エムエスツデー 2015年1月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 あけましておめでとうございます。

 私は昨年7月に80回目の誕生日を迎え、正真正銘の80歳になりました。
 私の社会人としてのスタートは、昭和33年(1958年)に大阪大学の通信工学科を卒業して、工業計器メーカーの北辰電機への入社でした。
 北辰電機を選択したのは、これからの高度成長を予感させるオートメーション機器のメーカーであったことが第一の理由であり、またもしかしたら将来自分で企業を起こすアイデアがあるのではないかと思ったことにもありましたが、現実はそんなに甘いものではありませんでした。同社に14年間勤務させてもらったのですが、その間私の希望と偶然が重なって、工業計器の営業、製造、設計開発、システムエンジニアリングを数年ずつ経験させてもらいました。そのエンジニアリング部門でのスピンオフ直前に担当していた仕事は、水道設備の計装システムの設計とその現場での設置作業でした。

 水道設備は、取水井で取り入れた水を巨大なポンプで浄水場に送り、薬注、沈殿、ろ過をした後に、塩素滅菌をして配水池へ送り、そこから送水ポンプを駆動して丘の上にある高架水槽に送水したり、市内にある配水池に直接送水したりします。これら全てが水道局の仕事で、中央制御室が置かれている浄水場には、全水道設備の集中管理がここから実施できるように、場内の全ての計測情報を集めて統括管理しているのが一般的でした。
 中央制御室と遠隔地に設置されている取水井や市内の配水池との間は、電話回線テレメータと呼ばれる通信機器で結ばれており、中央制御室では、居ながらにして全管理区域の配水量や残留塩素、濁度、pH値などの計測値が分かるようにグラフィックパネルの上に表示してあり、当時では最新のデータロガーで日報、月報を電動タイプライターで打ち出し記録していました。もちろん遠く離れた所にあるポンプの起動、停止の操作もここからできました。

ダム

 「変換器の総合メーカー」を目指して創めたエム・システム技研ですが、当初は工業計器専用の避雷器「エム・レスタ®」で創業資金を稼ぎ、次にプラグイン式の変換器「エム・ユニット®」を商品化して何とか成長軌道に乗ってきた頃に、変換器を電話回線につなぐことでアナログ信号1量を遠隔地に伝送できれば、高価なテレメータを使用しなくて済む現場はたくさんあるので、1〜5mA DC出力の信号変換器(形式:TMA)を開発して売り出し、電話回線を利用する経験を得ました。
 テレメータという概念は今も健在で、電子技術の発達とともにテレメータ業界は激しく変化してきましたが、要は専用回線(電話局に申請するとA地点からB地点の間を常時接続の電話線を貸してくれます)を引いて、その回線に音声周波数のキャリヤ(搬送波)と呼ばれている電気信号に、送受信したいデジタル化した計測信号により変調を加えて上記の専用電話回線に接続し、複数の計測信号を同時に送受信する機器のことをテレメータと呼び、これは通常親局と子局で構成されています。
 テレメータを構成する技術は、MODEM(変・復調回路)ユニットに集約されます。1990年代に入り、MODEM機能はIC化されて通信機器メーカーから一般に売り出されるようになり、それまでの金属ケースに入った多くの電子部品で構成された「MODEMユニット」は姿を消してゆきました。
 高度成長期には、日本全土に上水道設備および下水道設備の建設が華やかで、テレメータの需要はそれなりにありましたが、バブル経済崩壊とともにそれも下火となり、2006年には遂にこのICも製造中止になり、この世の中からMODEM チップが姿を消して入手不能になりました。そのため多くのテレメータメーカーは生産中止に追い込まれました。
 エム・システム技研もこのMODEM チップを用いたテレメータを販売していたのですが、「廃形しない」という方針からDSP(Digital Signal Processor)と呼ばれるIC チップに特定のソフトを開発してMODEM チップと同じ働きをさせることに成功し、受注の拡大という恩恵を受けました(「DSP」は2つのデジタルデータを猛スピードで乗算と加算を行うことに特化した仕様のICで、1秒間に4千万回の演算が行えます)。
 今でもこの種のテレメータの需要は健在なのですが、多くの場合20年以上前に設置されたものの更新需要で、新規需要はほとんど見当たりません。このような環境の変化により、テレメータのメーカー数が大幅に減少したことでこの更新需要をエム・システム技研が一手に引き受ける形になっているためか、現在エム・システム技研にある数ある製品機種の中の成長株の一つとなっています。

