エムエスツデー 2015年10月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

データマル®」の誕生

 最近、IoT(Internet of Things)とかIIoT(Industrial Internet of Things)と表現する記事をしばしば目にするようになりました。それはインターネットが世界中に拡がり、地球上のどの地点にある情報も、適当な通信装置をその現場に設置さえすれば、居ながらにして入手が可能な環境ができあがっていることを意味するものと思われます。

 今を去る7年前の2008年2月に、ご存じの「カンブリア宮殿」と題したテレビ番組で、世界中で稼働している小松製作所の建設機械約10万台の全てに、GPS機能を備えた「KOMTRAX(コムトラックス)」と呼ばれる情報発信装置が備えられていて、全ての機械の位置情報と稼働情況が、東京の同社の中央管理室にある世界地図の大画面に表示されている姿を放映しているのを見ました。この10万台のうちの半分の5万台が日本国内にあり、残りの半分のうちの更に半分が中国にあって、あとは全世界で稼働しているというものでした。その中の1台1台を呼び出して、その機械の各部の温度や油圧など数十点にも上る計測情報をリアルタイムに表示させて見せていました。小松製作所の出荷済の建設機械に対する予知・予防保全の仕組みがここまで徹底してできあがっていることに正直なところ大変驚きました。
 また2014年4月9日付の日本経済新聞の電子版によれば、イギリスの航空機エンジンメーカー、ロールス・ロイス社のモニタリングルームには、同社製造のエンジンを搭載した航空機約4000機の運航状況が表示されていて、各エンジンの温度、油圧、振動等を監視しているというものでした。
 また、ロールス・ロイス社は別料金を支払えば運行中のモニタリングサービスも行っており、同社の民間航空機エンジン部門の収入の約7割をこのサービスによるものが占めており、エンジン本体の売上げよりも多くの金額を稼ぎ出しているのだそうです。

 一方、エム・システム技研は、有線、無線のテレメータ装置を30年以上にわたって製造販売して、それなりの成果を上げてきました。10年ほど前に発売した製品(商品名「Webロガー」)は、現場に設置して計測データの集積と異常情報のメール発信をするオールインワン形の小規模なデータロガーであり、マンホールポンプや雨水貯留槽など、広範囲に分散配置された各種公共設備の運転状態をインターネットを介して発信し、ブラウザソフトを搭載したパソコンさえあれば遠隔監視ができる勝れ物です。
 今から5年前の2010年9月に、エム・システム技研の関東支店にある「Webロガー」の通信試験室にWi-Fi機能付モバイルルータを設置し、その性能や安定性のテストを始めていました。そのルータにはWi-Fiの電波情報が通過していることを示すLEDランプが付いていて、この試験室ではWi-Fi電波をまだ発信してないにもかかわらずそのLEDランプが点滅していて、周辺のどこかの路上で誰かがそのルータのWi-Fiを経由してスマートフォンでインターネット通信をしている可能性を意味しているので、「何じゃこれは?」と話題になりました。「ちょっと待てよ、このWi-Fi機能付きのルータを使ってインターネットに繋ぐ通信機を創れば、コマツの建設機械に搭載されている「KOMTRAX」やロールス・ロイスのジェットエンジンに組み込まれている通信機と同じように、装置や機械に組み込んで各種のデータを計測し、その情報を地球上のインターネット環境のある所ならどこからでも取得できる予知・予防保全に役立つものができるぞ!」それも「エム・システム技研の変換器並みの大きさと値段で作れるぞ!」と確信しました。

 そして2年後の2012年10月には仕様が固まり、2013年3月には「データが貯まる『データマル』という語呂合せの商品名」でWi-Fiやインターネット通信機能付のリモートI/Oを発売しました。当初は最短の開発作業行程で完成を目指したので、現場の情報をスマホのブラウザ画面から監視できる機能に限定した製品を2013年3月の発売に漕ぎつけました。それに引き続いてEメール通報機能やデータロギング機能を順次追加して現在の姿にまで発展させてきました。それが、インターネットを通信手段に使った異常通報のメール発信を始め、計測データの蓄積と伝送を同時に行う情報端末、すなわち「データマル」です。

