エムエスツデー 2022年1月号

計装豆知識

BA(ビルディングオートメーション)の空調自動制御
空気線図 その2印刷用PDFはこちら

はじめに

今回は冷暖房時に、空気の状態が空気線図上をどのように変化するかを考えてみましょう。その前に前回のおさらいをしておきます。図1が人を対象とする空気調和で一般的に使われている、温度範囲がー10~+50[℃]の空気線図です(NC線図(*1))。横軸が乾球温度、縦軸が絶対湿度を表しています。左下から右上に伸びるカーブは相対湿度です。また、左側の左下から右上に伸びる直線が、空気1[kg]あたりの熱量を表す比エンタルピーの目盛です。

(*1)空気線図はインターネットで検索すれば入手できます。ただし、著作権がありますので使用には注意が
    必要です。

図1 空気線図(NC線図)

図1 空気線図(NC線図)

空調システム

例として、図2に示す空調システムで室内の冷暖房を行っているときに、それぞれの場所の空気の状態がどのように変化するかを、空気線図上で追ってみましょう。
この空調機は換気のために、送風量全体の30%の量の外気を取り入れています。室内の30%の空気は排気ファンで排気され、残り70%の空気が還気として空調機に戻ります。外気と還気の混合空気は冷温水コイルで冷却または加熱され室内に送られます。冬季には、蒸気を噴霧することによって加湿を行います。

図2 空調システム

図2 空調システム

暖房時の空気の状態変化

今回は暖房時にこの空調システムのそれぞれの場所の空気が、空気線図上でどのように変化するかを考えてみます。まずシミュレーションとして、外気と室内および空調機出口温度の条件を次のように設定してみます。

・外気 0[℃] 30[%RH]
・室内 22[℃] 50[%RH]
・空調機出口 30[℃]

図3が暖房時の空気の変化を空気線図上に表したものです。表1は各点の空気の状態を表しています。
図3のA点は還気(室内空気)の22[℃]、50[%RH]の点です。B点は外気の0[℃]、30[%RH]の点です。A点とB点を結ぶ直線を還気風量と外気風量の比率(7:3)で分割したC点が、還気と外気の混合空気になります。空気線図からC点は、温度が15.4[℃]湿度が56[%RH]であることが読み取れます。ここから混合空気を温水コイルで加熱すると、温水コイル出口の空気はDの点に移動します。D点の空気は空調機の出口温度と同じなので30[℃]になります。空気線図からD点の湿度は22[%RH]であることが分かります。その後、D点の空気は蒸気噴霧で加湿されE点に移動します。蒸気噴霧による加湿の場合は、空気の温度がほとんど変化せず湿度だけ上昇するので、空気線図上ではほぼ真上に移動します(*2)。E点の30[℃]31[%RH]の空気が室内に送風され、室内の暖房負荷と熱平衡状態になった時に、室内が希望する22[℃]50[%RH]になります。
暖房時には室内を循環する空気と取り入れた外気は、空気線図上をこのようなサイクルで移動し室内を快適空間に保ちます。

(*2)空調機の加湿装置には、空気に直接蒸気を噴霧する蒸気方式のほかに、湿ったエレメントに空気を通過
    させ水を気化させる気化式や、高圧ポンプで水を直接空気に噴霧する高圧水スプレー方式などがあります。
    蒸気方式では空気の温度はほとんど変化せず、加湿された空気は空気線図上をほぼ真上に移動しますが、
    気化式や高圧水スプレー方式では、水の気化熱で通過する空気の熱が奪われるため、加湿された空気は
    空気線図上を斜め左上に移動します。
蒸気式加湿方式と気化式加湿方式・高圧水スプレー加湿方式

図3 暖房時の空気の変化を表した空気線図

図3 暖房時の空気の変化を表した空気線図

表1 各点の空気の状態

表1 各点の空気の状態


熱量計算

冷温水コイルが暖房時に空気に与える熱量は、次式で求めることができます。
暖房時の冷温水コイルの熱量 = 0.278·G·ρ·(h2ーh1) [W](*3)
ただし
G:送風量[m3/h]
ρ:空気密度(通常は、1気圧、20[℃]、65[%RH]での空気密度である、
  1.205[kg/m3]の値を使用します)
h1:温水コイル入口空気の比エンタルピー(図3の例では30.6[kJ/kg]に
   なります)
h2:温水コイル出口空気の比エンタルピー(図3の例では45.0[kJ/kg]に
   なります)
同様に加湿時の1時間あたりの水分量は、次式で求めることができます。
加湿水分量=G・ρ・(x2ーx1) [kg/h]
ただし
G:送風量[m3/h]
ρ:空気密度(通常は、1気圧、20[℃]、65[%RH]での空気密度である、
  1.205[kg/m3]の値を使用します)
x1:加湿前の空気の絶対湿度(図3の例では0.0059[kg/kg]になります)
x2:加湿後の空気の絶対湿度(図3の例では0.0082[kg/kg]になります)

次回は冷房時の空気の状態変化を、同じように空気線図上で追ってみたいと思います。

(*3)係数0.278:空気の熱量は、送風量[m3/h]と空気密度[kg/m3]とエンタルピー[KJ/kg]の積で求められます。
    また、熱量の単位の[W]は[W]=[J/s]ですから、空気の熱量単位を[W]に変換するため、
    1000[g]/3600[s]=0.278を乗算しています。

【(株)エム・システム技研 BA事業部】


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