エムエスツデー 2018年4月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 早いもので、エム・システム技研が「創立45周年記念日」を迎えてから、もう一年が経ちました。そして、ここ数年の営業成績が過去最高を更新し続けていることをご報告できるのは、大変うれしいことと存じます。
 今では、「注文すればすぐ手に入る汎用工業計器メーカー」とご理解いただいているエム・システム技研の創業商品は、実は電子式計装機器専用避雷器「エム・レスタ®」だったのです。創業の頃は、計装機器は計測信号の長距離伝送が可能な4~20mA DCを統一信号として用いた大規模計装システムが登場し、日本の高度経済成長が加速していた時期に当たります。そして4~20mA DCの統一電流信号が広く普及するに従って、信号発信器や受信計器が、それらを結ぶ伝送ケーブルに発生する雷サージを受けて、内部の半導体が機能を失うという被害が目立つようになっていました。もちろんその頃には、すでに「避雷器」という言葉も、それを造っているメーカーも存在していましたが、私の見たところ、「雷被害」は全国各地の水道局の計装システムで特に目立っていました。少し解説じみて恐縮なのですが、ケーブルを100メートル、200メートルと延々と引き廻して、貯水池の水位や送水流量の信号を中央監視室の計装盤まで配線してきて、記録計やデータロガーに接続していましたので、10キロメートル先、20キロメートル先に発生した落雷でも、その雷電流によって発生したサージ電波が、引き廻されたケーブルに電磁誘導の形で高電圧を発生させるので、これにより計装機器が破壊されるのは仕方のないことと受け止められていました。しかしながら当時の避雷器は、極性のある直流信号に対応したものにはなっていなかったので、既存の市販の避雷器を取付けても計装機器を保護することはできませんでした。そこでエム・システム技研は「極性のある避雷回路」を考案し、それを収納した避雷器「エム・レスタ®」を商品化して売り出しましたが、ほとんどのお客様は極性のない避雷器での失敗を経験しておられたのでしょう、「エム・レスタ®」の避雷効果を直ちには信用していただけませんでした。そこで考え出したのが、避雷効果を実感していただける「エム・レスタ®デモトランク」でした。
 そのデモトランクの回路構成は図1のとおりで、100V ACから昇圧整流回路を通してオイルコンデンサ(8μF)に約800Vまで蓄電して、それをサージポイントに放電させるというものです。変換器のところに金属皮膜抵抗をつけて「エム・レスタ®」を外してサージポイントに放電すると、大きな音を立てて金属皮膜抵抗が壊れるので、このデモトランクのことを「パチトラ」という愛称がついて利用されました。もちろんポテンショメータから変換器、避雷器を通して指示計に信号を送る動作をさせた状態で、同様にサージポイントに放電させても、指示計の針がピクッとするだけで、ほかには何も起こりません。実際に現場に「エム・レスタ®」を取付けることによって、今までのように雷が発生する度に発信器や受信計器が動かなくなるという事故は無くなりました。その結果、日本全国の水道局にその効果が認められて、それから45年経った今でも毎月約5000台のご注文をいただき、エム・システム技研の出荷が継続しています。まさにエム・システム技研にとってありがたい「地下資源」となっています。

 さて計装機器専用避雷器「エム・レスタ®」の発売から45年、世の中は大きく変わりました。当時の池田首相の「所得倍増計画を推進する」の掛け声と共に高度経済成長を続けた日本は、世界最大級の製鉄プラントを始め、石油、石油化学の巨大プラントを擁するコンビナートが日本全国の海岸線に沿って建設されてゆきました。その頃たまたま伊藤忠商事の瀬島龍三さんの講演会を拝聴する機会に恵まれ、「日本は6億トンの資源を輸入して6千万トンの製品や素材を海外に輸出して成り立っています」と繰り返し述べておられた姿を鮮明に憶えています。また三菱総合研究所の牧野昇さんは「半導体の進歩は止まらない。性能が向上し、集積率が上がって、小さくなり、そして安くなってゆきます。同じ事業をやるなら半導体を造る方に廻るより、それを使う方に廻った方が楽に稼げますよ」と言っておられたことも思い出されます。
 エム・システム技研が半導体を使う方に廻って発展してこられたのは、牧野さんのあの時点での予言が正しかったことを証明しているように感じています。

