エムエスツデー 2014年7月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 二足歩行のロボットが、本田技研工業(株)やソニー(株)によって製作され、音楽に合わせて踊る姿をテレビで見てからかなりの時間が経ったように思います。最近ではベンチャー企業が、可愛らしさを表現した人型ロボットを作ってみせるところまで来ています。また、東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉作業にも、各種の多目的ロボットが活躍を始めているとのことです。

 私は、エム・システム技研を今から42年前に創業したわけですが、その頃の計装は、DCS(分散形制御システム)を基本とするデジタル制御システムが普及し始めた頃で、操作端としては、相変わらず空気圧式のコントロールバルブが当然のように使われていました。

 当時私は、これほど電子技術が発達してきたのだから、近いうちに全電子式コントロールバルブの時代になるに違いないと考えていました。それから10年くらい後に、ブラシレスDCモータと呼ばれるホール素子を用いたDCモータが、(株)芝浦製作所(現日本電産テクノモータ(株))で製造されていることが分かり、これを応用すれば起動力が強く長寿命の電動アクチュエータが実現できると考え、このモータを駆動源に据えたアクチュエータの設計を進めました。結果は、予想したよりスムーズに作業が進み、「これなら使える」と確信がもてる製品に仕上がりました。また、商品名として「サーボトップ」としました。その理由は、エアー式コントロールバルブのエア駆動部のことを、業界では「バルブトップ」とか「エアトップ」と呼んでいましたので、電動サーボの技術を用いたバルブトップですから「サーボトップ」が適当と考えたからです。でも考えてみると、誰でも思いつきそうな名前なので心配になり、特許庁に商標登録をすることにしました。「だめもと」と思って申請したところ、類似の商標である「サーモトップ」を他社がすでに登録していたために思わぬ苦労をしましたが、審査官に執拗に食い下がって、ようやく登録できました。もちろん今でも商品名として「サーボトップ®」を使用しています。

 計装用のコントロールバルブはほとんどがグローブ弁なので、まず直線駆動形のサーボトップ®(形式:BST)を完成することにしました。開発に着手したのが1983年頃ですから、それからもう30年以上の歳月が経っています。

サーボトップ®シリーズ(大阪府枚方市 村野浄水場 薬注制御システム)

 

 当時のエム・システム技研には、メカニカルなものを設計できるエンジニアがいなかったので、大形の電動アクチュエータのトップメーカーでもあった西部電機(株)の大阪支店長として知己を得た花田さんにご相談したところ、「それなら私が設計してあげましょう」と気楽に引き受けていただけたのには驚きました。  

 出力軸に直結した部分に非接触のポジションセンサを組込み、開度指令信号(4~20mA DC)との差を増幅してブラシレスDCモータを駆動するサーボ機構を構成しました。フィードバック回路にPID演算機能を組込み、入力信号をステップ状に入力しても、出力軸は素早く反応した後にぴたりと止まり、空気圧制御弁のエアトップに代わって十分実用になるものに仕上がったと確信しました。

 いざ売り出してみると、エム・システム技研は「変換器のエム・システム技研」としてそこそこの知名度を得ているつもりでいたのですが、ことバルブ業界においてはさっぱり知名度がなく、また、マーケットが異なることもあって、なかなか実績が上がりませんでした。結局人脈を辿って、もと巴バルブ(株)の営業をしていた人たちが助っ人として販売活動に参加してくださったことで、少しずつ出荷できるようになりました。

 主なアプリケーションは浄水場の薬注制御用で、お客様は水処理メーカーが中心になりました。

 その頃のエピソードとして思い出される事件が2つあります。その一つが、某バルブメーカーの幹部の人々が見学に来られ、「これじゃまだエアモータは安泰だな」と小さな声で話し合われているのを耳にしました。これらの方々は電動制御弁が脅威になるのではないかと心配して見学に来られたようであり、サーボトップ®を採用しようと考えての来社ではないことに気がついてがっかりした思い出です。もう一つは、東京にある某バルブメーカーの社長が直接来社され、「サーボトップ®をサンプルに貸してもらえないか」と申し入れられたので、「あ、いいですよ」と、貸し出し用に早速1台作って送りました。半年ほどして返送されてきたので、「採用のためのテストが終わったのだ」と思っていたところ、その年の暮れにサーボトップ®と瓜二つの電動アクチュエータを売り出し、ライバルメーカーとして名乗りを上げました。この時私は、「生き馬の目を抜く競争社会」を実体験することになったと思いました。

