エムエスツデー 2017年4月号

設備と計装あれこれ

第2回
実習用ミニプラント(プラントレット®)の設計と製作

(株)エム・システム技研 マーケティング部顧問 柴野 隆三

このような設備がほしかった

図1 プラントレット全景  今回はプラント設計の基本についてエム・システム技研本社に導入されたPID実習プラント(愛称 プラントレット®)を例に取り、設備的な角度から見た紹介をします。このミニプラント(図1)はコンパクトながら本格的な設備機能を持ったもので、2年ほど前に新規製作納入され、以後多くの会社や団体から実習や見学に来ていただいています。ぜひ一度ご覧になっていただきたく思います。
 実は筆者はこのとき製作者側の立場として設備の設計製作を行っています。設備のコンセプトは「より実機に近いミニプラントでPID制御などの実習が可能なものを作りたい」とのことに基づいています。それでタンク、配管、ポンプなどの機械設備、それに測定器、制御バルブ、操作パネルなどの計装品も実際の工業設備に使われるものと同じ仕様規格のものを採用しました。一方でこの設備を製作する際に苦慮したのは製作後の輸送を考えコンパクトに作ったことです。タンクを上下2段に積んだことや操作パネルも同じ架台上に載せてあります。また水のオーバー管の配置など見えないところにも工夫があります。
 なおこのミニプラントにはエム・システム技研のPID制御コンポーネント信号変換器が多数使われており、制御弁の駆動部は電動アクチュエータ「ミニトップ®を使用しています。それに設備全般を概説するパンフレットやPID制御、バッチ混合制御などの研修用のテキストも作られていますので純粋に計装的な事項の説明はそちらに譲りたいと思います。

設備設計の基本はどのように

 プラントの設計手法には、これといって決まった手順があるわけではありませんが、タンクや反応塔など容量をもったものとそれらを結ぶ配管系の組合せのなかで、まずは主要となるものを中心に決めて行きます。
図2 プラントレットの基本構成  ①今回のテーマは2系統の流量制御ループを構成し、その先に温度制御ループを作ることです。それでまず図2のような基本構成(フローシート)を作成します。この段階で多々議論がなされます。
 ②次の決め事は設備の大きさをどうするかで、実際の生産設備ですと生産規模を決めて設備容量を求めます。その後に流速を考慮して配管径が決まります。今回のミニプラントでは大きさの基準を、配管径1インチ(25mm)を採用することで決めています。これよりも小さいと操作や観察がやりにくい、またこれ以上大きくすると場所が取られすぎるという判断です。
 ③その次は個々の仕様となり、ポンプの仕様(流量と出口圧力)、配管の圧損を考慮して制御弁のサイズ(容量係数CV値)を決めます。
図3 ポンプ揚程とバルブ圧損  ④ポンプ揚程とバルブ圧損
 水など液体の移送では図3に示したようにポンプ揚程(吐出圧)曲線を考慮しつつバルブ圧損を決めます。グラフを見てわかるようにバルブ圧損は流量を変更するためのファクターです。実プラントではかなりの配管長がありますのでそれなりの配管圧損を見ますが、今回のミニプラントでは配管長が3m程度しかないためほとんど管損失がありません。結果として全体ヘッドに対して通常より大きく、その50%をバルブ圧損として設定しました。

結果の検証

図4 調節弁の流量特性  どんな仕事でもそうですが、設備は完成した、生産もほぼほぼできているとなったとき、運転後に設備設計の検証をしているかというと、なかなか行われていないようです。これは結果の検証といえるものですが、後日流量とバルブ開度を調査してみました。図4に掲げたグラフがそれですが、2系統の流量制御ラインはほぼ同じ構成でバルブ内弁が違うというだけでこのように流量の違いが実現できています。またバルブの種類はグローブ(玉形)弁ですので、開度とともに流量が急増するいわゆるイコール%の特性も確認できます。ところで開度70%程度で実は計画した流量まで達しています。実プラントでは常に課題となる最大流量と常用流量の関係があり通常、計算値より余裕のあるバルブサイズを採用します。その結果バルブサイズが少し大きかった(もう一つ絞ってもよかった)ともいえます。

【コラム】設備の適正設計

実際のプラントで適正設計をするというのは結構難しいものです。要因として生産量が変動する、それから流体性状(たとえば濃度)が変動するなかで基準をどこに置くかです。そのためにプラント設計する際にポンプ、配管径や制御弁は往々にして「大は小を兼ねる」という発想で大きな物を採用することがあります。この度が過ぎると省エネに反し過大設計だといわれることになります。また逆に常用流量を過小に評価したために失敗するということもあります。

加温設備の模擬

 「プラントレット®」には加熱プラントや反応塔の前後間の応答模擬や温度制御ができるように工夫をしてあります。流量制御ループの後に電気ヒータを備え加温制御ができるようにしました。図5のように、ここでは実プラントの反応塔を想定して配管径を4倍(面積で16倍)に太くしたリテンション(滞留)チューブを設けてみました。計装的には上下2段の温度制御で反応塔ループを模しています。実プラントにおいても熱交換器による加温ループは応答が速く問題はありませんが、反応塔の出口の温度を予測することは複雑な要素が絡んで難しいもので、さまざまな工夫が考案されます。このような単純2段カスケードによる温度制御では解決しないかもしれませんが、一つのモデルにはなると考えます。 図5 反応塔温度制御の模擬


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