 「エム・レスタ®」で多少の知名度を得たエム・システム技研は、起業の第一目標である「計装機器の隙間を埋める変換器を造ること」で安定した市場を得ようと考え、大手計装メーカーにある様々な機能の変換器はもちろんのこと、変換器という形をした機能部品をSI(システムインテグレータ)であった前職の経験を活かして手当たり次第に商品化しました。もちろん「μCPUを内蔵して納入後に入力仕様が決められる変換器」も世界に先駆けて開発、出荷して、業界の評価が得られたように思います。その後お客様のご要望に従って、表示計器やPIDコントローラなど、計装には欠かせない工業計器を、この道の経験豊かな開発エンジニアの獲得ができたお陰で次々と完成させ、世界中のどのメーカーのものとも組合せ接続して利用できる「汎用工業計器メーカー」という独特の姿に成長してきました。
 DCSの発達と共に、現場に設置された発信器の信号を中央監視室に伝える信号伝送がデジタル通信で行われるようになり、DCSメーカー各社特有の通信プロトコルが用いられるようになりました。近年になり、この公開された通信プロトコルを用いた各種のオープンネットワークが普及し、各々の用途に応じた機能、性能のオープンネットワークが活躍しています。エム・システム技研では、お客様のお求めになるそれらオープンネットワークを用いたPLCやDCSに直接接続できるリモートI/Oのシリーズを完成させました。

 最近になってエム・システム技研が力を入れて完成し拡販を始めた新製品に920MHz帯小電力無線機器「くにまる®」があります。この「くにまる®」は特定小電力無線を用いたリモートI/Oといえる機能をもっています。現場に設置した「くにまる®」子機に入力した計装用信号は、1km以内にある「くにまる®」親機から取出すことができます。計装の世界では今まで無線を用いる文化が育たなかったせいか、発信器から無線で発信するワイヤレスハートやISA100といった機器はあるのですが、「くにまる®」のようなリモートI/O機能をもった機器は見当たりません。この「くにまる®」を集中管理をしている工場現場のお客様に認知していただくためには、どうしても現物を現場に持ち込んで、その安定した動作を見ていただく必要があることを強く感じ、創業時の「エム・レスタ®」用のパチトラを思い出し、手軽に見ていただき、目の前で動かしてご納得が得られるような「くにまる®」のデモキットをご用意することにしました(図2)。このデモキットは ①軽い、②運搬し易い、そして ③取り出せば直ちに動作する、をテーマに工夫を凝らしました。ご要望いただけば直ちに電波テストがその場でできます。もちろん営業活動に携わるメンバー全員に1台ずつ用意しました。
 どの工場でも、病院でも、学校でも、集中管理や遠隔操作をしたい設備が数多く分散配置されています。ユーティリティ設備などがそれに当たります。それを「くにまる®」を使えば、配線工事をすることなく今すぐ集中監視が実現するのですから、省力化を進めたい事業体の皆様にはいち早くお知らせしてお役に立ちたいと考えております。この「くにまる®」のデモキットをぜひご覧くださいますようお願い申しあげます。
 別途、「ユーティリティ設備の集中監視」と題した、ご覧になりやすいマンガを主体にしたアプリケーション事例集もご用意しております。
 エム・システム技研はIoTの時代に先駆けて、IoTに必要な各種の機器を積極的に開発して参ります。ご期待ください。

図1 「エム・レスタ®」デモトランク

図2 「くにまる®」デモキット

 蛇足になりますが、2月初旬の晴れた日に急に思いついて、宇治の平等院を訪れその前庭を散策して参りました。大きな池の向こうに改修された美しい平等院の姿を眺めることができました。

平等院

(2018年4月)


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