エムエスツデー 2022年1月号

エム・システム技研のBAよもやま話

第1回
BAいろいろ

(株)エム・システム技研 顧問 富田 俊郎

はじめに

ビルディングオートメーション(BA)の話題は歴史的経緯やインターネット、IoT・AI・クラウドなどの関連する分野の技術的発展および地球環境保護の視点から、SDGs、脱炭素、省エネ、新エネルギーなどの社会的要請もあり、かかわる分野はとても広く興味深いものがありますが、BAはすべての分野に深い関連があります。
私の仕事の初期は生産システムを制御するプロセスオートメーション(PA)分野で、信号変換器の開発から始まり、マイクロプロセッサを初めて導入した分散型の制御システムの開発までを体験する機会がありましたので、BAと対比することで似ているところや違うところを少しお話しできるのではないかと思います。BAの世界に出てからは、米国のBA会社との合弁会社設立から始まったこともあり、海外での仕事の経験などもお話しできると思います。国内でのBAビジネスと海外のBAビジネスの文化の違いなど、今の日本が抱える問題点が当時から始まっていることがわかります。逆にこれからの日本のBA製品とシステムが、世界標準に準拠し競争可能なオープンシステムにすることにより、これからますます世界で大きく発展する可能性を秘めています。

BAビジネスの魅力?

昔から食いっぱぐれのない仕事は衣食住の仕事といわれてきましたが、建築設備の一部であるBAはそれに該当するビジネスの一つです。世界の総合計装メーカーにはPA・FA・BAの事業部門をもっているところがあります(米国ハネウエル、ドイツのシーメンス、フランスのシュナイダーなど)。それらは制御システムとともに、それらに伴うソリューションと保守改修サービスを提供しています。事業の多角化の方向としてPA・FA・BAのトリオで事業を構成するのは世界でよくある事業の構成です。BA事業は当時世界中でPA事業の市場が停滞し、拡大発展が望めない時期に事業の類似性と地球温暖化対策の重要な要素として、古くからあるにもかかわらず、新しい期待をもって取り組まれてきました。

図1 Society 5.0でBAが貢献する分野
図1 Society 5.0(*1)でBAが貢献する分野

(*1)Society 5.0とは狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、
    情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が
    目指すべき未来社会の姿として提唱されたものです。

制御システムの形は似ている?

図2 PA、FA、BAの応答速度とシステムがカバーする範囲の違い
図2 PA、FA、BAの応答速度と
システムがカバーする範囲の違い

PAのビジネスはプロレス、FAはボクシング、BAはお相撲のような気がします。
PA、FAのお客様は高度な専門性とエンジニアリング技術を有すると同時に制御の応答速度と精密さもBAとはかなり異なります。ミリセカンドのFA,数百ミリから秒のPA,秒から分の応答のBAと、要求される応答速度の違いは面白いです。
一方、制御対象の広さではFAは製造ラインの制御の範囲、PAは広くプラント内の生産設備の範囲、BAは人の住空間範囲として、一つのビルからコミュニティをつなぐビル群、さらに地域をカバーするエリアの環境制御と極めて広範囲に渡ります。

お客様にとって選択の自由がないことによるコストの高止まり

日本の建築は世界の中でも固有の文化の中で育てられた独特の美しさがあり、世界に誇るべき建物がたくさんあります。現代のビルは単にその建物のみではなく、人々が快適に仕事の効率を向上させるための環境を提供するトータルシステムとなってきています。
建物は寿命を50年、その中のBAシステムは15年くらいの寿命といわれており、一つの建物で3回程度BAシステムの改修が想定されます。
建物の空調制御システムの歴史は古く、1970年代ころの電気式から電子式、さらに機能を通信で接続した分散型制御システムとして時代とともに発展し、現代のインターネットやクラウドを活用したシームレスに世界をカバーするオープンシステムとなってきています。
BAシステムは初期導入から建物寿命までに運転中の保守は、当然ながらその寿命がくるまでの期間に追加工事の発生に加え、大規模改修が2回程度想定されます。
したがってお施主さんにとって初期導入費用ばかりでなく、運転開始以降発生するランニングコストや、また大規模改修の費用も視野に入れたトータルでのライフサイクルコストが大切な評価指標となります。

ビルの古いシステムと最新のオープンシステムの構成の違い

ビル単体での制御の時代から、インターネットの普及でネットワーク統合されたインテリジェントビルの時代がありましたが、現在ではIoT、クラウド、AIの技術がビルの世界でも取り入れられ、従来からは考えられないほどカバーする範囲が広くなり、総合的に貢献するシステムとなってきました。
最新のビルシステムは、それぞれの構成要素がフィールドから上位の中央監視、データ収集装置、さらに外部サブシステムを接続するために相互接続可能な通信方式で構成されています。従来一つのビルだけで制御が完結していた時代から、複数のサブシステムを接続するビル内ネットワーク、さらに異なる地域にあるビルを結合する地域分散した建物と環境を管理するシステムとなっています。最近では従来のビルの範囲を大きく超えて企業内情報システムを相互接続し、IoTベースのあらゆるセンサからデータを収集し、得られたビッグデータをAI解析によって、従来のビルシステムでは得られなかった省エネ効率化、快適性の向上を実現するシステムが実用化されつつあります。

図3 古いビルシステムと最新のビルシステムの違い
図3 古いビルシステムと最新のビルシステムの違い

【コラム】ライフサイクルコスト削減の可能性

建物構造やデザインに関しては世界でもトップレベルの美しさでしたが、ビルを制御するビルオートメーションシステムは、その初期においては米国のハネウエル社から導入したものでした。A社は米国のシステムベースに日本のお客様からの要求仕様を取り入れて機能を改善し、その後の市場を席巻する独自のビルオートメーションシステム「savicシリーズ」を開発し発展を続けてきました。世界では世界標準規格に準拠したビルシステムが広く普及していく中で、国内市場ではオープン化の取り組みには消極的でその結果、世界標準に準拠したビルオートメーションに関しては大きくおくれを取ってしまいました。
もっとコスト節減できるにもかかわらず、ライフサイクルコストの視点が見過ごされてきた経緯があります。


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