規格/標準

エムエスツデー 2021年4月号

計装豆知識

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技術の輸出管理について基本的な内容をご説明します。

昨今、ニュースでも報じられているとおり、米中の対立が激しくなってきています。当初は、相互に関税の引き上げを行っていましたが、最近では、事実上相手国を対象とした輸出規制を実施するようになってきています。
  中  国:中国輸出管理法 (2020年12月1日施行)
  アメリカ:拡大直接製品規制 
  注:デミニミスルールによる米国再輸出規制とは異なる規制です(最新の動向については、経済産業省や一般財団法人 安全保障貿易センター(CISTEC)のWebページをご確認ください)。
これらの規制は、それぞれの国の法律をもとにしたもので、本来は他国の企業はその対象とならないはずです。しかし、サプライチェーンがグローバルにつながる現在のビジネス環境においては、注視しておく必要があります。
このような背景があり、今回は、輸出管理を行う上で「貨物」の管理より複雑な「技術」の管理について基本的な説明を行います(「貨物」と「技術」の定義については後述しますが、まずは簡単に、「ハードウェア」と「ソフトウェア(情報)」と認識ください)。

技術の輸出管理と貨物の輸出管理の違い

国内の「貨物」と「技術」の輸出管理の法令構造を比較すると、下記のようになります。

貨 物 技 術 内 容
法律 外国為替及び外国貿易法(外為法) 根拠法
第48条 第25条
政令 輸出貿易管理令(輸出令)
外国為替令(外為令) 規制品目等
省令・告示 貨物等省令 規制仕様
_ 貿易外省令 許可の手続き
許可不要の取引 等
通達 運用通達 役務通達 対象・手続き
用語の解釈
・法令の名称は、略称を使用しています。

技術提供の管理のフロー

技術提供の管理フローは、以下のとおりです。
技術提供の管理のフロー
⓪ 提供の場所
まず、提供について考えます。「貨物」の場合、対象が目に見えるために、「輸出(提供)した」という状況をイメージすることが簡単です(船や航空機に積み込んだ時点で、輸出とみなされます)。それに対して「技術」の場合、対象が目に見えないために、なかなかイメージすることができません。実際に、根拠法である外為法25条(役務取引等)1項の前段と後段で、特定国(外国)で提供した場合と、日本国内で提供した場合に分けて規定しています。
この日本国内/国外に関する考え方は、物理的な場所だけでなく、契約上の履行地を考慮する場合や、電子的に提供する場合はサーバの場所ではなく、そのサーバに誰がアクセスできるかを考慮する場合があるなど、複雑です。

⓪ 「居住者」と「非居住者」とは
日本国内で、技術の輸出(提供)が成立するというと、少し不思議に感じるかもしれません。それを理解するために、「居住者」と「非居住者」という概念が必要になります。それらは、外為法 第六条(定義)五項と六項で、以下のように定義されています。
 居 住 者:本邦内に住所又は居所を有する自然人及び本邦内に主たる事務所を有する法人をいう
 非居住者:居住者以外の自然人及び法人をいう
そのため、日本人であっても非居住者と判断される場合や、逆に外国人であっても居住者と判断される場合があるため、注意が必要です(組織・法人に関しても、同様です)。

① 「技術を提供する取引」とは?
外為法25条1項で、特定技術を、特定国(外国)において提供する場合と、日本国内において居住者から非居住者に対し提供する場合を、技術の提供と定義しています。
また、役務通達の“1.(3)用語の解釈 サ項”で「取引とは、有償無償に関わらず、取引当事者双方の合意に基づくものをいう」と定義されています。
そのため、たとえば、「不特定多数の者が制限なく無償で入手できる場合」「盗難による流出」「自己使用目的で海外に持ち出す場合」は、「技術を提供する取引」にはあたりません。

