エムエスツデー 2013年10月号

お客様訪問記

風力発電設備の遠隔監視をSCADALINXproで経済的に実現
銚子市沖洋上風力発電設備の遠隔監視システムに
採用されたSCADALINXproとリモートI/O R3シリーズ

(株)エム・システム技研 システム技術グループ

 千葉県銚子市沖の洋上風力発電設備は、NEDO*1 と東京電力(株)の共同研究で実施し設置されました。

図1 洋上風力発電設備・観測タワー

 今回は、当該設備の中の遠隔監視システムを手掛けられ、エム・システム技研のSCADALINXpro リモートI/O R3シリーズを使用してシステムを構築された、(株)関電工 風力部 副部長 風力エンジニアリングチームリーダーの佐々木 幸治 様、同チーム主任の湯川 洋一 様、風力チーム 主任の廣木 通 様にお話を伺いました。

汎用製品でのシステム構築を検討 

 本システムをご導入いただいた経緯をお聞かせください。

 [佐々木様]風力発電設備の遠隔監視システムに、エム・システム技研のSCADALINXproを採用したのは2度目になります。前回は、2009年に石川県輪島コミュニティーウインドファーム(以下、輪島CWF)の監視システムに採用しました。そのとき、従来採用していた他メーカーの監視システムでは、設備構成や更新に対するシステム変更に柔軟な対応ができないことや価格が高価であることを、顧客から指摘されることがありました。そこで、汎用メーカーの監視システムを検討し、エム・システム技研のSCADALINXproリモートI/O R3シリーズを使用した監視システムを採用するに至りました。

 銚子沖洋上風力発電設備は国内初の試みであり、国家的なプロジェクトであるため、信頼性の高いシステムの導入が必要でしたが、エム・システム技研のシステムは輪島CWFに導入して4年間問題なく運用しており、今回の監視システムを採用する1つの要因となりました。

オープン化により自らのシステム構築・コスト削減を実現

 エム・システム技研のシステム採用に当たってポイントとなった点をお聞かせください。

 [佐々木様]従来の他メーカーの監視システムでは、システムの変更、監視ポイントの追加などが発生した際、システム変更完成までには、長い工期と高価なコストが発生していました。そのためシステムの追加費用を安価に抑えるだけでなく、変更などがあった際は、スピーディーに対応できるシステムの導入を検討していました。エム・システム技研の監視システムは汎用国産SCADAであり、リモートI/Oとの接続もオープンネットワークを使用しているため、機器構成を十分理解していれば監視ポイントの追加などが自ら自由にできる上、システムを安価に導入できる点が採用のポイントとなりました。

 システムの概要や構成についてお聞かせください。

 [湯川様]銚子沖の洋上に風力発電設備と観測タワーがあります。風力発電設備では、風速が12m/sの時、定格出力2.4MWと一般家庭1200戸分に相当する電力を発電します。また、観測タワーでは洋上の風速や風向などを測定し、風車発電電力の解析をするためのデータを測定しています。風力発電設備で発電した電力は、22kVの電圧で海底ケーブルを経由して陸上連系電気設備に送電し、本設備で6.6kVに降圧した後、東京電力(株)の配電線に連系しています。

 今回の監視システム(図4)では、風力発電設備側では、発電出力電圧・電流、設備の状態について遠隔で監視するための接点入力装置と、風力発電設備に関連する機器をSCADALINXproを使用し遠隔制御するための接点出力が必要でした。

図4 システム構成図

図4 システム構成図[拡大図

 観測タワーでも風力発電設備同様、接点入力および接点出力装置が必要であったため、信号入出力カードの種類が豊富であるリモートI/O R3シリーズ図2)を採用しました。

図2 盤内に設置されたリモートI/O R3シリーズとクランプ式交流電流センサ

通信・入出力信号の種類が豊富なリモートI/O R3シリーズ

 R3シリーズはリモートI/Oでは珍しいビルディングブロック方式をとっていて、I/Oの種類が豊富であり、電力計測を行う電力マルチカード(形式:R3-WTUはカード側で電力の諸要素を潮流演算しているため、アドレス指定で多数の要素を取得できるなどの特長があり、重宝しています。R3シリーズにて集約したデータをModbus/TCPで光メディアコンバータに接続し、電力線と光の複合海底ケーブルにて陸上連系電気設備へ伝送しています。陸上連系電気設備では、R3シリーズで取引電力量計からの送受電のパルス信号、6.6kV送・受電の電圧、電流、有効電力、無効電力、周波数、力率、22kV送電線の電圧、電流、さらに故障表示などの接点の入出力信号を集約しています。陸上設備に設置しているSCADALINXproを搭載したPCからR3シリーズ(3ステーション)にて集約したデータを取得し監視を行っています。遠隔監視所での監視も必要であるため、SCADALINXproのサーバ、クライアント機能を利用し、NTTのフレッツ・グループアクセスを使用して遠隔監視を行っています。

