エムエスツデー 2020年1月号

設備と計装あれこれ

第13回
省力化の推進2(デジタル計装の流れとDCSの活用)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 従来からの空気式が電子式へ、そしてデジタル方式への移行が計装システムの変遷ですが、その流れを再確認してみましょう。アナログ時代においては電子回路で実現する四則演算は行うにしても変更するにも結構大変で、複雑な計算となるともっぱら制御用コンピュータの領域でした。それがDCS(分散型制御システム)を中心とするデジタル計装システムが一般に活用されるようになった1980年代以降は、複合演算やシーケンス処理またはこれらの融合したものを容易にユーザーでも作成と修正が行えるようになり、操業に密着した制御やガイダンスが可能になりました。またCRT(画面)を利用してデータや情報の表示がされるようになったことも特筆されます。それ以降設備の新規計画や既存設備でも省力化対策工事として多くDCSが採用、導入されてきたことが注目されます。

デジタル計装への流れ

 制御用コンピュータは70年代頃から既に産業界で利用されていてそれは現在まで続いているのですが、計装システムや機器とは別のものとしてありました。当時制御用コンピュータのプロセスにおける使用方法として電子式調節計へ上位から指令する方式で試みられた時期があります。それからデータロガーは現在ではシンプルなシステムで構成されますが、当時日報などをタイプライタで出力印字するには大掛かりな設備を必要としました。いずれもソフトウェアの作成作業は容易ではなく、そして一度作られたものを修正する必要が発生してもプログラムの変更はユーザーでは簡単ではなく、きめ細かい操業へのフォローは困難でありました。
 その後に登場してきた各種デジタル計装機器は制御用コンピュータを計装制御用にアレンジしたものでDCSがその代表です。PID調節計をはじめとしてパネル計器の制御や演算部分は制御装置に一括収納し、監視操作部分をCRTに表示しキーボードで操作できるようにしたものです。その小型版である8ループや1ループのコントローラを含めてユーザーが容易にソフトウェアの作成や変更ができたことで抜群に使いやすいものとなり、そこで多くの応用ソフトが作成され実用に寄与しています。図1にこれらのことを記載してみましたが、その後に簡易計装としてPC(パソコン)ベースにPLCをもつシステムが中小設備で実現されていて、これも時代の流れと言えます。使いにくかった制御コンピュータがプロセス制御の中心であるPIDコントローラを取込んでその中心に据えたことで、極めて使い勝手の良い計装設備が実現しました。よく言われる「ユーザーフレンドリ」な設備という言葉はこのころから多用されるようになったと思います。

図1 制御用コンピュータ活用の流れ
図1 制御用コンピュータ活用の流れ

DCSの活用

 (1)ソフトウェアの自由な構築(大抵のことはできるようになった)
 紙の上に書かれたロジックを現実のものとする複合演算やシーケンス制御の容易な構築、そして多彩な入出力カードを取揃えたDCSは多くの生産プラントで採用されるようになりました。その過程にあっては1ループデジタル計器などを使用した経験積み重ねがベースにあり、例として製紙産業で常に課題となるパルプ濃度の補正、それに放射線レベル計の特性補正などがあります。本格的には生産設備の自動運転停止(人為操作を模擬したシーケンス制御)にも取組んでいます。ただ部分的にはいくつかの成功事例はあるものの、すべての状況変化に対応するのは困難であり、設備と人とのコミュニケーションをどのように取るかは今日現在でも課題といえます。
 (2)思わぬ効果(省力化の支援となった)
 制御は分散、監視は集中といわれたDCSは、各所に分散していたパネル室の統合を容易にしました。それに中央操作室にあるパネル盤の半分の面積を占めていた電気盤(ポンプやファンなどの機器モータ操作)を取込んだことが、いわゆるボードレス化に貢献しています。これは設備担当者側から見ると工事費の削減(膨大な信号ケーブルが通信ケーブル1本で済んだこと)があり、また長大な制御パネルが不要で変換器類はラック盤に収納となることで部品点数が減少し故障削減にもつながりました。図2はKP(パルプ)設備の例で、宮城県の工場で83年に初めて導入されましたが、最近北欧を調査した際の情報も加えて図を描いております。
 デジタル計装の導入効果をどのように評価するか、筆者の経験では省力化対策工事の一項目として扱われて推進されてきたように覚えています。当初DCSの導入に対しては省力化効果をとくに意識していませんでしたが、複数箇所に点在していたパネル室を統合して一箇所に集中することに効果のあることがわかり、結果的に多くの生産設備に省力化工事の名目で採用されるようになりました。生産設備はそのままにして制御装置を従来方式からデジタル方式に更新することのメリットをどのように捉えるかと思案していたところに省力化対策工事で実施できたことは操業サイドとしても設備担当としても有意義でありました。

図2 DCSの応用例(パルププラント)
図2 DCSの応用例(パルププラント)

【コラム】ボードレスオペレーション

 現在パソコンを業務に活用するとともに、応用された制御システムを使用して操業する時代となりましたが、当時DCSの特長の一つである画面にデータを表示しキーボードから運転操作するというスタイルは画期的なものでした。従来のパネル盤を廃止して画面に向かって操作することでボードレスオペレーションあるいはCRTオペレーションと呼ばれました。この時にポンプなどモータの起動停止を計器操作と同列に行えるようにモータ操作用の内部計器が機能整備されています。ただ以前ですと広大な操作パネル盤にすべてが常時表示されていたものが、画面のページを呼び出さないと見られないことに不安を覚えたりしました。


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