エムエスツデー 2006年6月号

データロガー今昔

第4回 コンピュータ制御の台頭

 1960年代後半から1970年代前半に時代を遡ってみましょう。日本が工業製品の生産と国民総生産において世界の仲間入りをした時代です。この時代に活躍したのが“コンピュータ”によるプロセスのオートメーション化でした。信頼性が向上したコンピュータがあらゆる分野で実稼動し、その便利さが工業生産の中に認められた時代です。

 この時代には、工業計器に代表されるアナログ制御装置では実現不可能である高度な制御演算や大量データの処理などが、デジタル技術による計測自動制御によって実現されていきました。この頃、コンピュータによって未知のプロセス制御を行うために、若い技術者は日夜勉学と実践に努力しました。

 コンピュータによる自動制御装置はDDC(Direct Digital Control:直接計算機制御)と呼ばれ、コンピュータで演算した値を使って、アナログコントローラを介さずにプロセスの操作量を直接制御する方式が取り入れられました。

 DDCは、工業計器メーカーである横河電機(YODIC500/600)、北辰電機(D/DACS900)、山武ハネウエル(H20)から、石油精製や化学工場などに納入され稼動しました。この実績に伴って、本稿の第3回で紹介したDCSや総合計装システムの基礎となるハードウェア技術、ソフトウェア技術が発達しました。ソフトウェアによるコントローラ(PID制御)や演算器(四則演算・補正演算など)を機能別にプログラム・モジュール化(現在の言葉でオブジェクト化)し、各モジュールの機能仕様を空欄記入式のプロセス問題向き言語(Problem-Oriented Language、POLと略)によって定義する技術は、今日でもエム・システム技研のMsysNet計器ブロックで使用されています。

コンピュータ制御の特徴

 DDCのシステム構築では、1台のコンピュータで数百の高速制御ループを実現する必要があり、リアルタイムOSや経済性・信頼性の向上を目指した各種の機能が開発されました。

 大量のデータ処理:

 コンピュータ制御は当時高価なシステムであり、1台のコンピュータで制御する演算ループ数を数百ループにすることにより、1制御ループ当たりの単価を引き下げる努力が払われました。

 高度な演算:

 コンピュータ制御では、アナログ制御機器では不可能であった多変数を扱う複雑な制御演算が可能になり、計装エンジニアは次々と理想的な演算を開発し、鉄鋼・石油・石油化学において高品質な製品を低価格で生産する基礎になりました。

 信頼性、二重化:

 DDCは、1台のコンピュータ(CPU+周辺制御機器)にて数百ループの自動制御を行うため、システムの信頼性向上が最重要課題でした。プロセス入出力装置とCPUの二重化を実現し、システムの信頼性を向上させました。DDCの二重化システムには、ホットスタンバイといわれる方式が多く取られました。これは、2台のCPUがまったく同じ制御演算を行い、実出力中のCPUが故障すると即座に待機中のCPUがバックアップするという方式です。CPUが切り替わっても、プロセスに出力する操作量については連続性が保たれました。

 表示・操作(HMI):

 操業を行うオペレータにはDDCによる生産は非常に不安でした。そこでDDCによってプラントが制御されているにも関わらず、パネル計器を使ってDDCによる演算結果の表示およびDDCへのパラメータ設定・手動操作などができるように考えられました。

計算機制御とロガー

 1970年に大阪で開催された万国博覧会の各パビリオンの空調制御に、北辰電機のプロセス用コンピュータHOC700システム(図1)が使われました。HOC700は基本データサイズが16ビット、ロジックにMSIを使い、主記憶はワイヤメモリ、メモリ容量は16KW(32KB)で、クロックは3MHzです。万国博覧会での役割は冷凍機の台数制御と温度監視データの記録(日報)です。熱電対入力:数点、状態入力用Di:20点、制御出力用Do:20点、LED表示機用Do:50ビット、操作卓、プリンタにより構成され、当時の金額で2000万円超でした。

 このシステムをエム・システム技研の計装部品を利用したパソコン計装に置き替えると、SCADALINX HMIソフトウェア、リモートI/Oおよびエンベデッドコントローラの組合せで構築した場合、機器定価は約500万円(エンジニアリング費を除く)です。使い勝手の良さ、貨幣価値を考えると隔世の感があります。

図1 HOC700システム((株)北辰電機製作所製)

SCADALINX は、エム・システム技研の登録商標です。

【(株)エム・システム技研 開発部】

 


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