② 輸出管理上の「設計・製造・使用の技術」とは?
輸出管理上の「技術」とは、役務通達の“1.(3)用語の解釈 ア項”で「技術とは、貨物の設計、製造又は使用に必要な特定の情報をいう」と定義されています。
注:「貨物」とは、外為法 第六条(定義)十五項で「「貨物」とは、貴金属、支払手段及び証券その他債権を化体する証書以外の動産をいう」と定義されている。

表1(役務通達の“1.(3)用語の解釈”より)

技術とは、貨物の設計、製造又は使用に必要な特定の情報をいう。この情報は、技術データ又は技術支援の形態により提供される。
プログラムとは、特定の処理を実行する一連の命令であり、電子装置が実行できる形式又はその形式に変換可能なものをいう。
設計とは、設計研究、設計解析、設計概念、プロトタイプの製作及び試験、パイロット生産計画、設計データ、設計データを製品に変化させる過程、外観設計、総合設計、レイアウト等の一連の製造過程の前段階のすべての段階をいう。
製造とは、建設、生産エンジニアリング、製品化、統合、組立て(アセンブリ)、検査、試験、品質保証等のすべての製造工程をいう。
使用とは、操作、据付(現地据付を含む。)、保守(点検)、修理、オーバーホール、分解修理をいう。
技術データとは、文書又はディスク、テープ、ROM等の媒体若しくは装置に記録されたものであって、 青写真、設計図、線図、モデル、数式、設計仕様書、マニュアル、指示書等の形態をとるもの又はプログラムをいう。
技術支援とは、技術指導、技能訓練、作業知識の提供、コンサルティングサービスその他の形態をとる。 また、技術支援には技術データの提供も含まれる。

さらに、ク~タで、定義が続く。

これら定義をもとにして、取引で提供する技術が、「設計・製造・使用の技術」かを考える必要があります。たとえば、化学製品の安全データシートや、会議の案内メールなどは、「設計・製造・使用の技術」に該当しません。

③ 特例が適用できる技術か?
許可を要しない技術提供の取引が、貿易外省令第9条第2項の第九号~第十六号において規定されています。たとえば、第九号では特例が適用できる「公知の技術」について規定しています。学会誌や公開特許情報などで不特定多数の者が入手可能なものや、ソースコードが公開されているプログラムの提供などがあたります。しかし、これら特例は、技術によっては、使用できない項番などがあるため、冷静な判断が必要になります。

④ 貨物(製品)の該非判定結果と技術の該非判定の関係
該非判定は、その技術が関係(設計・製造・使用)する貨物の該非判定と、連動している部分があります。
連動しているというのは、貨物が非該当の場合、技術についても非該当となるものです。逆にいうと、連動していない技術は、貨物の判定結果に関わらず、技術としての該非判定を行う必要があります。自分の判定しようとしている技術が連動しているかは、外為令の許可対象技術一覧表(はみだし技術確認表)をもとに判断すると分かりやすいです。一般的に、該非判定の結果が「該当」の場合は、貿易外省令の確認を行い、許可不要の取引であるかの確認が必要です。「非該当」の場合は「キャッチオール規制の確認」が必要です(「キャッチオール規制」については、計装豆知識 2008年6月号を参照ください)。
今回は、技術の輸出管理について、最低限必要なキーワードについて説明を行いました。一部、説明の都合で、言葉を省略/置き換えている部分があります。詳しくは、経済産業省やCISTECのWebページをご確認ください。

<参考文献、参考資料>
外国為替及び外国貿易法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000228
貿易外省令
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410M50000400008
役務通達
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/tutatu/t10kaisei/ekimu_tutatu140814.pdf
外為令の許可対象技術一覧表 
http://stc.wpblog.jp/wp-content/uploads/2019/06/hamidashi.pdf
計装豆知識 2008年6月号「安全保障輸出管理における「該非判定」について」
https://www.m-system.co.jp/mstoday/plan/mame/b_standard/0806/index.html

【(株)エム・システム技研 設計部】


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