おきに小巻を取り出し、コンベアに払い出しますが、ここでは取り卸しに伴う諸作業の時間を見ないといけません。そのためリールでの巻取りスピードよりも、ワインダーでの最高スピードはそれよりも倍程度の速さが要求されます(図3)。抄紙機はリールまでは連続生産であり、ワインダーで小巻に巻き替えるところから非連続(ロット)生産へと移行します。ワインダーには小巻の巻き締め制御を行うライダーロールの圧力制御があり、巻き径に応じて細いときは油圧を強く、巻き径が太くなってくると弱めていきます。この連続的に変化する油圧制御が主眼であることに加えて、取り卸しやニップガードなど各所に油圧を用いていますが、これは重量物の移送に伴う時間を短縮してデューティを確保するためといえます。

【コラム】デューティとは

一般に加工や物流で設備の処理能力が十分か否かを判断する際に使われる指標にデューティ(管理)があります。たとえば自動倉庫を計画するとき保管棚数に対して入出庫クレーンが処理可能かどうかを判断する際に使われ、検討に基づきクレーン台数を決定します。平置き倉庫でも同様でフォークリフトが処理する倉庫内の移動範囲を計画する指標となります。製紙工場のワインダーは抄紙工程で重要な位置にあり、小巻を巻いて払い出す工程時間が抄紙スケジュールに間に合うかを判断し、処理が間に合わないときは1台の抄紙機にワインダーを2系列設けることもします。

便利な油圧だが危険と隣り合わせ

 述べてきましたように油圧機器は工場や物流などでなくてはならないものですが、油圧には危険が伴うことを筆者が経験した事例からいくつか紹介します。

 ①エア抜きを十分にしないと:試運転の前に油圧シリンダー内のエア抜きを十分に行っておかないと押し戻しといわれる現象が発生して確実な動作となりません。
 ②試運転時に突然動き設備を壊す:油圧装置を構成する要素として自動シーケンスがあります。ロジックチェックや逃がし弁の圧力設定などを実運転前に入念に行いますが、これらに誤りがあったりすると、試運転時に設備を壊すことがあります。
図4 ワインダーと小巻搬送  ③自動運転中には:当然ながら自動運転中のリフターやローダーなどの搬送機械に安易に近づくことは危険です。自動シーケンスはいくつかの条件成立を待って次の工程に移行します。条件の成立を待っているのが通常の範囲内であるのか、そうではなく異常事態が発生した場合では原因が取り除かれると自動運転が突如再開することを予想しておかないといけません。図4にワインダーと小巻搬送の写真を載せました。自動化の進んだ設備であっても手作業が絡むところでは突然リフターなどが動き出すことがないように、これらの起動ボタンは人が押すことが普通です。このような異常時のことを十分に予測した設計が求められます。
 ④設備停止時の作業で:建設現場では油圧ジャッキが多く使われますが安易に用いて重量物が突如バランスを崩して落下するという事故がよくあります。また生産現場ではメンテナンスや設備休転中に、通常運転時には問題の起きないものが、修繕作業時に思いも寄らない動作が発生して災害に結び付くということがあります。

 油圧などを用いる自動機械に対してのあらゆる作業は何よりも基本に忠実にあるべきということです。電源の入り切り、足場の確保、万一誤作動が発生しても人が挟まれることがないように処置するなどの配慮が必要です。便利なものには表と裏があることを知り、安全対策などに細心の注意を払いたいものです。


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