 計装の世界では、ほとんどのコントロールバルブは各種弁体のグローブバルブだと思っていましたが、紙パルプ業界で使用されるコントロールバルブは、ロータリ式が主力でした。そこで、販売活動を通して実際にお客様から得た情報から、同じブラシレスDCモータとサーボ回路を用いたロータリ式の電動アクチュエータ(形式:BRT)を開発しました。具体的に販売活動を始めてみると、この業界には先発メーカーがいて、事実上市場を独占していることが分かりました。その頃、まだまともにマーケットリサーチもせずに開発投資ができたのは、全国的に高度成長の時期にあり、変換器ビジネスが非常に好調に推移していたので、いけいけどんどんの勇み足だったのかも知れません。それ以後バブル経済の崩壊に見舞われた日本は、20年に及ぶ経済の低迷時期を経て、その紙パルプ市場の事情も大きく変わり、エム・システム技研のロータリアクチュエータの有力な市場になっています。ここにも「作り続けるエム・システム技研」の成果が確認されるのは大変うれしいことだと思っています。

 その後、エム・システム技研は推力の大きなものは手に負えないので、小形の電動アクチュエータ ミニトップ®に力を入れることにしました。ここにもやはり受け皿になるユーザー層があり、それは主に加熱用バーナーの世界でした。

 このミニトップ®の設計に当たり、駆動モータとしてステッピングモータ(パルスモータともいいます)を採用することにしました。ステッピングモータには優れた特長がいくつかあります。

 ① 電気的接触部分がないので長寿命
 ② 回転速度が可変できる
 ③ パルスを止めればモータがピタッと止まる
 ④ 止まっているときに外力が加わっても動かない
 ⑤ 思ったよりも力が出る
 ⑥ 止まっているときには電気を消費しない
 ⑦ 分解能が高い(1パルスが分解能になる)
 ⑧ 小形にできる

 これらの特長のおかげで、回路はシンプルなものになりました。

 しかし、ここで問題が発生! それはステッピングモータが回転するときに、回転速度に比例した周波数の音を発生することでした。しかしメリットの大きさに比べれば、通常の現場には多くの騒音源があるため、問題にはならないと考えました。

 実際に発売した結果、予想以上の好評価をいただき、リピート採用してくださるお客様が増えてきました。中でも大口採用のアプリケーションに、製紙工場で紙の坪量(単位面積当たりの重さ)を一定に制御する「CPプロファイル制御システム」と呼ばれる装置があります(製品例として、(株)小林製作所様の「オクトパス」や川之江造機(株)様の「BTFーディストリビュータ」があります)。これらの装置では、狭いスペースにミニトップ®を50~100台設置するものですから、制御信号は全てPLC通信に使われている「CC-Link」を使ってやりとりします。ここでも、エム・システム技研がリモートI/Oで培ってきた通信技術を適用して、配線の煩わしさをなくすことができました。

CPプロファイル 制御システム

 今ではサーボトップ®の全ての機種を、ステッピングモータと長寿命ポテンショメータにした製品にリニューアルして問題なくご使用いただいております。

 2014年現在では、高性能を誇るサーボトップ®シリーズは多くのメーカーのバルブと組合せいただいて、それぞれの用途に適した電動弁としての地位を築くことができました。なお、今後はバルブ以外の市場にも用途を見つけてゆきたいと考えておりましたところ、ターボコンプレッサやターボ式冷凍機のインレットガイドベーンのコントロール用にご採用いただけるようになり、大口の継続受注が実現しています。

 これはサーボトップ®の歴史には実に画期的な出来事で、今後ロボットマシーンや、粉体、粒体を扱うプラントなどに、多くの用途が拡がるものと思っています。

 ついては、「押す」「引く」「廻す」を高速かつ高精度に行う全電子式モータアクチュエータとして、次なる市場の開拓を進めて参りたいと考えています。

 新市場開拓には、標準仕様にこだわらずに特殊仕様をも受け入れて、素早くお客様のご要望にお応えしてゆく必要があるものと考えております。

 どんな所に新市場があるのか、本当に楽しみになってきました。

(2014年6月)


ページトップへ戻る