エムエスツデー 2020年7月号

設備と計装あれこれ

第15回
操業と技術(操業現場にある技術の発掘と活用)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

生産現場を担当する運転員や操業スタッフは、製品品質の維持に始まり省エネルギーや中長期に及ぶ操業計画など、課題を数多く抱えています。操業現場は宝の山といわれますが、マニュアルどおりに生産活動がされていても課題の解決には限界があります。さらなるレベルアップのためには製造プロセスの深読みや、それらの中に新たな関係づけを発見していくことも必要となります。それと並行してチームで改善に取組んだ小集団活動について紹介します。活動の範囲は生産効率、製品品質に始まり、設備の修繕、改善、保全さらには事務部門にもおよびます。

生産プロセスは奥が深い

(1)ゲインが状況で変化
計装を長く経験した者からすると、Aという行動に対してBという結果があるときに、その因果関係にゲイン(利得)があるかどうかに興味があります。そこにゲインがあると制御が可能というように考えます。生産プラントで制御系が成立しているところはすべてそのとおりといえます。しかしながら操業現場で悩みとされるのは、因果関係はあるものの状況によってはゲインが異なる、あるいは相関が出ない、また同じ製品であっても日時が異なると違う結果が現れるなどの現象です。製紙工程でその例としてよく出されるのが、原料に添加される薬品の効力です。原料の木材パルプは元々植物ですから厳密にはいつも同じということはありません。図1は抄紙機のワイヤーパートでの脱水工程の模式図です。長繊維はワイヤー上に残りますが、微小繊維はワイヤー上に残らずに脱水とともに落下します。極力原料を有効利用するために添加されるのが歩留まり向上剤で、仮に0.1%でも原料歩留りが改善されると、資源の有効活用ならびに流出する資源の削減につながってきますが、銘柄毎に歩留り管理することが困難なものとして知られています。

図1 抄紙機の脱水工程模式
図1 抄紙機の脱水工程模式

(2)多くの計測値から全体を予測する取組み
プロセスにある情報を引き出すには計測点を増やし、そのデータを利用することから始まります。昨今はコンピュータ解析による多重相関の利用も容易になってきました。前述の抄紙機の脱水では泡の発生が多く電磁流量計では測れないため、堰を設けオーバーする水位のデータを得ました。これは脱水のメカニズム解析の向上につながり、製造中に断紙を発生させない運転情報を得て、高速製紙技術につながってきています。

小集団活動の取組みと成果(改善活動)

図2 QC手法の活用例
図2 QC手法の活用例
小集団活動はQC(*1)とかTQC(*2)などの略称でも呼ばれていて、 職場での様々な自主活動をいい、この取組みは国内でおよそ40年以上の歴史があります。与えられた業務を通じながらも自分たちで考えて各方面に成果が出ており、これらを一括して「カイゼン」活動と称することもできます。筆者もこの活動に参画してきましたが、ここでは様々な手法が取り入れられて活動の推進にインパクトを与えています。図2に代表的な手法を示しますが、およそ多種多様あり枚挙にいとまがないとされています。これらの手法を使い分け、テーマの設定から解決に至るまで上手にまとめられた発表を多く見てきましたし、その成果も大きなものがいくつもありました。この活動ではグループを構成する人が現在抱えている問題点を持ち寄って集まり、そこにある課題について議論をします。そこで様々なことが話し合われ内容が深まっていき、優先度や実現の可能性を考慮してテーマを選定して活動が次に進んでいきます。

(*1)QC:Quality Control
(*2)TQC:Total Quality Control

インドネシア製紙工場の改善活動

写真1 スラバヤ市内の光景
写真1 スラバヤ市内の光景
筆者は中国には何回か訪問し、また工場の増設工事にも加わったことがありましたが、インドネシアにはエム・システム技研の業務で一年半前に初めて訪問しました。ジャワ島東部の都市スラバヤに投宿したホテルの周囲にはツバメが飛び交い、近郊の田園風景にも愛着が感じられました(写真1)
ここにある製紙工場には北欧の大型最新機械が導入されているのと併せて、日本で停機した小型の設備が移設され稼働しているというハイブリッド的なものでした。その最新設備では上質コピー用紙が大量生産されていましたが、これを見て思い出したことは紙の価格破壊です。製紙産業は日本では原料輸入の内需型産業であり、要求品質が高いため輸入品は使い物にならないとされてきましたが、20年前くらいから輸入されたコピー用紙が増え始めました。コピー機の性能が上がったとはいえ、そこに使われる用紙が悪ければ紙詰まりや色の滲みが発生して問題となります。これが可能になったということは価格の安いことが要因の一つですが、それと同時に日本のユーザを納得させる品質のレベルアップを伴っていたことです。前置きが長くなりましたが、訪問した工場通路の掲示板には「カイゼンカツドウ」の文字がローマ字で書かれ、いくつかの成果発表が掲げられていました。ここには北欧の製紙技術が設備として導入される一方、設備の運用には日本の操業技術がQC活動とともに入っていたことを知り、妙に納得した次第です。

【コラム】テクニックをテクノロジーへ

まだ計装という言葉が定着してない昔のことですが、連続操業職場のある交替番だけが生産効率が良いということがありました。そのグループだけが知っている操業指標(バルブ開度)があったようです。現在ですとデータは履歴に残りますから笑い話ですが、漠然としたものを形にして残していく過程で、状況の把握ができ技術の蓄積が始まります。現場のもつ技術の一つ一つがテクニックであり、それをだれでも使えるように工業化したものがテクノロジーといえます。たとえば新設備が完成して運転に入る前の教育に、既知の操業情報を模擬ループに取込み、運転シミュレータを構築し活用したこともありました。


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