エムエスツデー 2022年7月号

エム・システム技研のBAよもやま話

第3回
スマートビル実現のためのIoTとクラウドの動向

(株)エム・システム技研 顧問 富田 俊郎

はじめに

第2回では「世界のBAと日本のBAの違い」という視点から世界のオープンシステム化の流れに対して日本の市場構造の違いから世界標準準拠のオープンBAシステムへの移行が遅れてしまったことを解説しました。今回は政府が推進するSociety5.0の一つであるスマートシティと、その実現に貢献するスマートビルに必須のオープン化、およびそれらを実現する要素技術であるIoTとビッグデータをベースにした、AI分析や新しいAI制御への例を紹介したいと思います。

従来型のBAにIoT ⁄ クラウド ⁄ AIが革新的な機能をもたらす

図1は従来型のBAシステムのカバーする範囲とIoT/クラウド/AIがカバーする範囲を示しています。 従来型BAはビル制御として要求されるリアルタイム性と信頼性の高い監視制御を担当し、IoT/クラウド/AIは、従来BA型では実現できなかったビッグデータによるAI分析と可視化を提供します。さらに、従来のアルゴリズムではできなかった、AI制御を実現している例もあります。
IoTセンサやIoT機器から得られるデータは、データの密度と量において従来とは大きく異なり、より詳細な情報を得ることができます。たとえば、従来部屋単位で制御していた室温を執務者のテーブル単位で快適制御することなどが実現されています。また、その処理の仕方も従来のBAとは異なり、膨大なビッグデータをリアルタイムAIで分析を行い、結果を表示したり、制御に反映させたりしています。従来型のBAシステムとIoTクラウドシステムを統合して、新機能を提供したり、省エネ連携を提供することがスマートビルの価値となります。
様々なシステムを統合するには、サブシステム間のオープン化は必須の条件となります。図2はビッグデータによるAIエネルギーフロー解析とダッシュボードの例を示します。

図1 従来型のBAシステムとIoT/クラウド/AIがカバーする範囲
図1 従来型のBAシステムとIoT/クラウド/AIがカバーする範囲

図2 ビッグデータによるAIエネルギーフロー解析とダッシュボードの例
図2 ビッグデータによるAIエネルギーフロー解析とダッシュボードの例
図2 ビッグデータによるAIエネルギーフロー解析とダッシュボードの例

建物単位でなく製造ラインや各装置からのIoTデバイスレベルのデータを収集

従来の建物あるいはフロア単位の電力消費でなく、デバイスレベル(製造ラインや設備)のデータ測定を可能にするIoT機器の例を紹介します。実際の現場でおきている現象を把握するためには、どこでどれだけ電力消費が行われているかをリアルタイムで詳細に測定することが必要であり、原因となっている対象を特定することにより、具体的な改善に結びつけることが可能となっています。
IoT製品の国内の例では、特定小電力通信を利用して、CT(カレントトランス)から得た電流測定値を基に、詳細な電力パラメータをスマホのようなWebデバイスで容易に監視することができるシステムの例を示します。海外の例では、電源線不要の自己給電型小型センサ発信機となっており、ブリッジを経由してクラウドにデータを蓄積して、そのビッグデータを解析して、設備状況の状態をWebデバイスで状態を監視したり、AIによる解析結果を利用することができます。IoTデバイスレベルで膨大なデータ収集を行い、そのデータに対してAI分析を行うという点で、従来のシステムとは一線を画する機能を提供するシステムとなっています。

図3  IoT製品の例
図3  IoT製品の例

BAのオープン化(相互接続)とデータモデルの連続性は必須条件

スマートビルの実現に必要な要素は、様々なサブシステム(ビル、産業施設、交通、電気、ガスなどのインフラ施設など)が相互にデータ交換できることが必要ですが、従来は特定のメーカーやプロトコルに限定されているビルシステムや設備が多く、相互接続性が充分ではありませんでした。スマートビルとは異なるビルや地域分散されているビル間の情報が連携して、快適環境や省エネルギーを実現するものを意味します。これはフィールドからクラウドに至るデータモデルが、各レイヤーでデータ交換の一貫性が必要です。日本のBAシステムが遅れをとったのは、従来国際規格に準拠していない日本独自のシステムや、ベンダーが囲い込みを行い、将来の互換性も提供しないなどの製品が多かったことによるものです。
今後のスマートビルシステムは旧システムも新システムも一貫してオープン化標準規格に準拠し、統合と相互乗り入れが可能な環境の実現が、スマートビルの必須要素となっています。

【コラム】スマートビル成功のカギ

特定のアプリやプロトコルと製品の囲い込みからの解放がキーポイントです。
従来ビルなどのシステムはそのライフサイクルを通して、わたり機能追加や部分改修を妨げてきた囲い込み方式から、ライフサイクルのコスト低減と時間と場所を超える統合化、スマート化を実現するオープン化が、カギとなります。
1. 一つのAPIやクラウドサプライヤーに囲い込まれないこと
2. クラウド接続のためのオープン化標準規格に準拠すること
3. IAPなど囲い込みされないアプリケーション
4. BACnet、Lonworks、KNX、IAP、XML/SOAPの多様なアクセスを可能とする
5. マルチベンダーを可能とし、ベンダーの囲い込みからの解放


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