エムエスツデー 2012年4月号

計装豆知識

ヒステリシスと不感帯印刷用PDFはこちら

自動制御の分野で使われる用語、ヒステリシスと不感帯について説明します。

「分解能」、「ヒステリシス」や「不感帯」、あるいはそれらと同義の用語は、科学技術の分野で広く一般に使用されます。たとえば、各種のセンサには分解能としてその出力の細かさが示されていることが多く見られます。変圧器などのコア材料の磁気ヒステリシスは、鉄損注1)の原因の一つになります。また、自動車のアクセルペダルやハンドルには、一般的に「遊び」と呼ばれる、不感帯と同様の現象があります。
 いずれも入力の連続的(アナログ)変化に対し、出力の変化も連続的である場合に発生する現象です。これらの用語の定義は、各分野において定められていますが、今回は、自動制御の分野で使われる用語としてのヒステリシスと不感帯について説明します。

分解能、ヒステリシス、不感帯の定義

自動制御の分野では、分解能やヒステリシスあるいは不感帯は、どのように定義されているのでしょうか。

規格の一例としてJIS B 0155(工業プロセス計測制御用語及び定義)での定義を紹介すると、分解能(resolution)注2)を「相互に識別可能な隣接した二つの値の最小間隔」としています。

ヒステリシス(hysteresis)については、「印加された入力値の方向性によって、出力値が異なる機器の特性」と定義しています。

また、不感帯(dead bandまたはdead zone)は、「出力値の変化として感知できる変化を、全く生じることのない入力変化の有限範囲」と定義されています。

ヒステリシス差(hysteresis error)という用語も定義されていて、「全レンジにわたって測定量を上昇、下降させることによって得られる二つの校正曲線の間の、不感帯分を除く最大偏差」としています。これは、機器の性能を表すのにふさわしい用語といえます。

上記の定義で分かるように、これらの用語で説明される現象は、計測制御機器の精度を悪化させる要因となるため、ないほうが望ましいと考えられます。実際に、温度変換器などでは、ヒステリシス、不感帯は測定不能かあるいは無視できるほど小さな値です。しかし、これらの現象(とくに不感帯)が制御系の安定性を確保するため必要になる場合もあります。

不感帯の影響

制御対象が機械的な動作である場合、不感帯が必要になる場合が生じます注3)

たとえば、工業プロセス用調節弁に用いられるバルブアクチュエータの場合、仮に不感帯がまったくなければ、ハンティング注4)を繰り返し、系が不安定になります。これは、機械的な動作を制御対象とする場合、慣性の影響を受けてオーバーシュート注5)と過修正を繰り返すことになるためです。

実際には、摩擦などの要因によって、不感帯を完全になくすことはできません。この自然に発生した不感帯だけで制御が安定すれば問題ないのですが、そうでない場合は、意図的に不感帯を設けます。上記JIS規格では、このような場合は「中立帯(neutral zone)」と呼ぶことがある、としています。

不感帯は、ヒステリシスや分解能にどのように影響するのでしょうか。

● ヒステリシスへの影響

厳密には、不感帯の大きさとヒステリシスは無関係です。上記規格でもヒステリシス差を「・・・不感帯分を除く・・・」と定義しています。しかし、図1を見ると明らかなように、機器自体にヒステリシスがないと仮定しても、不感帯を設けることによって、同じ入力I1に対して、入力増加の場合は出力の最小値としてOA、減少の場合最大値としてOBになりえます。
つまり、不感帯に比例したヒステリシスがあるのと同様の結果になります。

● 分解能への影響

一方、分解能にはどのような影響を与えるでしょうか。

入力信号を増加(減少)させてI1にした場合に、出力軸が目標値に対する不感帯OA(OB) に到達後、出力レンジの0.1%以下のオーバーラン後に停止するバルブアクチュエータを仮定し、不感帯幅を0.2%以上に設定すると、入力が0.1%増加(減少)するごとに出力軸もそれに追従します。

つまり不感帯の大きさに関係なく分解能は0.1%一定となります。ただし、機器の制御方式によっては、分解能が不感帯の大きさに比例する場合がありますので、ご注意ください注6)

図1 不感帯のヒステリシス、分解能への影響

注1)外部磁界強度に対する磁性材料の内部磁束密度の強度が、磁界の変化の方向により異なることが原因となって磁気エネルギーの損失が発生します。これをヒステリシス損と呼びます。鉄損の原因としては、ほかに渦電流損がありますが、本稿では説明を割愛します。
注2)英語表記は、IEC 60050-351(International Electrotechnical Vocabulary Part 351:Control technology)などと同一です。
注3)一定のしきい値を境界にしてオンまたはオフとする警報についても不感帯が必要です。ただし、国内の計装機器業界ではヒステリシスと呼んでいる場合が多いので、エム・システム技研の仕様書でもヒステリシスと記載しています。
注4)ハンティングとは、オーバーシュートした後出力を元に戻す際に、出力が減少しすぎ(これをアンダーシュートと呼ぶ場合もあります)、さらにオー バーシュートとアンダーシュートを繰り返すような現象を指します。
注5)オーバーシュートとは、ステップ応答において、出力が最終定常値を超えるような現象を指します。
注6)エム・システム技研のサーボトップⅡ、ミニトップなどの電動アクチュエータは、不感帯幅と無関係に不感帯の中央(入力信号値)を目標に停止するため、分解能は不感帯に比例して変化します。

サーボトップミニトップは(株)エム・システム技研の登録商標です。

【(株)エム・システム技研 設計部】


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