 2014年現在、NTTの電話局では電話回線の光ファイバ化を終えて、新規に電話を申し込むと、近所まで設置されている光ファイバ回線に音声信号が接続され、私たちが電話で喋る音声をデジタル信号化して時分割多重伝送することになります。従って1本の光ファイバには多数の電話機が同時に接続されて通話ができるようになっています。その結果と思われますが、最近になってテレメータの設置を新規にNTTの地方局に申請すると、従来のメタルケーブルによる電話線の工事をしないことになったと断る局があるという情報をしばしば聞くようになりました。
 その背景には、ご承知のとおりのインターネットの普及があり、テレメータの機能をインターネット回線を用いて実現する「IP(インターネットプロトコル)通信網」の発達があります。
 現在使われているテレメータの寿命による更新の需要が、全国至るところで発生しているのは当然のことなのですが、新しいテレメータとしてインターネット回線に直接接続するテレメータも用意する必要があります。
 エム・システム技研では、いち早くIPテレメータの開発に取りかかり、第一優先として、エム・システム技研製テレメータ「D3シリーズ」を、インターネット回線に直接接続できる「IPコンバータ」をご用意しました。第二優先として、現在ご使用中のエム・システム技研テレメータ「D3シリーズ」のMODEM UNITを取り替えるだけで、IPテレメータになる新しい「IP MODEM UNIT」の開発も予定しています。

専用回線IPコンバータ

 ここまでお話してきたことは、専用電話回線やインターネット回線を用いたテレメータの話ですが、これらのどの方式のテレメータでも、価格の差はあるにせよ、通信料金を毎月支払う必要があります。皆さんがいつも手元にお持ちの携帯電話やスマートフォンは、800メガヘルツから2.5ギガヘルツ帯の無線通信を介して電話回線に接続しているわけですが、それ以外に親局と子局の間を直接無線電波で結ぶ「無線テレメータ」の世界があります。通信距離は短いのですが、10kmくらいなら問題なく接続できるものがあります。この無線テレメータの特徴は、機器は少し高価ではありますが、通信料がかからずランニングコストがゼロなことです。市町村レベルの水道局では続々とご採用が進んでいます。ただ親局と子局の間に山とか高層ビルなどの電波の障害物があると通信できないことがあります。
 エム・システム技研では、無線テレメータに関するお話をいただくと、直ちに簡単な試験装置を現地に持ち込んで、電波試験を行うようにしています。
 通信技術の発達は今もめざましいものがあり、現在すでに無線LAN(ローカルエリア・ネットワーク)を構成する高速テレメータが可能な送受信機が発売されており、使用している電波の周波数は25ギガヘルツと携帯電話の10倍高い周波数帯を使っているため、通常のLANと変わらない伝送速度をもっています。
 送受信信号の接続は最も広く使用されているイーサネットの規格が適用されていて、イーサネットの規格で伝送されている信号なら、専用ケーブルで接続するだけですぐに利用できます。伝送距離は20cm角くらいの少し変わった形のパラボラアンテナのようなアンテナを正確に対向設置することで、20kmくらいは届く優れものです。1対向のアンテナ設置で、約100万円くらいのようです。

 世の中便利になったもので、先が楽しみだと思う反面、現在使用中の各種テレメータはやはりいつまでも使用し続けられ、「廃形しない」エム・システム技研の存在が評価されるのではないかと期待するところ大です。
 元気印のエム・システム技研を、今後ともどうぞよろしくお願い申しあげます。

(2015年1月)


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