第1回 製造業のカーボンフットプリント(CFP)対応の現状

(株)エムジー 顧問 富田 俊郎

はじめに

日本はかつて世界の中でも省エネの実績を積重ね、独自の省エネ技術は技術的に世界のお手本となるレベルでした。しかしながら、SDGsの達成度を評価した「持続可能な開発報告書」の2023年版では、日本のSDGs達成度は166カ国中21位(図1)で、前年(163カ国中19位)から2ランク下がりました。なかでも気候変動対策とジェンダー平等は「最低評価」でした。2050年度までにカーボンニュートラル(CN)脱炭素社会への移行を宣言した国家目標の設定と推進策の実施にもかかわらず、ライフサイクルアセスメントの実施状況は極めて低いのが現状です。とくに製造業では今年度からカーボンフットプリント(CFP)データの提供が本格的な開始となりますが、CFPデータの信頼度向上に寄与する1次データ(実際に測定して取得したデータ)の取得と提供は、図2に示されるように普及していないのが現状です。

図1 2023年の日本のSDGs達成度は世界21位

図1 2023年の日本のSDGs達成度は世界21位


図2 中小企業の自社のグリーンハウスガス(GHG)排出量の測定状況

図2 中小企業の自社のグリーンハウスガス(GHG)排出量の測定状況

製造業におけるCFPデータ取得の位置付け

脱炭素のカギとなるCFPは、製品やサービス、またライフサイクル全体の温室効果ガスを把握する上で重要な指標です。具体的にはサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の正確な計測や排出削減に向けた課題の抽出、低炭素製品やサービスの普及のためのカギとなります。大きな施設レベル単位ではなく、より詳細なレベルの装置あるいは製造ライン単位でのデータの取得がカギとなります。2023年度の試行時期を経て2024年度からは本格実施となるためCFPデータの取得はますます重要な位置付けとなります。ライフサイクル全体の温室効果ガスを把握する上で、最終製品を提供するメーカーのみならず、各構成部品を提供する製造事業者にとっても部品製造レベルでのCFPデータ測定と提供は必須事項となります。

図3 CFP測定の階層構成

図3 CFP測定の階層構成

CFP1次データの取得と提供を加速する必要性

データの普及がなかなか進まないのには2つの側面があります。1つは①ライフサイクルでの温室効果ガス排出量削減の効果が事業者や一般にも分かりにくいことです。2つめは②CFPの1次データ取得に関する測定システムや製品が普及しないため進まないことです。そこで2023年度に発表した国のCFPガイドラインでも1次データの比率を上げることを提唱しています。CFP算定に使用するデータの取得方法には2種類あり、2次データと1次データがあります。2次データは参照するDB(データベース)を用いて算出する方法であり、1次データ取得は自社のデータ収集システムなどを使用して実際に燃料、電力などの排出量データ取得を行います。
CFP1次データを測定し計算するためのシステムと製品の例を図4に示します。製造ライン単位あるいは設備単位での測定がカギとなることを示しています。

図4 CFP1次データ取得システムと製品の構成例

図4 CFP1次データ取得システムと製品の構成例

【コラム】CFP1次データ収集システムの普及

1. 製造ラインあるいは装置レベルで測定できる機器

2. 収集したデータを容易に可視化するクラウドシステム

3. 工場セキュリティが確保されたCFPデータ収集システム

4. 費用対効果を確保できる導入コスト

5. ガイドラインに沿ったCFP1次データ比率向上