エムエスツデー 2019年4月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 今年1月の或る小春日和の土曜日(1月19日)に、急に思い立って奈良の興福寺へ行くことにしました。それは去年の10月に興福寺の中金堂が完成し、落慶法要が行われたというニュースが流れていたのを思い出してのことでした。正午過ぎに興福寺の隣にある国宝館の前の駐車場に車を止めて外に出てみると、正面に真に色鮮やかな朱色の古代建造物が現れました。500円を払って堂内に入ると、中央に金色に輝く巨大な釈迦如来像が安置されていて、その周りを守る四天王が恐ろしい顔をしてきつりつしていました。
 その次の週の木曜日(1月24日)エム・システム技研の関東支店へ行く目的で東京行の新幹線「のぞみ号」に乗り込みました。座席に座ると、目の前に持ち帰り自由の月刊誌「ひととき」(図1)が新しくなっていたのを見つけ、手に取ってみますと、何とその表紙の写真が興福寺の中金堂であり、中の記事には「ここから始まる奈良と藤原氏」と題した興福寺の特集記事が多くのページを飾っていました。
図1 「ひととき」2019年2月号表紙
図1 「ひととき」2019年2月号表紙
 中金堂の中は思ったとおり撮影禁止になっており、持参したカメラは外観を撮ることしかできず恨めしい限りでした。今ではルーブル美術館でも、“NO FLASHの撮影はOK”になっているのにと思いました。
 新幹線の品川駅に着くと、高輪口と港南口を結ぶコンコースの両側にずらっと並んでいるフルカラーのグラフィックパネルに、何と興福寺の中金堂の影像が現れました。思わず立ち止まると、続いて見なれた興福寺の五重の塔が現れ、そして「行こう奈良」と大きな文字が現れました。世の中に偶然というものがあるとすれば正に偶然の出来事といっても良いのではないかと思いました。翌日再び品川駅の改札口を入ると大きなポスターが貼ってあり、それも「行こう奈良」の文字と共に興福寺の中金堂と五重の塔の風景が大写しになっていました。

図2 エム・レスタ®
図2 エム・レスタ®
 1400年の昔から見ればつい先日と言いたい1972年(今から47年前)に、エム・システム技研は工業計器の中でも変換器だけを製造販売する会社として誕生しました。ちょうどその頃は電子管式に替わって全電子式の工業計器がようやく主役の座を手に入れて大規模計装が普及し始めた頃で、4〜20 mA DCのアナログ信号を扱う変換器やコントローラが、雷サージを受けて機能を失って困っている水道局の方々を多く見受けました。「この問題を解決すると創業資金が手に入る」と思い、エム・システム技研が最初に手掛けたのが電子式計装機器専用の避雷器「エム・レスタ®」(図2)でした。その優れた避雷効果が日本国内各地の水道局の方々に評価され、次々と市場を獲得して、これが「創業製品」となりました。現在でも毎月5000台以上の出荷が続いています。

