エムエスツデー 2016年4月号

計装豆知識

ステッピングモータについて印刷用PDFはこちら

コストパフォーマンスに優れ高精度の位置決めができるステッピングモータについてご説明します。

ステッピングモータは、1920年代の英国海軍において、魚雷を発射する際の発射方向を制御するアクチュエータとして実用化されたのが最初ともいわれており、一般的にコストパフォーマンスに優れ高精度の位置決めができるモータとして知られ、様々な分野・業界で使用されています。
その理由を含め、今回は、ステッピングモータの特長についてご紹介します。

ステッピングモータとは

図1 ステッピングモータの回転原理モデル*1 ステッピングモータは、指令されるパルス信号に同期して回転するモータであり、別名パルスモータとも呼ばれています。まず、ステッピングモータの回転原理を、簡略化した2相8極モデルで図1*1に示します。
ステッピングモータは、主に巻線を施されたステータ(固定子)と、磁化されたロータ(回転子)で構成されます。ステータの巻線に通電し磁力を発生させることを励磁と呼び、指令パルスに基づき、複数のステータ巻線を順次励磁することにより、ステータとロータの磁極同士の吸引・反発の作用を利用してステップ状に回動(回転)します。
ステッピングモータの回動角度は、指令されるパルス信号毎に、常に一定の機械的精度(モータの構造と加工精度)で決まるため、別途位置検出センサなどを用いることなく、精度の高い位置決め制御が可能です。
指令信号1パルス当たりの動作角度をステップ角と呼びます。ステップ角は、1.8°や、0.72°など、モータの構造によって決まります(図1モデルでは45°)が、このステップ角が小さいほど、微細な角度で位置決めすることができます。
ステッピングモータの回転角(量)は、指令するパルスの数に比例し、下式で表されます。

モータの回転量[°]= モータ固有のステップ角[°]× 指令パルス数

また、ステッピングモータの回転速度は、指令するパルス速度(周波数)に比例し、下式で表します。

モータの回転速度[rpm] ステップ角[°] × パルス速度[Hz] × 60
360[°]

図1に示したステップ角が45°のモデルにおいて、4パルスを、100Hzのパルス列で指令すると、180°の回転量を、750rpmの回転速度で位置決めします。位置決め時間は約40ms*2になります。
同様に、ステップ角0.72°のモータに125パルスを、500Hzのパルス列で指令すると、90°の回転量を、60rpmの回転速度で位置決めし、位置決め時間は250ms*2になります。
このようにステッピングモータは、位置検出センサや位置確認のためのフィードバック機構を必要としないオープンループ制御でありながら、高精度な位置決めが簡単に行えるモータであることがわかります。

ステッピングモータの特長

このほかにも、ステッピングモータには様々な特長があります。

(1)停止時に自己保持力があり、かつ中速域までのトルクが大きい

ステッピングモータは、通電状態での停止時、自己保持力で停止位置を保持します。これは、モータ巻線が励磁された際に、ホールディングトルクと呼ばれるモータの最大トルクを発生し、このホールディングトルクで、外力が加わっても停止位置を保とうとするためです。起動させたステッピングモータは、低速・中速域では、大きなトルクを発生し、計装関連でよく使用されるインダクションモータと1000rpmでのトルクと比較すると、ステッピングモータの方が約十倍上回ります(図2)。

図2 同容積のモータでのトルク比較

(2)位置決め精度が高く、速度変動のない安定した回転、さらにインダクションモータの数倍の速さで回せます。

ステッピングモータは、起動・停止の応答性に優れており、オーバーランがありません。加えて、位置決めを繰り返し行った場合の停止精度のズレはゼロです。
インダクションモータの場合、モータ単体でのオーバーランは、一般的に30 〜40回転であることから、ステッピングモータは非常に高精度な位置決めができるモータであることがわかります。
さらに、ステッピングモータは駆動中に負荷変動が生じても、インダクションモータと違って回転速度が変動しないうえ、数倍の高速回転ができます。

(3)信頼性と耐環境性に優れている

ステッピングモータは内部に接触ブラシを持たないメンテナンスフリー構造であること、位置決め用の光学的・電気的な位置検出センサを必要としない、オープンループ制御であることから、構造がシンプルかつ堅牢で、高い信頼性を有します。さらに構成部品の材質を変更することで、真空条件下での使用にも対応できるなど、耐環境面でも優れています。
以上の、低・中速域の大きなトルク、同期性・応答性の良さ、位置決め精度の高さ、などの特長から、ステッピングモータは、比較的短い移動量を短時間で位置決めする用途に向いているといえます。加えて、機構剛性に左右されず、大きな慣性負荷の駆動、駆動時の負荷変動にも安定して回転することなども、ステッピングモータが様々な分野で広く使われている理由であると考えられます。

ステッピングモータと計装関連機器

計装分野においても、記録計のチャート送り機構や、調節弁の電動アクチュエータなどにステッピングモータが使用され、その用途が広がりつつあります。
エム・システム技研でも、ステッピングモータを駆動源とした電動アクチュエータとして、ミニトップ®サーボトップ®をご用意しています(図3)。

図3 ステッピングモータを使用した電動アクチュエータ商品群

図4 ステッピングモータを内蔵した小形電動アクチュエータ トルクが大きく、負荷変動の影響を受けないステッピングモータの特性を生かし、インダクションモータを使用した場合よりも、モータサイズを小さくし、電動アクチュエータとしての小形化を実現しました(図4)。
また、1/1000の高分解能や、長寿命に加えて、現場での開閉速度の調整が可能であるなど、ステッピングモータの特長をうまく生かし、各種の設定調整が容易になっている、非常に使い勝手の良い電動アクチュエータとしてラインアップしています。

<参考文献>
*1 <出典> 設計者のための設計手帳「ステッピングモーターの基礎概要」(2016.02.01参照)
*2 加減速を行わない一定速で駆動した場合の位置決め時間

【(株)エム・システム技研 マーケティング部】


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