エムエスツデー 2004年2月号

計装豆知識

変換器の仕様書の読み方について(2)

信号変換器の精度(許容差)印刷用PDFはこちら

前回は、信号変換器の精度に関して、エム・システム技研が一般の変換器に使用している、「基準精度」の語について説明しました。今回は、同じく変換器のうちJIS C 1111(AC−DCトランスデューサ)の適用対象製品である、電力トランスデューサに使用している「許容差」の語について説明します。

1.「精度」と「許容差」

前回、JIS C 1111においては、「精度」を表す語として「許容差」の語が使用されているかのごとき表現をしましたが、実は、正確に言えば、当該JISでは「精度」を表す語として直接に「許容差」という語が使用されているわけではなく、「2.用語の意味」の「2.4(4)」に、「許容差 : 標準試験状態 注1) において許容される百分率誤差の限界値」とあって、この中の「標準試験状態における百分率誤差」が、実質上「精度」を表しているものと考えられるため、エム・システム技研では、当初からその標題である「許容差」の語を、「電力トランスデューサの精度を表す語」として使用してきたもので、これは必ずしも妥当な用語ではないと思っておりますが、長年問題なく使用してきたものであるため、今更変更して混乱を招くことは避けたいと考え、引き続き使用しているわけです。

なお、JIS C 1111に準拠するならば、電力トランスデューサについては、個別機器の「精度」を表現する場合、上述の用語「許容差」ではなく、当該JISの「2.4(7)」で規定されている「階級」注2)を、具体的には「0.x級」の表現を使用すべきかと思われますが、変換器の総合メーカーであるエム・システム技研としては、前回ご説明した一般の変換器に関して使用する精度表示法、「±0.x%」との統一を考えて、「階級」による表現は採用していません。

2.「動作試験」と「影響量による影響」

JIS C1111の4.2には、標準試験状態における性能だけでなく、環境条件のうちの一つひとつの影響量 注3)を標準試験状態の基準値から変えたときに、トランスデューサに生じる出力変化の試験方法とその限界値が、階級にリンクして規定されています。たとえば、「温度の影響 注4)」については以下のように規定されています。

「6.3(4) 温度の影響は、定格出力値に相当する入力を加え、23℃における出力値と周囲温度23±10℃のときの出力値との差によって試験する。(以下略)

4.2.4 トランスデューサの温度の影響は、6.3(4)によって試験したとき、出力変化の基底値 注5)に対する百分率が、階級ごとに、その階級指数の100%を超えてはならない。」

すなわち、「階級」による性能表示では、多くの影響量について、それぞれの階級にリンクした影響内に収まっていることが要求されていますが、前述の「許容差」による精度表示法をとるエム・システム技研方式でも、それらの影響量が基準値から外れたときの影響を含めたものを「許容差 ±0.x%」として表示しています。

3.「許容差」についてのエム・システム技研の表現

LTWT

エム・システム技研では、電力トランスデューサの仕様書において以下のように性能表示しています。
 例.電力トランスデューサ(形式:LTWT)
   許容差(温度、周波数の影響を含む):0.5%
    • 温度の影響:23±10℃
    • 周波数の影響:45~65Hz

この場合の「許容差 0.5%」という表示は、温度や周波数(影響量)が標準試験状態の基準値から表示の範囲内で変わったときでも±0.5%の影響内に収まることが含まれており、したがって、階級による性能表示法の「0.5級」と実質的に同一のことを表しているわけです。

注1) 標準試験状態
6.1(1)に規定されている各種の環境条件。
たとえば、周囲温度:23±2℃、相対湿度:45~70%、外部磁界:地磁界など。
注2) 階級
トランスデューサの許容差および影響の限度によって分類したもの(JIS C 1111、2.4(7))。
注3) 影響量
測定を目的とする量以外で、測定結果に影響を与える量(JIS C 1111、2.4(5))。
注4) 影響
一つの影響量を基準値から変えたときに、トランスデューサに生じる出力変化(JIS C 1111、2.4(6))。
注5) 基底値
百分率誤差を規定するための基準の値で、とくに指定がなければ、スパンとする(以下略)(JIS C 1111、2.4(2))。

【(株)エム・システム技研 開発部】


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