遠隔での監視・操作を実現

 SCADALINXproの画面、運用についてお聞かせください。

 [湯川様]SCADALINXproパッケージに入っている豊富なサンプルを利用して、グラフィック(システム監視・制御)画面、トレンド画面、アラーム画面、帳票(レポート)画面を構築し、通常はシステム監視画面にてR3シリーズで取得したデータを一覧表示して監視を行っています(図3)。

図3 陸上連系設備電気設備内の監視パソコン

 たとえば風力発電設備、観測タワーは洋上に設置されているため、濃霧の際に船舶が衝突する恐れがあります。これを回避するため、濃霧警報が発令されたときに、遠隔監視所からSCADALINXpro画面上のフォグホーンボタンを押し、それぞれの洋上設備から大音量の警報音を発報します。陸上電気設備においても同様に機器などを遠隔から操作できるようにしています。

スクリプトによりセキュリティを強化

 それぞれの遠隔操作を行う際には、システム制御画面に展開することによって操作が可能になりますが、システム制御画面に展開する際にパスワード要求画面をポップアップさせ、パスワードを入力した後に制御画面へ展開するようにスクリプトを組み、セキュリティ強化を図っています。それぞれの設備に異常が発生した際には、SCADALINXproのアラームメール送信機能を利用し、担当者へのEメール送信を行っています。

 レポート画面では取引電力量の送受電状況、それぞれの設備から計測した電力の諸要素を日報、月報、年報の形で集計してデータ解析に役立てています。

エム・システム技研のサポート

 システム導入に当たりご苦労された点はありましたか?

 [湯川様]先に話したとおり、本システムは洋上に設置した設備からのデータ取得を海底ケーブル経由で行っています。システム構築に際しては、机上でデバックした後、現場での立上げを行いましたが、リモートI/OとSCADALINXpro間でPING*2 は通るが、データが上がってこないという現象が発生しました。原因究明の調査を実施した時、エム・システム技研ホットラインに問合せをして、原因究明に活用させていただきました。原因としては、光ケーブルの接触不良であることが判明し問題解決することができました。余談ですが、風車への移動は船で行なっており、建設時に作業を終了して風車から引き上げる際、悪天候のため船が運航できず洋上の設備に宿泊することもありました。

通信の2系統化も検討

 今後の課題や予定などがありましたらお聞かせください。

 [佐々木様]今回の設備では現在のところシステム拡張を行う予定はありませんが、今後建設されるであろう洋上風力発電所の監視制御システムについては、海底光ケーブルを使用しての伝送を行うことが想定され、伝送路の不具合時の原因究明や故障箇所の修理を短期間で実施することは難しいと考えます。このため、伝送手段については、異なる方式で2系統設けるなどの冗長化について検討しておく必要があり、本案件で採用したSCADALINXproを使用したシステムを基本とし、どのようなシステムとしたら良いか継続して検討したいと考えています。

*  *  *

 お忙しいところ、ありがとうございました。

*1 NEDO:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
*2 PING(Packet INternet Groper):IPネットワークにおいて、ノードの到達性を確認するためのソフトウェア

SCADALINXpro SCADALINXpro 拡大

【千葉県銚子市と洋上風力発電システムのご紹介】
銚子市は千葉県の東部、関東地方最東端で太平洋の突き出した位置にあり、夏涼しく、冬は暖かい海洋性気候であり、1年を通して風が強いため、風力発電に最適とされています。
洋上風力発電システムは、欧州ではすでに200万kWが導入されています。我が国においても、豊富な賦存量(ふぞんりょう)*3 が見込まれており、風力発電導入拡大に向けた有効なアプローチの一つとして期待されています。しかし、我が国と欧州では気象・海象条件が異なることや、沖合での実証例がなかったため、我が国に適した洋上風力発電システムの確立が必要になります。そこで、この事業では、千葉県銚子沖および福岡県北九州沖に試験用設備を設置済みであり、実証研究が開始されています。得られた成果は、設計指針案などとしてまとめ、広くその情報を公開することで、我が国における洋上風力発電技術の確立と、国内の洋上風力発電の普及を目指すとともに、関連産業の国際競争力強化が図られています。

*3 賦存量:ある資源について、理論的に導き出された総量

千葉県銚子市

本システムについての照会先:
(株)関電工
風力部 副部長 風力エンジニアリングチームリーダー
佐々木 幸治 様
〒108-8533
東京都港区芝浦4-8-33
TEL:03-5476-3841 FAX:03-5476-3893

SCADALINXproは(株)エム・システム技研の登録商標です。


ページトップへ戻る