データマルのシステム構成例

 データマルに異常を表すON信号を入力すると、直ちに指定されたスマホに異常を告げるメールを発信し、どの機械の何が異常なのかを知らせると同時に、その機械に取付けたセンサからの計測データを通知する(メールの本文中に計測データを添付することもできます)ことができます。またスマホのブラウザ画面から「データマル」にアクセスすれば、全ての入出力信号の瞬時値とそのトレンド表示を見ることができます。もちろん現場で発生した異常や警報などの履歴を一覧表示する便利なイベント画面も用意しました。

 ここまでの機能で、多くの現場で稼働している機械や製造装置の異常通報とその経過をモバイル端末で確認できますが、さらに「データマル」には膨大な数に上る過去に出荷した機械や装置を一括管理する目的で、常時定期的にリアルタイムの計測データを容量の大きなサーバやクラウドサーバに送り続ける機能もあります。この機能を利用すれば、装置メーカーが過去に出荷した全装置の運転情況を把握して、そのデータを基に予知・予防保全のサービスをカスタマに提供することができるようになります。

 このようにして誕生した「データマル」は、多くの場面で生産現場の省力化に貢献するに違いないと確信しています。発売してすでに2年以上が経過しましたが、本命の予知・予防保全の役割を果たす多くの事例をご紹介するところまでは今少し時間がかかるように思われます。しかしこの「データマル」の機能が可能にする省力化効果は生産現場の至る所にあるためか、お陰様で出荷実績が急増しています。

 それらの実績データを基にその使用目的を分析してみますと、大体次のような5項目に分類できることが分かります。

① 異常通報
② 遠隔監視操作
③ 貯蔵液体の残量管理
④ メンテナンスの省力化
⑤ 予知・予防保全

 ①異常通報に分類されるものには、日常気にしていないユーティリティ設備などに異常が発生した時に、いち早く「データマル」がスマホなどのモバイル端末にメール通報するケースが多く含まれています。

 ②遠隔監視操作に分類される例には、マンホールポンプを始めビニールハウスやマイクロ水力発電所など、広い範囲に分散設置された装置の遠隔監視操作が挙げられます。

 ③貯蔵液体の残量管理に分類されるものの中には、病院で使用する薬液貯蔵タンクを始め、各種の燃料タンク、食品製造プロセスの洗浄液タンクなど、残量が不足すると生産活動に支障を来す液体の残量とそのトレンドを監視し、適切な補給プログラムを確保するための有効な手段としてお役に立っています。とくにタンクローリーのような輸送手段で補給する必要のある液体の場合、事務所内のパソコンや運転手の手許にあるスマホで納入先の在庫状況がいつでも確認できるのは、配車台数の最適化のお役に立っているに違いないと思います。

 ④メンテナンスの省力化に分類されるものには、日常的に工場内に分散配置されている設備や装置を定期的に巡回監視している作業を大幅に削減するケースがそれに当たります。

 ⑤予知・予防保全には、ボイラや冷凍機・タービンのような回転機を含む機械や装置の軸受けや潤滑油の温度および振動などを継続的に計測し、サーバに収集して、実際に異常を来す前にその機械の消耗度を把握し、点検補修を行うことで運転停止時間を最小限にした安全操業を確保しようとするものなどが挙げられます。その対象となる工場設備は多岐にわたるものと思われます。始めに事例として挙げましたコマツの建設機械やロールス・ロイスの航空機エンジンなど、高価な機器が対象であればそれなりの金額の監視装置でもペイするものと思われますが、「データマル」をご採用いただければ初期費用も低く抑えられますし、通信費も充分使えるところまで下がってきましたので、自家発電機や食品機械、工作機械、ベルトコンベヤ、エレベータ、エスカレータ等々、限りなく用途が拡がっていくに違いないと考えています。

 このように生産活動に革命的な成果が期待される「データマル」を多くのユーザーの方々に何とか効果的にアピールしたいという思いで、マンガ実例集を作ってみました。私にとっては前例のない作業でしたので悪戦苦闘しましたが、どうやら形になったのではないかと思いますので、今回の『エムエスツデー』誌の配布に当って、この作品を同封して読者の皆様にご笑覧いただくことにしました。さあどのようにご評価をいただけるか心配でもあり、楽しみでもあります。
 これからも肩の凝らないアプリケーションPRシート(私はこの種のリーフレットをアペタイザーと呼ぶことにしました)の作成に意欲を燃やしてゆこうと考えています。ご期待ください。

●「データマル」は(株)エム・システム技研の登録商標です。

データマルのアペタイザー

(2015年10月)


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