エムエスツデー 2004年6月号

計装豆知識

変換器の仕様書の読み方について(6)

レンジ設定可能な信号変換器の精度印刷用PDFはこちら

今回は、入出力レンジをお客様が所望の値に設定可能なデジタル式信号変換器の精度について説明します。

1.レンジ設定可能な信号変換器の精度

エム・システム技研では、信号変換器(設定可能形)の精度について「基準精度:入力精度+出力精度」という表現方法を採用しています。基準精度の定義は、前に本誌の「計装豆知識」でご説明したとおり「基準動作条件の下で確認した、理論的出力と実際出力との一致の度合い」 注)であり、デジタル式変換器においても同様の表現方法を使用しています。

デジタル式信号変換器の内部信号処理は、入力デジタル化 → デジタル演算 → 出力アナログ化のように進められます。デジタル演算を行うため、入力と出力における信号変換範囲は、それぞれ独立して任意に(ただし、当該変換器についてあらかじめ予定されている信号レンジ内で)設定できます。このとき、変換誤差もそれぞれ独立に発生します。このような事情から、入出力を分離して、それぞれ入力精度、出力精度と表現しています。変換範囲の設定とは、たとえば設定可能範囲が−10~10V DCの変換器について、実際の範囲を1~5V DCに設定して使用することです(図1)。

図1 変換範囲の設定

2.仕様書中での精度表現

MXV

デジタル設定形 直流入力変換器(形式:MXV)で、範囲設定を行った場合の基準精度表現について具体的に説明します。

MXVの仕様表現を以下に示します。
性能(最大スパンに対する%で表示)
基準精度:入力精度+出力精度
● 入力精度:± 0.05 %(スパンを設定可能範囲の20% 以上に設定した場合)
● 出力精度:± 0.05 %(スパンを設定可能範囲の20% 以上に設定した場合)

このように、性能は最大スパンに対する%で表現しています。スパンを変更し、設定可能範囲の20%未満の範囲で使用する場合には、精度の算出に注意が必要です。

3.基準精度の算出例

【例1】形式:MXV-S2Z1-□、すなわち、入力範囲−10~10V DC、出力範囲0~20mA DCの製品を、入力1~5V DC、出力4~20mA DCに設定して使用する場合の基準精度を算出します。

まず入力精度を求めます。設定値1~5V DCのスパンは4Vで、これは、設定可能範囲−10~10V DCのスパン20Vに対して20%であって、「スパンを設定可能範囲の20%以上に設定した場合」に該当するため、入力精度は±0.05%です。

次に出力精度を求めます。設定値4~20mA DCは設定可能範囲0~20mA DCの80%であって、この場合も設定可能範囲の20%以上であるため、出力精度は±0.05%です。

基準精度は入力精度+出力精度なので、双方を加算し、(±0.05%)+(±0.05%)= ±0.10% がこの場合の基準精度になります。

【例2】次に、同一の変換器について、入力を1~5V DC、出力を0~1mA DCに設定した場合を検討してみます。

入力精度は、例1と同じ±0.05%ですが、出力精度は、設定値0~1mA DCが設定可能範囲0~20mA DCの5%であり、これは設定可能範囲の20%以上という条件を満たさないため、±0.05%を超えます。

設定可能範囲の20%未満の出力スパンに関する精度は、出力スパンと反比例関係(図2)にあり、次のようにして計算で求めることができます。この場合、設定値のスパン5%は、±0.05%を保証する20%の1/4であり、したがって出力精度は±0.05%の4倍、±0.20%になります。

基準精度は双方を加算し、(±0.05%)+(±0.20%)= ±0.25%となります。

図2 スパン設定値と精度の関係

注)詳しくは、本誌2004年1月号の「計装豆知識」をご参照ください。;

【(株)エム・システム技研 開発部】


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