エムエスツデー 2020年10月号

設備と計装あれこれ

第16回
設備保守と保全(メンテナンスの実状と今後の方向)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

今回は設備のメンテナンスに焦点を当ててみます。保守と保全、似た言葉ですが保守とは設備の不調・故障や事故が起こらないようにする活動のことを言い、保全とは設備を良好な状態を保つ意味合いがあります。時代の要求は事後保全から予防保全へと移ってきており、壊れたら修理するのではなく故障の未然防止へと考え方が変化してきています。突発故障停止による設備破壊や時間ロスは膨大な損失であり、これを極力減らすことで生産効率は向上し、最終的には生産活動がすべて計画的に進められることを目標にしています。

メンテナンスを担当する体制組織

設備保守の体制は製造業種また企業や工場規模によっても違いが出てきますが、多くは機械、電気、計装に分類され、それに最近ではシステムが加わりました。そしてこれらの組織の業務は各々が設計、施工、保全のように細分化されますが機械部門は規模が大きいため別々に組織化され、計装のような小規模組織では単一グループのことが多いようです(図1)。製造工場はかねてより保全組織を自前でもっておりました。部品の調達も納期がかかるものや入手が困難なものについては自製で対応したものです。保全業務は自営か外注かという議論がされるようになりましたが、役割やあり方の検討が大切です。そして最近は自社のメンテナンスにとどまらずに積極的に外部にエンジニアリングを武器として進出しているケースも見られます。

図1 生産工場のメンテナンス体制
図1 生産工場のメンテナンス体制

突発故障の防止

一般的に機械や電気部門は設備自体の保守が主体であり、計装では誤測定や制御不調によるトラブル防止を主眼としますが、設備保守の大きな目標は定期修繕を待たずに発生する突発故障を防止することです。ポンプなどの回転体に使われる軸受を例に取ってみますと、破損や摩耗の発生周期がわかっているケースでは定期的な交換が普通に考えられますが、周期も前触れもなく壊れるものについては、監視の強化を図ることで故障の前兆が捉えられないかがテーマとなります。軸受に発生する損傷は過負荷や潤滑不良などがありますが、従来から異音の検知を人が聴心棒を用いて行ってきました。これに代わるものとして最近振動センサに温度計を組合せてシステム化した製品や開発品が出てくるようになってきました。この取組みは、今後さらにセンサの信頼性アップ、データの分類と解析向上に期待がかかります。

計装メンテナンスの実状

アナログ時代の計器はゆっくり壊れるという特徴があって、機械的には部材の摩耗があり、電気的にも抵抗やコンデンサの経時劣化があり、故障の前に不調という状態が現れました。制御弁でいえば動きが遅いとか制御の追随が鈍い、何となくおかしいというのもありました。最近のデジタル機器ではそのような症状は出ずに、コンピュータ停止あるいは通信異常など従来とは異なる故障で、まず電源の入り切り、次に部品を交換すれば復旧することが多く、「取換え中心のメンテナンス」などと呼ばれたりしています。
メンテナンスフリーが言われる中、極力使用に耐えうる壊れない設備を狙うのですが、突発故障は昼夜を問わず発生します。とくに人の少ない夜間に発生すると大変です。例えば工場の排水管理部門、中でも系外放流水のpH(ペーハー)測定は重要な項目ですが、工業用測定器であっても原理はガラス電極を用いており、試験室では正確に計測できても、現場では使用しづらいものです。直接水路に差し込んで行うこともあり、また測定の前処理として水路からサンプリングラインを設けたりします。異常値が示されているというときに現地に行って確認してみると、測定部にごみが詰まっていて水が停滞して流れていなかったなど、見れば簡単に故障なのかプロセスの異常なのか判断がつくようなこともあり、もう一工夫必要とされるところです。

設備診断のシステム化(異常箇所の特定)

長年の計装メンテナンスの経験で悩ましかったことは、計測器の指示が異常なのか、そうではなくプロセスの異常を正しく示しているのかの判断がつかないことがあったことは、以前の稿でも申しあげました。その理由として工業センサは間接測定であること、また生産ラインには品質を示す指標が少ないことなどです。そこでデータが通常値から外れたときに、そのデータの指示するものが正しいのかどうかを履歴データや近辺の操業値から類推して状況を狭めていき、故障なのかプロセス自体の異常なのか判断できるところまで進めたいものです。従来操業オペレータは全体を眺めて総合的に判断することを得意としておりました。多くの蓄積データや過去の事例との比較によって判別がつくことが多くあると類推されます。(図2)今後期待される診断の進め方として、一つには「センシング技術」の確立(設備の振動・温度等の測定、次には遠隔自動監視)、さらには「アイデア技術」の発掘(同種類機器の対比観測、特定の条件や回転数や季節的要因の考慮)と、このように計装の役割には品質トラブル防止の部分が大きいと述べておきます。

図2 設備の解析や診断のシステム化
図2 設備の解析や診断のシステム化

【コラム】修繕計画と予備品の山

自家発電設備では定期的な法定点検が定められていてその際必要部品の交換作業がなされます。しかし一般生産ラインでは設備毎に定期修繕日を設けはしますが、部品交換周期は一概には決まらずに、多くの計器や変換器など壊れなければ交換しないというのが普通のことでした。それで用意はしたものの使われない予備品が山のように保管されているとはよく聞くことです。予備品の確保も修繕計画のルーチンに取りこんで形あるものにして行きたいものです。


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