エムエスツデー 2020年10月号

計装豆知識

CC-Link IE TSNについて印刷用PDFはこちら

産業用オープンネットワーク「CC-Link IE TSN」についてご説明します。

TSNとは

近年様々な産業分野でイーサネット化が進められています。その理由は、IoTの時代に向けて、情報系から制御系まであらゆるものがつながり、シームレスなアクセスを可能にし、生産性・安全性・保守性・品質の向上や省エネルギー化、低コスト化を実現するシステム全体の自動化および最適化が期待されているからです。
TSN「Time Sensitive Networking」は、IEEE(米国電気電子学会)が定義するイーサネット データリンク層(レイヤー2)の拡張規格であり、従来のイーサネットでは不可能であった時間の同期性を保証し、産業分野(FA、PAなど)での通信に必要なリアルタイム性を確保できるようにしたネットワーク規格です。また、非TSNフレームがベストエフォート・ベース(保証なし)で送信されることを許可しつつ、TSNイーサネット・フレームがスケジュール通りに(保証ありで)送信されることを可能にするため、情報系から制御系までのネットワークを1つにまとめることができ、今後の普及に期待が寄せられています。IEEE 802.1内のTSN規格は、TSNタスクグループによって開発された複数の下位規格からなり、これらの規格を複数組合せる形で実現しています。その代表的な規格を表1に示します。TSN規格は現在も進化を続けていて、表1に挙げた以外にもまだ承認されていない草案段階の規格がいくつかあります。

表1 代表的なTSN規格

規 格 名 称 内 容
IEEE 802.1AS 時刻同期
同期された時刻を伝送するプロトコルを定義する。
IEEE 802.1Qbv スケジュールされたトラフィックの拡張
スケジューリングされたフレームを
時刻どおりに送信する。
IEEE 802.1Qbu フレーム割込み
優先度の高いフレームの割込みを可能とする。
IEEE 802.1Qci ストリーム毎のフィルタリング
およびポリシング
妨害、異常または悪意のある攻撃から保護する。
IEEE 802.1CB 信頼性のためのフレーム複製と排除 信頼性を高めるため冗長化する。
IEEE 802.1Qcc 拡張とパフォーマンスの向上のストリーム予約 ストリーム予約プロトコル。

CC-Link IE TSNとは

CC-Link IE TSNは、CC-Link協会が普及活動を展開するTSN規格を世界に先駆けて採用した産業用オープンネットワークです。
CC-Link IE TSNは、IEEE 802.1AS(時刻同期)およびIEEE 1588とIEEE 802.1Qbv(スケジュールされたトラフィックの拡張)のTSN規格に準拠しており、時分割でリアルタイム性を実現しながら、同一幹線上で複数の異なるネットワークの混在も可能となっています。さらに、効率的なプロトコルにより、高速・高精度なモーション制御を実現しています。

CC-Link IE TSNの特徴

(1)制御通信と情報通信の融合
機器制御用のサイクリック通信に高い優先度を与え、情報通信よりも優先的に帯域を割当てることで、リアルタイムなサイクリック通信で機器を制御しながら、ITシステム(非TSN)とも情報をやり取りするネットワーク環境を簡単に構築できます。

異なるネットワークの融合のイメージ

異なるネットワークの融合のイメージ

(2)システムの早期立ち上げや高度な予知保全
SNMP(Simple Network Management Protocol)に対応しているため、汎用のSNMP監視ツールによって、CC-Link IE TSNに対応した機器だけでなく、スイッチやルータなどIP通信に対応した機器もまとめて収集・分析できます。
また、高精度な時刻同期を行っており、マスタやスレーブがそれぞれもつ時刻情報をマイクロ秒単位で合わせているため、たとえばネットワークに異常が発生したときの動作ログ解析時に、異常に至るまでの事象を正確な時系列で追えるようになります。
さらに、ITシステムへ生産現場の情報と正確な時刻情報を紐づけて提供することが可能となり、データ解析アプリケーションによる予知保全などで、より大きい精度向上が期待できます。

(3)駆動制御の性能を最大化してタクトタイムを短縮
時分割方式により、31.25μs以下という高速な通信性能を実現します。センサの追加やラインの増設などで制御に必要なサーボアンプの軸数が増えた場合でも、全体のタクトタイムへの影響を最小限に抑えられます。
また、同一ネットワーク内でも複数の通信周期で運用することができます。したがって、それぞれの機器の特性に合わせ通信周期を最適化することが可能になり、ネットワーク上のスレーブ機器がもつ性能を最大限に活用し、システム全体の生産性を高めることができます。

複数の通信周期で運用した場合のイメージ

複数の通信周期で運用した場合のイメージ

(4)CC-Link IE TSNの通信仕様
項 目 仕 様
通信速度 1Gbps/100Mbps
1局あたりの最大
サイクリックサイズ
各局、入出力合計で最大4G(4,294,967,296)オクテット
トランジェント伝送(*1) 各局サーバ機能、クライアント機能あり伝送容量はSLMP(*2)と同一
通信方式 時分割方式
同期機能 EEE802.1AS、およびIEEE1588v2準拠
1ネットワークの
接続ノード数
64,770台(マスタ局とスレーブ局の合計)
最大ノード間距離 ・ツイストペアケーブル(IEEE 802.3準拠)の場合:100 m
・光ファイバ(IEEE 802.3準拠マルチモードファイバ)の場合:550 m
・光ファイバ(SI-POF)の場合 : 20 m
・光ファイバ(SI-HPCF)の場合:100 m
最大分岐数 上限なし
トポロジ ライン、スター、ライン・スター混在、リング、リング・スター混在、メッシュ

エム・システム技研のCC-Link IE TSN対応 製品

写真1 形式:R30NCIT1小形多点数組合せ自由形リモートI/O R30シリーズについてCC-Link IE TSN対応通信カード(形式:R30NCIT1)(写真1)を開発しました。通信速度は1Gbps対応でリモートレジスタはRWw(*3)/RWr(*4) 64点となり、任意のI/Oカードと組合せて構成するリモート局となります。

<参考文献、参考資料>
CC-Link協会ホームページ https://www.cc-link.org/ja/

(*1)トランジェント伝送:マスタから指定したスレーブに対して、任意のタイミングでデータを
    送受信する伝送方式
(*2)SLMP:Seamless Message Protocol
(*3)RWw:マスタ局からスレーブ局に16ビット単位(1ワード)で出力される情報
(*4)RWr:スレーブ局からマスタ局に16ビット単位(1ワード)で入力される情報

【(株)エム・システム技研 開発部】


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