図3 37年前のエム・ユニット(透過写真)
図3 37年前の
エム・ユニット
(透過写真)
 エム・レスタ®とほとんど同時に開発設計を始めたのが、電源を入れたまま着脱できるプラグイン式変換器「エム・ユニット」(図3)です。当時のどの計装機器メーカーの変換器も、大形の弁当箱くらいの大きさで、中身はゲルマニウムトランジスタの増幅機能に工夫を加えて、いわゆる「チョッパーアンプ」が主役の部品点数の多いものでした。半導体が急速に進歩したお陰で、その頃にはフェアチャイルド社製のオペアンプと呼ばれるアナログ式ICが安価に入手できる段階になっていました。そのオペアンプで変換器回路を設計し、オムロン製のオクタルベースのソケットに差し込む形で取付ける、握りこぶし大のエム・ユニットが誕生しました。私が初めて作成したエム・ユニットのカタログが古いファイルから出てきたので、大切に保管しています。そこには0~10mVを4〜20mA DCのアナログ信号として扱う変換器やコントローラに変換する変換器や、入力と出力を電気的に絶縁するアイソレータなどのほかに、PT変換器やCT変換器が並んでいます。
 その頃の計装機器と呼ばれるカテゴリには、電力関連の信号変換器は含まれていませんでした。交流の電圧信号や電流信号は可動コイルのパネルメータの領域で、電流変換器、電圧変換器を始め、電力変換器などはトランスデューサと呼ばれていて、計装機器とは一線を画したものでした。しかし集中管理をするデータロガーには、ポンプ設備など多数の電流信号が項目として数多く挙げられていましたが、どういう訳かそれらは「重電メーカーの守備範囲」だと考えられていて、計装機器メーカーの品揃えの中にはありませんでした。
 エム・システム技研では、電力関係の信号変換器も当然計装に不可欠なものと考えていたので、それらを「変換器シリーズ」に加えていました。その結果、PT変換器、CT変換器は同等品が市場にないこともあり、売れ筋でした。今でも毎月1500台以上を出荷しています。

 その後エム・システム技研は「変換器の専業メーカー」としての道を行くのですが、「よくもここまで」というほど各種の機能・形状と入出力の変換器を取り揃えて、急成長を遂げてゆきました。
 電力トランスデューサも、電圧、電流、電力、周波数と品揃えを進めてきたのですが、全てアナログ回路技術によるものでした。
 2000年頃だったと思うのですが、高機能な12ビット出力のADコンバータを内蔵した、高速演算が可能なワンチップマイコンが市場に現れ始めました。そのことは、電力計測の分野にも強烈なインパクトを与えました。それは何と、単相交流であれ三相交流であれ、瞬時の電圧値と電流値とを掛算することで瞬時の電力値が得られます。ワンサイクルの交流電圧と交流電流を、それぞれ64回ADCサンプリングをして電力値を算出し、それの64回分を合計することで交流の電力信号を得るというものです。それは正に交流信号の瞬間瞬間を直流信号ととらえ、それを高速にサンプリングして演算することで、電力諸量を瞬時に算出する「マルチ電力トランスデューサ」の誕生です。
図4 電力マルチメータ 54U2
図4 電力マルチメータ
54U2
 三相3線式でも三相4線式でも原理は同じで、各相の電圧、電流のほか、有効電力、無効電力、力率、周波数、有効電力量、無効電力量、位相、デマンド電力、デマンド電流、各計測項目の最大値、最小値、ひずみ率、基本波実効値、2、3、4〜31倍の各高調波含有率など、428項目の計測値を算出してネットワークを通して上位に出力します。もちろん入力信号は三相電源の電圧と電流です。アナログ信号出力としては4回路あり、41の計測値から選択した4項目のアナログ信号を、出力端子に割り当てられます。またアナログ出力に代って上位通信用ネットワークとしてModbusを採用しました。この万能ともいえる「マルチ電力トランスデューサ」は、「L53U」という形式で商品化しています。このマルチトランスデューサに液晶表示機能をもたせ、「電力パネルメータ」の体裁に設計されているのが「電力マルチメータ」「53U」「54U2」です。53UはDIN規格に基づく96角で、54U2図4)はJIS規格に基づく110角です。

図5 くにまる®エコ
図5 くにまる®エコ
 表示機能の代わりに920MHz帯無線出力機能を組込んだものを「くにまる®エコ」(図5)というブランド名で商品化しています。これらのネットワーク商品は、分散配置されている受配電盤から発信された電力信号をくにまる®親機で受信することで上位のコンピュータに送り込み、電力の集中管理を実現する目的で開発した

 このようにしてエム・システム技研は、計装用アナログ信号の変換器から電力トランスデューサまで実現可能な変換器をことごとく商品化して、お客様のお役に立とうとがんばって参りました。
 さあこれからどんな変換器が現れるのでしょうか。どうぞお楽しみに!

奈良 興福寺 中金堂

(2019年4月)


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