エムエスツデー 2018年4月号

設備と計装あれこれ

第6回
計装の役割(センサに求められること)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 計装は時代とともに発展してきましたが、プラントを構成する一要素として設備全体が機能するように効力を発揮すべきものです。今日では有り得ませんが、かつては計器や装置が無くとも生産ができていた時代があり、およそ戦前の製紙産業はそうであり、他産業でも似たようなことがいえたのではないでしょうか。今や自動制御は必要欠くべからざるものです。しかし基本である計測データはオペレータ(運転員)にとって確実な操業支援になっていないといけません。この連載では前回までに、材質や油圧、熱などいくつかの基本的な要素を中心に述べてきましたが、一旦そこから離れて計装の役割について今回から数回に分けてお話ししたいと思います。今回はセンサについての所見です。

センサの用途・活用

図1 計測・制御に求められること  計測・制御に求められるものを図1に書いてみました。人により意見の分かれるところですが、筆者はなかでも信頼性を挙げ次に精度、価格です。別の考え方に立てば操作性やセールスというのもありましょうが、工場を運営する立場からいうと、信頼性すなわち壊れない、性能を維持することです。精度というのは当然その次に来ますが、価格の安さというのは選ぶときの一つの要素としても、それだけで選ぶ人はいないでしょう。

 (1)各種各様のセンサ
 図2は製紙工場の全体工程を簡単に書いたものです。紙の原料である木材チップは国内材のほかに多くは大型船で海外から搬送されてきます。主工程はパルプと抄紙ですがこれらの生産区切りには各種センサが設置されて生産量を特定して生産効率を知ることができるようにしています。製紙では「歩留まり」という用語を使いますが木材から紙製品に至る過程には良質なパルプを取出す結果、繊維以外のものや含まれるチリを除去することで原料は目減りします。さてチップ船にはインボイス(内容物証明書)が付いてきます。工場内に入って木材チップはヤードに野積みされた後にメリック(コンベア)スケール、パルプ(スラリー状液体)を計測する電磁流量計、そして最後に計量コンベア(台秤)で製品の重量を計測します。これらセンサの中で最も正確なのは台秤でこれは独立したコンベア上で計測できることとロードセルの高性能にあります。次に電磁流量計ですが、これはある意味製紙産業のために開発されたようなものでパルプスラリーの流量を測るには他に代わるものがありません。ただし筆者の駆け出しのころはまだ初期段階とされ、パルプから抄紙に移るラインでは電磁流量計を同じ配管に2台直列に取付けている工場がありました。重要性の認識はされていたが信用されていなかったということです。
図2 概略の製紙工程  (2)事件発生
 あるときヤード積みの木材チップが行方不明という事件が発生しました。チップ船は月に2から3船入港します。それが1年間の工場生産量から逆算すると一山分足りないというのです。そこで関係者が一堂に集まって協議をし、席上に計装担当者も呼ばれました。各部門とも担当する工程の原単位に問題が波及するため一歩も譲りません。そこで当然のように計器類が合っているのか疑われることになります。当時の電磁流量計であっても精度は相当なものであり直列に2台設置してもそこに有意差は無かったはずです。メリックスケールは石炭や鉱石に比べると木材チップでは嵩比重が低く精度は出しにくいものではありました。結局この問題は、計器が2~3%ずれていると認めて解決することではなく(話はもっと大きい)結論は出ず仕舞いで終了しました。なお製紙の場合は原料中の水分変化が問題を複雑にしています。

【コラム】測るということ

 物差しを当てて長さを測ることは直接測定であり、容器の中の性状などを何らかの方法を使って検出し計算などで求めることを間接測定といっています。工業計器で流量や圧力などを測る手段はすべて間接測定です。そこには必ず精度(確からしさ)が存在します。一方分析計といわれるものは化学反応で求めることが多く、試験室(ラボ)で行われるのと同じ手法のものは正確ではあるが結果が出るまでに時間を要します。オンライン測定とは対象物が流れているものを非接触で捉えるようなことが多く検出自体に困難が伴うと同時に精度にも条件が付きます。

BM計の登場

 (1)卓越した計測手法
 B(坪量)、M(水分)の頭文字で呼称されるBM計は製紙産業で使用される計測器の中では最大規模のもので走行する紙を非接触で計測します。かつて紙を製造する操業マンは手でパルプをつかんで目方を把握したということです。坪量はベータ線が紙に吸収されその残量を測ることで重量を知ります。一般的には厚み計として利用されますが、紙は比重が変動するため重量計です。一方水分は赤外線を用い、水に反応する波長とそうでないものとの比較で求めます。原理上、坪量計はそのまま重量を知ることができますが、水分は木材繊維や添加物が影響を与えるため微妙に測定値は変化します(そのため銘柄ごとにラボ値との合わせ込みが必要とされます)。 

 (2)合う・合わない
 紙の種類によりますが表面に澱粉液を塗工して印刷適性を改善するサイズプレスという設備が抄紙機にはあります。塗工があるか無いかで水分値が変化します。さてBM計の指示が通常では10%前後ある水分値が5%くらいまで急に減少してまた数分後には元に戻るという連絡を受けました。操業中にはこのような急変はあり得ないとのことでしたが、このときは澱粉液の液切れ発生による塗りムラが原因でこの現象をBM計は見事に捉えていました。しかしながら操業サイドは現場設備を点検する前に計器を疑いました(もっとも当時のBM計はよく故障しました。なお澱粉の塗りムラはヨード反応という手法により色変化で判別ができます)。このような話は工場が動いている限り常にあることで「合う・合わない」の世界から担当者は抜け出せず休む暇が無かったというと大げさでしょうか。
 一般工業計器の精度は高いのですが、専用の計測器となるとその使用状況や条件によって測定値は影響を受け、常に性能維持との戦いともいえます。しかし原理と限界を知って活用することで大きな利益を受けることができ、そのことについては次号でお話したいと思います。


ページトップへ戻る