エムエスツデー 2018年7月号

設備と計装あれこれ

第7回
計装の役割2
(特色あるセンサと品質安定により得られる効果)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 計装の役割はまず得たい情報の計測から始まりますが、信頼性を維持することが大切であることは前回触れました。今回はセンサの続きとして精度に関して少し述べたいと思います。製造業の各分野には一般計測に加え特色あるセンサが登場しますが、特殊な計測用途においては精度よく測れているものもあれば必ずしも精度が伴わないものがあります。しかしながらそれらを利用したことによってもたらされる効果は大きいものがあります。そしてこの稿後半ではプロセス制御で普遍的な手法であるPID制御に関する所見をあれこれ述べたいと思います。

特色あるセンサ

図1 よくあるパルプ取出しライン  紙の重量をオンラインで非接触に測るBM計ですが、精度よく測定して効果を上げていることで、産業界の中でも放射線(ここではベータ線)を有意義に利用した一例としてよく取り上げられます。一方これに対してパルプ濃度計というものがあるのですが、パルプは混濁液と呼ばれるとともに水の比重と比べてパルプは若干重いだけで測定液体の比重から濃度を求めようとしても分解能がほとんどありません。それでブレードにかかる反力や回転羽根のトルクの変化など機械的な方法から得ようとするのですが、そこでは測定液の流速や粘性の影響をいかに打ち消すかの工夫がされています。図1がその代表的な設置例です。パルプ濃度計は精度的にはセンサといえるのかというものですが、洋紙技術発祥の北欧で開発され、生産工程の中では反応塔の出口、原料の配合、抄紙機への原料送り出しなど、操業の管理指標として重要なものとして要所要所で役割を果たしています。

平準化から生まれる資源の節約

図2 品質の平準化と原料削減  紙は実質目方(重量)で売買しているのではなく、長さとか枚数とか要は面積で行われています。ただし最低基準があってそれを部分的にも割り込むことがないようにする必要から、重量の変動が大きいと図2の分布Aのように平均値を高く取って要求下限値を割り込まないようにします。そこでBのようにバラツキを減らし安定化ができると全体の平均値を下げることができるようになります。これを可能にしたのはBM計による制御で当初紙の流れ方向で、その後幅方向ともに実現が成されてきました。この手法による改善は以前より言われてきているものですが、同じ製品を作るときに少ない原料での生産を可能にして品質の安定とともに大きな資源削減が達成され結果として収益改善に繋がっています。

【コラム】分解能と再現性

 レベル(液位)、圧力、温度などは測定手法が直接的であり精度よく測ることができます。精度は分解能と再現性両方の要素で成り立っています。分解能はセンサそのもので決まりますが、再現性を妨げる要素には測定物の性状、設置環境、経時変化などの外部要因があります。濃度、粘度などは他の性状の影響を受けやすい面があり、pHなどの成分計は設置環境の維持が重要となります。測定物の性状が変化すると指示値もドリフトするということがわかるものに対しては、場合によっては手分析値と比較して合わせ込みをします。しかし必ずしも数値が正確でなくとも実用上役割を果たしているものもあります。製紙ではパルプ濃度計がその代表といえます。

PID制御を取り巻くいくつかの変遷

 測定値と目標値の差である偏差を基に制御動作をしているPID調節計ですが、ハードウェアはアナログからデジタルに移ってきた現在でもプロセス制御の中心であり続けており、操業現場では40年以上前のアナログ式調節計や計器を現在でも使用しているところは数多くあります。プロセスオートメーションにおいてはPID制御が下位で動いていることに絶対的な安定、安心があるということです。そして調節弁を駆動する信号は4~20mAでありこれも変わりません。制御定数のチューニングは圧力、流量、液位などそれぞれの変化特性を把握できていると容易であり、最近は制御定数のオートチューニングも可能となり便利ですが、各定数は当然ながら使用者がプロセスの状況を確認して適宜設定すると最適なものとなります。アナログ式調節計では手動、自動の切替え、またカスケード制御の上位出力を下位の設定信号への接続が連続にできるかに注意を要し、時に操業オペレータは気を遣って操作していました。これに対しデジタル式調節計の特徴は演算周期毎に前回値出力に変化分を加減し、モード切替え時に相手側の数値を読み込むため出力は連続で動作し、大変使いやすいものになっています。図3は製紙の重要部分であるパルプの配合システム例です。アナログの時代では各原料の比率設定器の値をオペレータは配合率や条件の変更の都度電卓をたたいて計算してから設定していましたので隔世の感があります。
 デジタル計装のハードウェアはDCS、PLC、FAコンピュータと用途目的により自由に組合せ選べる時代になりましたが、歴史的にはプロセス用コンピュータはDCSが実用化される前にすでに行われたという経緯があります。しかしながら当時入出力装置としての表示部分には計数表示管程度のものしかなく結果として用途はタイプライタによるデータロガーなどに限られました。デジタル化の最大なメリットの一つは自由に演算を組めることでデータの補正や特殊計算が使用者側で容易にできるようになったことです。そしてもう一つは画面表示(当初はCRT)により情報提供量が飛躍的に大きくなったことです。今後も上位はコンピュータ、下位はDCSというような構図は当分変わらないと思いますが、PAの世界は一層レベルアップが図られるものと確信しています。 図3 パルプ配合系統図


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