エムエスツデー 2019年7月号

設備と計装あれこれ

第11回
ロジック表現の手法
(あらゆる動きのあるものを記述する)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 この連載では機械や計装を中心とした設備の基本的な要素や役割を述べてきましたが、ここから数回はシステム化を推進する際の方法や構成要素についてお話しをしたいと思います。その項目としてはロジック(論理)表現の手法、システム化に必要な省力化や自動化、それに伴う安全設計のあり方、また設備全体を支えるメンテナンスなどを取り上げる予定です。今回は論理やシステムを組立てるときに用いられる多々あるロジック表現の中からいくつかをひも解いてみたいと思います。

鉄道のダイヤ図(ダイアグラム)

 始めに紹介するのは鉄道のダイヤ図です。一般にダイアグラムというと有りとあらゆる図面や線図とりわけロジックを表現したものが含まれるようです。国内で初の鉄道は明治5年に新橋・横浜間に開通した路線ですが、建設に当たりイギリスから派遣された鉄道技師は鉄道の運行表を現在駅で見るような時刻表として日本の担当者に示しただけで、それを見た人はどうやって作ったのだろうと不思議に思ったそうです。その後に知ってわかったのが図1に示すような縦軸に駅名を記し、横軸に時間経過を示すグラフだったそうです。この鉄道ダイヤ図はごく簡単なものなのですが、当時この図を初めて見た人はこのような表現手法に大変驚いたということです。鉄道ダイヤ図は現在でも3分刻みの過密ダイヤで運行される東海道新幹線でも使用されており、眺めるとほとんどすき間なく引かれた黒い線が重なり合って見えるだけですが、コンピュータによる運行制御が行われるのと同時にダイヤ図も現場では使われていると聞いています。我々は現在ものの動きを示すダイアグラムをタイムチャートなどのほかにも工事の進行を示す工程表など様々な場面で使っています。 図1 日本初の鉄道ダイヤ(新橋~横浜 明治5年)

設備の表現に使うフローシート

 フローチャートというのはコンピュータのプログラミングに使われるものですが、これに似た言葉にフローシートがあります。これはプラントの全体や流れを図式的に示したもので、P&Iとも呼ばれ実際のプラントの意味することが図面上に表現されています。フローシートは今までの連載の中で何回も表記してきたものですが、化学プラントや製紙プラントなど長大な工程を持つものは紙の上に表現すると延々と長くなりますが我々は「巻物」と呼んで使ってきました。またすべての内容を一枚の図中に表現しようとすると細かくなりすぎてかえって見にくくなるので、一般に操業系(運転・品質データ)のものと設備系(設備仕様・性能)のものに使い分けることが多いようです。

計装や制御ロジックに使われる手法

 さて話をもう少し狭めましょう。始めに述べました鉄道のダイヤは列車の運行スケジュールを紙の上に表現したものであり、これと同じように我々が扱う生産工場の世界も様々な動きを記述するために多種多様なロジック表現を使用します。これは手法とも呼ばれ数多くありますが、実務で使用される代表的なものは次の3種類で、図2に概説してみました。いずれも始まりがあって終わりがあるか、表記で記述の範囲を示すことで事象を区画、限定しようとしています。 図2 ロジック表現手法の例  (1)ブロック線図
 厳密には制御のロジックを表現するために使われたものですが、PIDなどのアナログ制御も有れば、AND-ORで書かれた精密なインターロック線図のようなものもあります。さらには様々な論理処理や展開にブロック線図は応用されるものが多くあります。

 (2)ラダー線図
 元来電気回路に使われてきたもので、電源と電灯、電動機などの対象物を線でつなぐとこのようになります。複雑な自動回路を組むためにリレー(継電器)が使われてきましたが、現在PLCでロジックを組むのがメインになってきても、その内部表現ロジックはラダー表記が主流になっています。

 (3)フローチャート
 コンピュータの演算処理手順を人の目で見てわかるように記述したものがフローチャートです。処理の手順が留まることなく分岐結合で流れていくため、この図が書かれるとそのまま完成図といえるものです。コンピュータ処理のほかに物事の進め方に応用する人もいます。 これらのロジック表現は、とても簡単には整理分類できるものではありませんし、目的によりまた記述者により異なる表現や使われ方がされるでしょう。ただ読者の中にこれから様々なロジック表記を勉強されるという方がいらっしゃれば、ご自分で多く経験を積まれて、目的にあった表記技術を取得されて、ぜひ実務に活用できるようになっていただければと思います。

【コラム】中に入らない部品

 筆者の学生時代に機械製図の講座があり、図面の書き方の基礎を企業から派遣されてきた講師のもとで実習しました。簡単な製図から始まって、最後は一応ジェットエンジンの設計製図で燃焼容量や速度に基づいて機械の仕様、大きさを決め、それを図面化するという講座でした。作図して提出した図面に対して講師から言われたことが、「君たちの描くのは所詮絵なんだよなぁ」でした。絵というのはこの世界ではものが作れないことを意味し、何が問題だったかというと、設計とかいう前に、この図面では中に部品が入らない、すなわち機械の組立ができないと言われました。例えは違いますが、机を買って部屋に入れようとしたらドアより大きくて中に入らなかったみたいなことです。こういうことは自分で設計や工事をするとわかってくることで、会社生活の中ではこれに似たことはよくありました。手法やテクニックを使うことは有意義で活用すべきですが、同時に設備や現場をよく見ることが大事です。そして同じく絵とかマンガとかいわれるメモ書きやスケッチでも、情報を的確に伝えることができます。


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