エムエスツデー 2006年4月号

工場通信ネットワークのお話

第4回  FA用のフィールドバス

NPO法人 日本プロフィバス協会 会長 元 吉 伸 一

 前回はフィールドバスと一般のコンピュータ通信および工場内のアナログ伝送を比較し、その特徴を説明しました。

 フィールドバスは製造現場で使われるデジタル通信ですが、製造業の業態にはFA(Factory Automation)とPA(Process Automation)の2種類があるため、フィールドバスもFA用のフィールドバスとPA用のフィールドバスに分類できます。

FAとPA

 一般に自動車、電機など、部品を組み立てて製品を作る産業を加工組立産業といい、そこでのオートメーションはFAと呼ばれます。また、石油、石油化学、化学、鉄など、原料の品質を変化させて製品を作る産業は素材産業であり、そこで利用されるオートメーションをPAといっています。

 ただ、この定義はあいまいなところもあり、素材産業の現場でも、FAを使うアプリケーションはありますし、また加工組立産業の中でもPAの領域はあります。

 フィールドバスに限ると、現場機器は、(1)2線式伝送、(2)本質安全防爆の機能を要求されることがあり、この要求に対応できるフィールドバスをPA用フィールドバス、そしてそれ以外のフィールドバスをFA用フィールドバスと考えてよいでしょう。

 PA用フィールドバスについては次回に説明する予定ですので、今回はFA用フィールドバスについて詳しく見てみたいと思います。

フィールドバスを使うメリット

 FA用フィールドバスには、どのような機器がつながるのでしょうか?

 例を表1に示します。ここに挙げたのは一例であり、フィールドバスに接続できる現場機器はほかにもたくさんあります。

表1 フィールドバスに接続される機器の一例

コントローラ PLC、PC、DCS
検出端 各種センサ(以下は例)
  光電センサ、近接センサ、 バーコード、エンコーダ、 距離計、重量計、
  ブレーカ、電力計
操作端 インバータ、サーボ、バルブ、電磁弁、モータスタータ
システム ロボット、工作機械、温調計
その他 リモートI/O、HMI、ゲートウェイ、アナライザ


 アナログ伝送の場合と比べ、現場機器をフィールドバスでつなぐメリットとして、次の点が挙げられます。

 1) 1本のフィールドバスに複数の機器が接続できる。また、1つの機器から複数の信号を通信できる。時には、1本のバスで数千点の信号を通信することができる。したがって、1信号を送るのに1対のケーブルを使うアナログ伝送に比べて、省配線が実現する。

 2) フィールドバスでは、データはデジタルデータとして伝送される。コントローラはCPUを使ってデジタル演算しているため、アナログとデジタルの変換作業がないフィールドバスの方が正確にデータを通信できる。

 3) 現場機器もCPUを内蔵し、多機能化の傾向がある。そのとき、機器の運転状態を指定するため、パラメータ設定が必要になる。フィールドバスを使えば、メインの信号だけでなくパラメータの読み書きを同時に行うことができる。

 4) 同様に、現在の現場機器は自己診断機能が充実してきている。フィールドバスを使えば、自己診断の情報(どこが壊れたか、もうすぐ何の交換時期がくるのかなど)をいちいち現場に行かなくても監視できるようになる。

 お客様の話を聞くと、フィールドバスを導入する第一の目的は、省配線であることが多いようです。現場機器とその信号がたくさんあるなら、信号の点数はすぐ数百に達します。その結果、PLCのI/Oカードが増え、端子台が大きなスペースを取り、配線チェックに工数がかかるなどの問題点が出てきます(図1参照)。

 フィールドバスを使うことによって、これらの問題点は解決できます。また、改造などで信号が追加されても、フィールドバスの仕様の範囲内であれば、ケーブルを増やすことなく、簡単に増設できます。

 FA用フィールドバスでは、省配線のメリットをPA用フィールドバスよりアピールできることが多かったようです。このため、フィールドバスの導入はFAの方がPAより進んでいるというのが、業界の一般的な意見となっています。

 最近では、省配線だけでなく、パラメータ設定、自己診断機能の表示・設定がフィールドバスのメリットとして理解されつつあります。現場機器は工場のあちこちにたくさん設置されていますから、これを一つ一つチェックするには、大変な労力を要します(中には簡単にチェックできない場所に取り付けられている機器もあるでしょう)。したがって 、これらの機器をPCなどを使って一括してチェック・設定できれば、保全・運転作業の効率化に大きく貢献できると考えられます。

図1 フィールドバス採用による省配線の例

オープンなフィールドバス

 たくさんのメリットがあるフィールドバスですが、ユーザーの立場からすると、どこの会社のどの機器でも、問題なく簡単にフィールドバスにつながる方が良いわけです。

 ところが、フィールドバスは何種類かありますし、デジタル通信ですから、プロトコル(通信規約) が違う機器同士では簡単に接続できません。  とすると、フィールドバスの中でも、できるだけ多くの種類の機器が接続可能なフィールドバスほどユーザーにとって、メリットが大きいと言えます。

 これは、一昔前のビデオテープにおけるVHSとベータとの戦いみたいなものです。同じような戦いと淘汰を経て、たくさんあったフィールドバスの種類もいくつかのメジャーな(またはオープンな)フィールドバスへと集約されています。

 現在日本の中で、オープンな汎用のフィールドバスと認知されているのは、PROFIBUSDeviceNetCC-Link の3種類になったといってよいでしょう(“汎用”の反対に、専用のフィールドバスもあります。たとえば、接点入出力にほぼ特化したフィールドバス(デバイスバス)、回転機器の制御に特化したモーション制御用のフィールドバス、さらには安全アプリケーション向けに特化したフィールドバスなどが挙げられます)。

 3種類の主要なフィールドバスについては、それぞれ特色がありますが、本稿ではその詳細仕様を説明する余地がありません。興味のある方は、フィールドバスをサポートする各協会のホームページを参照してください。また、これら3種類のフィールドバスをサポートすれば、全世界のユーザーからの地域的・機能的な要求をほぼカバーできるということで、3つの協会すべてに加入しているベンダーが相当数いることもご理解ください。

FA用フィールドバスの選定ポイント

 先ほど述べた“接続機器の種類の豊富さ”は当然の条件として、複数存在するフィールドバスを選定するポイントは何でしょうか?

 現在では、多くの会社のPLCが、1つだけでなく、異なった種類のフィールドバスをサポートしています。したがって、どのフィールドバスを選んだらよいかのポイントは、使用するアプリケーションによって、考慮すべきでしょう。一般に次の要素が検討対象になります。

 1. データ更新のスピードは十分か?
 2. 必要な種類のデータを、十分多く伝送できるか?
 3. 十分な距離を伝送できるか?
 4. 簡単にシステムを構築できるか?
 5. 実績とか、普及に問題はなく、今後もサポートを期待できるか?
 6. 今後のプロジェクトにも生かすことができるか?
 7. 価格は満足できるか?
 8. その他、敷設条件など

 今回はFA用フィールドバスについて主に説明しました。次回はPA用フィールドバスについて、説明したいと思います。

◆ 参考 ◆
• CC-Link協会(CLPA)のURL:http://www.cc-link.org/jp/index.html
• ODVA(Open DeviceNet Vendors Association)日本支部のURL:http://web.kyoto-inet.or.jp/org/odva-j/top/top.html
• 日本プロフィバス協会のURL:http://www.profibus.jp/

 


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