エムエスツデー 2013年10月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 例年にない猛暑日の連続と豪雨災害とが多発した夏も過ぎ、さわやかな秋本番がやってきました。

 さてこの度、日本能率協会の「2013計装制御技術会議」(2013年10月23~25日、東京都港区三田NNホールで開催)で、何と私がスピーカーとして推挙され、日本を代表する計装技術関係者様の前で、40分間講演をさせていただくことになりました。

 講演ご依頼の趣旨は、「多くのベンダー企業が、従来部品の調達難や新しい法規制、または商業上の理由で従来製品を製造中止、いわゆる『廃番』としてしまうため、現在の生産設備全体をリニューアルするのが当たり前の風潮があり、製造方法に変更がないにもかかわらず新しい装置を導入することが当然と考える若手技術者が大多数を占める状態になっており、一方経営層からは、無駄な費用をかけることは望ましくないとの指摘を受け、部品(計装用機器)の調達もままならない状況下で、現場の技術者は既存の古いシステムの延命を図らねばならない状況におかれています。エム・システム技研が創業以来守ってきた企業理念、すなわち『一度世に出した製品はいつまでも作り続ける』を広く世の中に訴えることは極めて有意義なことなので、その理念について熱く語っていただきたい」というものでした。

 これは長年エム・システム技研が果たしてきた、ドラッカー氏が指摘する企業特有の使命を正面から評価してくださっている方々がおられて、それをまとめてお話する機会がいただけたわけであり、私にとっては誠に幸運なことであり、かつ光栄でもあると感じ、二つ返事でお引き受けしました。

 以下、今回のご挨拶文にこの講演内容の要旨をまとめてご紹介し、『エムエスツデー』読者の皆様のご参考に供したいと考えました。

この理念を墨守してきた理由

 私は、昭和33年(1958年)から同47年(1972年)まで、北辰電機という工業計器の大手メーカーで14年間仕事をさせていただきました。その頃に経験した業界の姿は、以下のようなものでした。

 1960年代の工業計器の世界では、プロセスオートメーションを専門に取り組んでいる大手企業が10社近くあって、高度経済成長を牽引する巨大プラントの建設が日本中のコンビナートで行われており、それら各プラントの計装システムの一括受注を目指して、各社は激しい受注競争を展開していました。ちょうどその頃半導体技術は黎明期を迎え、電子管式指示記録調節計の時代から全電子式計装システムの時代へと移行してゆく途上にありました。計装用の信号が国際的に統一された電流信号4~20mA DCになったのもこの頃のことでした。

 電子部品の小形化、高機能化、高性能化のほかに低価格化が加わり、電子式工業計器も激しい変遷を繰り返すことになってゆきました。

 結果として、工業計器各社は毎年のように計装用機器の新シリーズを発表し、まだまだ使える従来機種を「旧シリーズ」として生産終了する形になっていったように思います。日本中のコンビナートにある巨大工場では、建設された各種のプラントの計装工事を同一メーカーに発注したにもかかわらず、各工場の現場は「世代の異なる計装機器の博物館」のような状態になっていたのではないかと思われました。そして、このことはいずれ年を経るにつれ維持管理上困った問題に発展するのではないかと懸念していました。私としては、工業計器はプラントの一部であり、一旦採用された工業計器はそのプラントが寿命を果たすまで、当該計器のメーカーが、需要に応じて責任をもって供給し続けなければならないものではないか、と考えていたことを思い出します。

エム・システム技研の創業

 このような環境の中で、私なりに考えがあって零細企業「エム・システム技研」を創めることにしました。この時着眼したのが、プラグイン式の信号変換器「エム・ユニット」であったわけです。当然のことながら、出荷されていった変換器はいずれの日にか製品寿命を迎え、取り替えられる時期がきます。その時には、同一形式同一仕様の新品の「エム・ユニット」に差し替えていただくだけで簡単に問題が解決するよう、仕様の標準化を厳しく行いました。

 それ以来40年が経ったわけですが、エム・システム技研は創業以来の全ての製品機種を、需要に応じて現在も生産し、供給し続けています。その間、当初使用していた電子部品はリード部品からハイブリッドICへと移り変わり、さらに表面実装部品へと変遷してゆきました。その度に内部のプリント基板を含む設計変更を行い、同一形式同一仕様の製品を出荷し続けて参りました。もちろん、各製品の組立工程は大きく変わりました。今では組立工程の中心に最新の変種変量生産を実現する多連式チップマウンタが活躍しています。

 『一度世に出した製品はいつまでも作り続ける』の理念を維持しながら続々と新製品を開発し続けた結果、現在エム・システム技研で標準化されて代表形式を与えている製品は3,500機種を超えるまでになっています。

何年経ってもピン・コンパチブルで使用できる エム・システム技研の信号変換器

生産工程は、1個作りの受注生産方式です。

 工業計器の本質として、ご採用時にご指示いただいた機器の仕様は、その寿命を終えるまで変えることはありません。したがって、お客様からご用命いただく時にはその計器の全仕様が仕様書の形で提示されます。エム・システム技研にとって、その単一仕様の製品をいかに素早く製作し出荷するかが重要な意味をもちます。ご用命いただく製品の詳細な仕様は、多くの場合発注ぎりぎりまで決定できないお客様の事情があるからです。

 エム・システム技研では、工業計器のこのような性質に合わせようと、多品種少量生産、かつ短納期を目指した受注生産体制を確立しています。現在稼働している巨大サーバに管理された変種変量生産を素早く実現する多連式チップマウンタシステムと、それを中心とした生産システムがエム・システム技研の使命を支えています。

電子技術の進歩に従って発生する部品廃番への対応

 同一仕様の製品を作り続けるに当たって問題になるのが、製品を構成する部品の廃番の問題です。エム・システム技研では、部品メーカーからもたらされる部品の廃番予告に接すると、関係する設計変更に要する期間に必要となる数量の当該部品を、直ちに仕入れます。それと同時に、部品変更、品質確認、回路変更、そしてサーバに登録されている生産マスターサーバのデータの変更を実施して、当該廃番に対応する作業を完結させます。

 このルーチンワークが日常的にスムーズに回る環境こそが創業以来40年安定した存在を続けるエム・システム技研の礎だと思っています。

不測の事態にどう対応するか

 まだ記憶に新しいタイの洪水や東日本大震災が発生した時に、突然多くの標準部品の供給停止が発生しました。やはり即時、代替部品の検討と設計変更で対応することとし、具体的な作業は上記の部品廃番への対応と同じプロセスで行いました。

製品在庫は、基本的にはありません。

 部品在庫は十分にあり、サーバコンピュータの生産マスターサーバで管理されています。
 専門メーカーとして全製品に対する回路の共通化、部品の共通化を徹底的に実施した結果、代表形式の製品が3,500機種を超えているにもかかわらず、部品の種類はプリント基板や銘板類を含めても12,500種類に納まっています。これだけの部品をしっかり管理しておけば、現時点で考えられる全てのご用命にお応えできます。

 エム・システム技研は、プロセスプラントを始め、各種装置のユーザー様の計装システムを、これからも引き続き強力にサポートするメーカーでありたいと考えて活動して参ります。どうぞご期待ください。

永観堂 禅林寺 = 京都市左京区

(2013年9月)


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