エムエスツデー 2019年1月号

設備と計装あれこれ

第9回
計装工事の進め方
(工事完成後の試運転と性能確認)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 プラントを建設する際にはまず基礎や建物工事に始まり、次に機械の据え付けや配管などの工事それに続いて電気、計装工事と進んで行きます。筆者は長らく工場に勤務して新設や改造工事を担当してきましたが工事を順調に進める上で重要なことは工程管理です。試運転直前ともなると各部門は手直し工事を含めて錯綜し、工事の遅れが発生しないように部門間の細かい調整をする工程会議が連日開催されます。計装工事は機械工事の後に続くことが多いため、工程に追われながら試運転に間に合わせることになります。工事に関する話題は、多くありますが、この紙面では工事の手順と試運転、それから設備の性能確認そしてよく見落とされることがある省エネルギー効果の確認を取り上げます。なお「安全」についてはまた稿を改めてお話しします。

工事の手順と試運転

 建設工事は手順を踏んで順次進められていき、完成した設備毎に動作確認が行われますが、すべての工事が完成しますといよいよ全設備を順番に運転していく総合試運転を迎えます。製紙プラントの場合では、ここで水回し運転といって原料を投入せずに水だけで運転をして、この段階で機械、電気、計装とも不具合箇所を発見して手直し工事を実施します。その後に原料を投入し、場合によっては手直しを何回か繰り返して初生産を迎えます。ここまでがステップ1で工事関係者にとってはまず一安心するところです。そして製品が順調に製造され、生産能力や品質の確認後にはプラントとしての設計性能確認が行われ、省エネルギー効果などが目的に合致しているかどうかのチェックがなされるあたりがステップ2となりますが、計装関係者は計測器や制御を取扱いますのでまだ気が抜けません。これらを示したのが図1です。数多くの設備や工程を順次完成させていく中では物事の優先度をはっきりとし、今片づけることとあとに行うことを区分けすることも大事な工程管理となります。 図1 プラント工事の試運転前後

工事完成後の性能確認

(1)設備性能の確認
 設備性能はポンプやファンなどの動力機器が流量や揚程圧力を満足しているか、また計装制御では制御領域を満足しているかなどの単品確認が済むとプラント全体の機能チェックが行われます。前述の水運転では問題がなかったものが、原料を投入すると問題が発生することはよくあることです。製品を二次加工する工程ではデューティ(仕上げ効率)も指標とされます。
 性能が数字で示されてわかり易い例は自家発電設備で、投入した燃料に対して発電量が計画通り出ているかの確認ですからはっきりしています。黒液回収ボイラーというパルプ廃液を燃焼するボイラーがあるのですが、新設工事完了後に発生蒸気温度が計画値よりもかなり低くこのままでは発電効率に大きく影響することが判明しスーパーヒーター(過熱器)の伝熱面積を増強する対策を納入ボイラーメーカーが実施したこともありました。

(2)製品品質の確保と操業指標
 一方、製品に関しては生産量の確保とともに品質適性を満足しなければなりません。紙製品には強度や白色度、印刷適性に関する特有の指標が数多くあり、これらは操業現場と品質担当の最も関与するところとなり、そこでは業界特有の品質測定器が重要な役割をします。製品品質が規格値を満足しないで機械本体の改造まで話が大きくなると本格操業に遅れが出ることがあり大変な事態となります。またここで操業指標として出てくるのが原単位や歩留まりと呼ばれる生産効率を示す指標です。製品の生産に対して直接関与した原料や薬品、また電力・蒸気などのエネルギー消費量をいいます。

【コラム】原単位と歩留り

 工事が終わり試運転を経て生産が開始されるまでは設備が正常に回る、動くことの確認です。そして製品の生産量が確保され品質も規格を満足した後に課題となるのは生産効率で、一般に単位製品当たりの原料、エネルギーなどの使用量は原単位と呼ばれ、たとえば紙を白くする漂白剤の使用量など重要な薬品原単位です。一方歩留りという用語は投入した原料がどれだけ製品になったかの指標で紙パルプ含め素材産業でよく使われます。ちなみに歩留り向上剤という薬品がありパルプを凝集させ木材資源の節約ならびに製品品質に貢献し環境保全にも役立つものですが、生産品目により操業状況が結構変化し生産管理上扱いが難しいものの一つです。

省エネルギー効果の確認(熱回収設備の性能確認の例)

 性能確認を操業が落ち着いてからじっくり行うべき実例を一つ紹介します。紙は抄紙機の中心設備の一つであるドライヤーで強制乾燥されて製品となります。図2にその構造を模式的に描いてみましたが、製品となる紙は蒸気シリンダーとカンバスと呼ばれる用具に挟まれ搬送される過程で乾燥が進行します。シリンダー表面は内部の蒸気により加熱され、まだ湿紙段階の製品はドライヤーフード内に水分を蒸発させます。一方蒸発した高湿度の空気を排出するために給排気装置が設置され、紙乾燥に使用する蒸気量を最適化するために空気流量のバランスを取ります。計装的には湿り空気の露点管理、それにフード内外の差圧制御などを行いますが、これは製品品質の確保とは別に蒸気原単位の改善であり、省エネルギー対策の一環となるものです。省エネルギーに関する事項は操業が落ち着いたときに性能確認を実施することによって初めて正確な数値が取れるものです。設備試運転時は多くの設備の調整・確認に精力をつぎ込む必要があり、相当にゴタゴタします。それで後日にデータ採取する取り決めをせずに設備メーカーを返してしまった失敗は、筆者の若い頃の教訓として記憶に残っています。 図2 ドライヤーでの紙乾燥(給排気システム)


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