エムエスツデー 2020年1月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 肌寒さが少し感じられるようになってきた11月中旬の土曜日午後のことですが、生まれて初めて「天満天神繁昌亭」という落語寄席に足を運びました。それは産経新聞に記事として繁昌亭ができた経緯と公演予定が出ていたのが原因ですが、いつかは寄席で直接落語を聴いてみたいと思っていたこともきっかけの一つでした。話を聞いてみると「上方落語協会」という協会があり、若手の咄家の出番がなかなかないので何とか上方落語専門の舞台を用意したい、と桂三枝(現桂文枝)会長(当時)が苦慮していました。ちょうどそのときに、大阪天満宮の宮司さんから「隣の駐車場をただで寄席にしてもらってもよろしおま」という話がいただけたので、会員が奔走して寄付を集めてようやくできあがったのが、この天満天神繁昌亭というものらしいことが分かりました。
 前半は若手の創作落語のような物語で、その話の中には「ここで笑ってください」なんて言われて笑ったところもありましたが、真打として登場した桂小春団治はさすがに本物の語り手だと思いました。図1 1/1000キット
図1
1/1000キット
内容は「自宅の空気清浄機が電源スイッチを入れても動かない」というところから始まって、メーカーのサービスセンターとのやり取りが続くのですが、これが非常に面白くて久しぶりに笑いが止まらないという経験をしました。
 間もなく東京のビッグサイトでIIFES(Innovative Industry Fair for E x E Solutions)と名づけられた展示会が開催される今年(2019年)11月にこの原稿を書いていますが、エム・システム技研はこのIIFESに目玉商品としてステップトップ(ステッピングモータを使って動かすバルブトップのつもりで付けた商品名であり、目下、商標登録出願中です)を使った1/1000キット(図1)を展示する計画を進めています。1/1000キットと命名したデモキットは、ステップトップを使った電動調節弁が1/1000を余裕をもって超える分解能と再現性とをもって動くこと、更にはその動きがスムーズなことを体感していただきたいと思って製作しました。正に「百聞は一見に如かず」です。

 開度フィードバック信号用に出力軸直結の直線形ポテンショメータが取付けられており、それが発信する開度信号をステッピングモータの制御回路が12ビットADCで読み込んでいます。12ビットADCの最後の1ビットは2の12乗分の1ですから、4096分の1ということになります。1/1000キットではこのステップトップが入力信号に対して理論上1/4096の分解能で制御されていることになります(実際には4~20 mA DCを1~5V DCに変換し、開度信号1~5V DCとの偏差をゼロにするように制御回路が働きますから、1/2000を超える分解能と再現性が読みとれます)。ステップトップは、流量制御用のグローブバルブなどと組合せて電動調節弁としてご使用いただくことになります(制御用入力信号として4~20 mA DCだけでなく、CC-LinkやDeviceNet といったデジタル通信を使う機種もご用意しています)。
 現在の全世界(もちろん日本も)の工場で活躍しているのは、大部分がスマート機能を備えた電空ポジショナ付のエアトップで制御する空気圧式調節弁です。多分そこには計装そのものが石油精製や石油化学のプラントを自動運転する目的で、その技術が磨かれてきた事情があるのではないかと思いますが、これらの現場で使用される計装機器はすべて防爆規格に準拠したものでないと使えない事情があります。今では鉄鋼、非鉄金属、紙パ、セメント、食品などのプラントや半導体製造設備など、防爆を必要としないプラントは数えきれないほどあります。この防爆規格準拠を求めないプラントで使用する調節弁にステップトップを備えた電動調節弁を導入していただけると、大幅なコストダウンと高性能な制御性が得られるうえ、そのほかにも次のようなメリットが得られます。

  • ❶高価な空気源が不要です。
    コンプレッサ、脱湿機、減圧弁フィルタ、空気配管など、すべての空気源設備が不要です。
  • ❷大幅な省電力になります。
    コンプレッサは強力なモータで動かすので、消費電力の問題がつきまといます。電動調節弁はバランスしている状態ではほとんど電力を消費しません。
  • ❸空気配管が不要なので、空気の漏洩問題もありません。
  • ❹電動調節弁は、はるか遠方にある調節計からの出力信号でも応答遅れがありません。
  • ステップトップは空気式よりも小形で場所を取りません。
  • ❻電動調節弁はポジショナ機能を内蔵しているため、メンテナンスフリーといってもよいほど手が掛かりません。

 ざっと思いついたものを挙げただけでもこんなに多くの利点があります。
素材技術が急速に発達してステッピングモータという電動調節弁を駆動するのに最適なモータが現れたので、ステップトップが提供できるようになりました。ステッピングモータは従来のモータ(インダクションモータやDCモータなど)とは本質的に異なったモータです。
 モータに図2のような永久磁石を用います。制御回路からコイルにパルス電流を流すと、歯車のような形をした永久磁石が1歯分だけ動きます。この永久磁石は「ネオジム磁石」を使った強力なもので、抽出力にパワーがあります。図2 ステッピングモータの回転原理
図2 ステッピングモータの回転原理
ステップトップの出力軸を0から100%にするのに28,800パルスを加える設計になっています。出力軸の全ストロークが15 mmの場合、1パルス当たり約0.5ミクロン動くことになります。実際にはギヤのわずかなバックラッシュとか、スクリューナットの加工精度の問題もあって1ミクロンくらいではないかと思いますが、ステッピングモータは1/1000の分解能(15ミクロン)を出すには充分なモータだといえます。
 この1/1000キットでは入力信号を4桁のデジタルパネルメータに表示し、開度信号も同様にして両方とも1~5V DCを表示するようにしています(最小桁の数字は1/4000ということになります)。入力信号と出力信号が最小一桁の攻め合いになっている姿を手に取ってご覧いただけます。その両信号をタブレットレコーダ®に入力して、その動きを時間軸に沿って観察していただくこともできます。

図3 IIFES展示ブース
図3 IIFES展示ブース
 こうしてできあがった1/1000キットを、世界中の調節弁のメーカーとユーザーにその動きを実感していただきたいと考えて大量にご用意しました。計装技術者の皆さまには電動調節弁の性能がここまで来たということを体験していただきたいです。そして具体的に使ってみて欲しいと熱望しています(エム・システム技研が電動アクチュエータを発売して以来35年になります。総出荷台数は73,781台で2018年は5,248台の出荷実績があります。既にこのステップトップと組合せた電動調節弁を売出して成果を上げていただいているバルブメーカーに、東工・バレックス(株)様、(株)一ノ瀬様、旭有機材(株)様、SKC(株)様があります)。
 なお、このステップトップはバルブ以外にも多数の用途があるに違いないと考えています。この1/1000キットが多くのアプリケーションを呼び起こしてくれるのではないかと考え、内心ワクワクしております。
ホットライン

天満天神繁昌亭


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