エム・システム技研の
BAよもやま話

第6回 世界と日本のスマートビルとスマートシティの動向と現実

(株)エム・システム技研 顧問 富田 俊郎

はじめに

日本は国のデジタル化で人にやさしい社会をめざし、世界に先駆ける新しいコンセプト「Society 5.0」の実現に国をあげて推進しています。デジタル化構想の一つである「デジタル田園都市構想」は先進のデジタル実装タイプでは筑波と大阪で実証中です。地方創生推進タイプモデルでは全国27か所で実証中であり、全国へ水平展開するための参照モデルとして実績を積んできています。

世界と日本のスマートビルとスマートシティの動向

スマートシティ世界ランキングの昨年度1位はシンガポールです。シンガポールでは、ICT技術を積極的に導入し「Smart Nation(スマート国家)」の実現をめざしており、このために首相府に「Smart Nation Program Office」が新設されています。優先テーマは「国家センサネットワーク設置(SNSP)」「デジタル決済の普及」「国家デジタル身分証(NDI)システムの構築」の3つとなっています。ヨーロッパではオランダのアムステルダム、フィンランドのヘルシンキなどが上位に入っています。
わが国のスマートシティたかまつは持続的に成長し続ける都市づくりに向けて、一度でたくさんおいしい「政策統合型」の持続性の高いサービス創出をめざしています。
スマートシティたかまつ推進協議会はこれまで行政主導から協議会主導、民間主導に段階的に移行させるために活動してきましたが、民間企業や市民が自発的な行動を積極的に取るまでにはまだ至っていません。高松市が「民間主導」でスマートシティを全国展開する先導的役割を担うことが期待されています。

図1  世界のスマートシティと日本のスマートシティの例

図1 世界のスマートシティと日本のスマートシティの例

ビルOSと都市OSとSociety 5.0の関係

ビルは現在も単独で機能するものが多く、機能の相互連携は苦手な分野でした。しかしながら国が推進するスマートビル、スマートシティを実現するためにはビルがビルOSを介して、複数のビルがあたかも一つのビルであるかのように、ビル群として省エネをしたり、ロボットがどのビルにでも入りビルの違いを気にせず必要なサービスを提供できるようになります。都市も従来個別のサービスを、それぞれ都市独自の手段を開発し運用しており、開発した機能を相互に運用するなどは苦手でした。都市間OSは都市レベルのサービスを相互に利用し合うことにより、開発の重複を避けてよりスピーディに住民にサービスを提供することが期待されています。

図2  たかまつのスマートシティの構成図

図2 たかまつのスマートシティの構成図

図3  ビルOSから都市OSへ

図3 ビルOSから都市OSへ

日本のBA市場は閉鎖的な現状のオープン化が必須

素晴らしいアーキテクチャでスマートビルやスマートシティを実現したいところですが、日本の市場は相互接続の必要条件であるオープン化が日本特有の事情によりに遅れています。この状況の改善すなわちBA市場のオープン化がスマートビル、スマートシティ実現の第一歩でしょう。

スマート以前に現場で困っている問題点

古いビルシステムのローカルシステムは、閉鎖的で互換性がないため、改修時にも競争原理が働かず高いコスト体質であり、中央監視の改修も互換性がないため、既設のメーカーに縛られ高コストとなりユーザにとっても困った問題となっています。
BACnetは本来互換性を保ちながらアップデートできるべきものですが、日本独自仕様を無理やり付け加えたため、世界標準のBACnetの機能アップをフォローできず、ツールも各社固有で互換性がありません。現在はようやくASHRAEの世界標準をカバーしつつある状況ですが、ツールの問題は未解決です。外国品および国産品でも短期間で廃形となる製品では、保守及び改修時に問題となります。
ビルで要求される機器は少なくとも15年位の製品供給の継続が必要です。廃形されても置換できる製品があればシステムの維持及び継続が可能となります。システムの継続的稼働維持の観点からは国産品で高信頼かつ廃形しない製品を期待したいと思います。

図4  世界と日本のオープン化状況

図4 世界と日本のオープン化状況

図5  廃形のない国産品(エム・システム技研の製品)の例

図5 廃形のない国産品(エム・システム技研の製品)の例

【コラム】スマートビルに貢献するキーポイント

1. ビルシステムそのもののオープン化による相互接続の実現

2. ビルOSのオープン化でビル間の相互接続の実現

3. 上位である都市OSのオープン化で都市間サービスの相互提供

4. さらに国を越えても都市サービスのオープン化による相互連携

5. 廃形のない長期供給可能な高信頼の国産品の採用