エムエスツデー 2020年4月号

設備と計装あれこれ

第14回
安全の推進(安全の課題と自動設備)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

工場生産活動の源泉は安全にあり、次に環境保全、そのあとに初めて生産量の確保、品質の維持と続きます。安全はすべてに優先すると言われますが、労働災害は依然として多く発生しており、過去の災害事例を調べてみるとその内容は多岐に渡り、またその原因も様々です。設備設計をする立場にあっては、異常や故障が発生したときには設備が安全サイドに動作するように考案し(フェイルセイフ)、作業者が勘違いを起こしても災害が未然防止されるように極力考慮(フールプルーフ)するのですが、これで十分ということはありません。この稿では安全に関してまず全般的なこと、そして自動設備のあり方に焦点を当ててみたいと思います。

工場災害の要因(多種多様に及ぶ)

工場で発生する労働災害の要因を図1に分類してみましたが、何れも致命的な災害となる危険をもっており、過去にいくつもの発生事例が報告されています。物理的なものとして高所からの落下、それに移動体による圧迫や挟まれ、回転体食込まれなどがあります。次に化学物質や熱源に絡むものとして、有毒ガスや酸欠そして高圧薬液噴出などがあり、電気関連としては感電や誤動作などが挙げられます。一方災害の発生状況で見ると、定常運転中に起きたことなのか、異常や故障の発生時だったのか、それに工事や定期修繕中だったのかの区分もでき、それぞれに特徴が見られます。このように災害の要因は随所にあり多種多様ですが、一つずつ過去の事例も参照して解決していく必要があります。

図1 工場災害要因の分類
図1
工場災害要因の分類

運転禁止札(安全の守り札―人の信頼)

安全の代表的な取組みの一つに運転禁止札があり、工事や修繕(メンテナンス)をするときに作業の安全と利便性の両方を考慮して古くから継続して運用されてきたルールとして、人と人との信頼に基づいています。具体的には誤動作や誤操作により設備が運転状態にならないように元電源を開放し、そこに運転禁止札を掛けるのですが、その代表的な使用例を図2に示しました。これは電気室の電動機の例ですが、該当設備の元スイッチとなるブレーカ(NFB)を落とし、そこに操業担当部署、工事担当部署、工事業者の各々が札を掛けます。作業が終了すると、再び関係者立会いのもとに掛けられた札を外します。修繕作業中に誤って設備が運転されないための人と人との信頼に基づく安全対策ですが、この約束事のために運転再開が遅れることはあっても、災害が発生することはありません。

図2 運転禁止札の使用例
図2
運転禁止札の使用例

自動設備の安全確保

(1)油圧に注意(生きたままの作業は危険)
電動機類には注意が及ぶものの、時におろそかになり易いのが油圧です。ロール加圧や物の搬送などに便利である反面、メンテナンス作業の際には必ず油圧装置を停止し、油圧が立っていないことを確認してから、作業に移らないとなりません。このことを忘れて、重量ロールなどを油圧装置が生きたまま仮設架台で支えるようなことをすると、思わぬ作動で設備を破壊すると同時に、重大な災害につながった事例が多くあります。
(2)自動運転に潜む危険(シーケンス渋滞中やその解消時が危ない)
自動運転シーケンスを構築する際には、正常動作のほかに、異常発生時に対処する動作を作成します。異常処理では正常でない状態を検知すると、まずアラーム(警報)を発するとともに状況により停止動作に移行するようにします。図3は製品を搬送するコンベアを想定した簡単な絵を描いてみました。プッシャーで押し出された製品はコンベアを渡りながら搬送されますが、各コンベアを運転する条件は「運転指令」というかたちでロジックが組まれます。そして搬送動作はフォトスイッチやタイマーで監視を行い予定の時間内に「動作完了」とならなければ異常と判断しアラームを発し、その後停止工程に移行するようにします。
この例にあるコンベアは物を搬送する際コンベア自体は回転するだけですが、エレベータやリフター、最近多くあるパレタイザー(積み付け機)などは機械本体が移動します。このような設備では災害発生が無いよう安全柵を設けて人が立ち入らないようにしています。一方自動運転が渋滞するにはその原因があるのですが、その原因が取り除かれると急に動き出すことがあります。設備設計者はあらゆる動きに十分注意を払い、予期していないパターンの発生や回路ミスを起こさないことです。
(3)安全と生産効率
安全と効率は天秤に架けられるものではなく、常に安全が優先されるものです。しかし監視を厳しくし過ぎるとちょっとした異常検知でも自動運転は中止されて停止シーケンスに移行することになり、この程度が高すぎると生産効率が低下する結果となります。背景には自動停止はインターロック動作により連動して多くの設備を同時に止められますが、運転再開は手順を追って行い手間が掛かるため極力自動運転を継続させたいという意識がオペレータには働きます。対策として取られる安全柵やドアキー(抜くと自動→停止)、また手が入らなくすることが最終的な解決策であるかのチェックも必要です。このように設備の安全確保には課題が多くあり、安全にはゴールがないとはよく言われることです。

図3 自動工程の安全確保
図3 自動工程の安全確保

【コラム】ウラの動作

段ボール箱をパレットに積みつけるパレタイザーやリフター、また製紙のワインダーなどは油圧や電動機を駆使した自動設備の典型例ですが、これらの動作ロジックを組む際には細心の注意が求められます。予定の動作をオモテとすれば異常状態を監視し発生時に危険回避動作するのは言わば「ウラの動作」です。定常動作に加えてウラの動作をどのくらい考慮してあるかで自動運転ロジックの完成精度は高まり、そのようにして安全への配慮を尽くしていくことになります。


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