エムエスツデー 2012年7月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 「エムエスツデー」読者の皆様、こんにちは。
 最近私は、新幹線の中や国際線航空機の中での持て余し気味の時間が、とても楽しい時間に変わりましたが、これは正にiPod touchとBOSEのノイズキャンセリングイヤホンのお陰です。人を喜ばせる技術は、多くの人々の人生を快適にする、素晴らしいものだと実感しています。BOSEのイヤホンには、CDの音色がこんなに幅広く美しいものであったのかと驚かされました。

 LPレコードがCDに取って代わった頃から、私が機会を見ては買い集めたCDのすべてを、胸ポケットに入るiPod touchに収録してもらいました。すごいですね。400枚以上はあるCDをすべてロードしても、iPod touchの32GBメモリの約半分に収まっています。
 新幹線や航空機に乗り込み、席に着くとすぐにiPod touchとBOSEのイヤホンを取り出して音楽を楽しみます。高価なCDプレーヤー付きのHiーFi音響システムよりも、透明な美しい音色を再現してくれます。しかも外部の音はほとんどキャンセルされて聞こえません。
 もしiPod touchが現れなかったら、収集したこれらCDのほとんどは聴く機会がなかったのではないかと思います。目的のCDを探し出してわざわざプレーヤーにかけ、居間にどっかり座り込んで聴く機会はまずありません。でもiPod touchを使用すると、収納されたCDの音楽を、作曲家、アーティスト、ジャンル別など、リスト毎に検索できるようになっていて、液晶上のマークを指で軽くタッチするだけでそれらを容易に選べますし、作曲家の名前、たとえばモーツァルトにタッチすると、収録されたモーツァルトの曲が次々に出力され、場所を選ばず居ながらにして演奏会場に居る気分にしてくれます。
 お陰様で、若い頃に聴き親しんだ多くの懐かしい作曲家の名前や曲を再発見しています。ベートーベン、シューベルト、バッハ、ハイドン、ヨハンシュトラウス、シベリウス、ラロ、パガニーニ、ビゼー、リスト、ショパン、ムソルグスキー・・・。

 iPod touchには、まだまだ私が使い切れていない便利な機能が盛りだくさんあります。
 これほどの夢のような機器を世に送り出してくれたスティーブ・ジョブズとはどんな人物かを知りたくなり、同氏のことを解説した図書を仕入れて目を通してみました。
 「ジョブズの哲学」と題した文庫本には、「スティーブ・ジョブズこそ正真正銘のリーダーだった。」として、そのジョブズが遺した言葉として「ユーザーはごまかせない。求められるのは、考え抜かれた商品だ。」と記されていました。使う人が容易に使いこなせるような商品を、高度な電子技術を駆使して作り上げることの大切さを述べています。

書籍「ジョブズの哲学」とiPod touch

 エム・システム技研の製品については、ユーザーは「プロのシステムエンジニア」が主体なので、①使いなれたアナログ技術 ②完成された制御技術 ③用途に応じた各種のオープンネットワーク技術、を基本として、最新の電子技術、通信技術を小さな筺に収納し、計装システムに必要な工業計器の機能を整理統合したものとなっています。

 電子技術の進歩は止まる所を知りません。電子部品の世界も、この40年あまり驚くほどの変遷を遂げています。40年前には、トランジスタ、オペアンプ、各種ダイオード、抵抗、コンデンサなどは、リード線をプリント基板の穴に通して個別にハンダ付けをしていたものでした。
 組立はすべて手作業で行っていましたが、今ではほとんどが表面実装用のチップ部品になっており、プリント基板にチップマウンタと呼ばれる自動実装機を用いて目にもとまらぬ速さで搭載し、リフロー炉と称する加熱炉の中を通過させることで電子回路が一挙に出来上がります。
 正に高度に自動化された組立工程になっており、実に隔世の感があります。

 信号変換器を中心とするエム・システム技研の工業計器は、同一形式のものでも、入力仕様、出力仕様、電源仕様、演算仕様などいくつかの変数がありますが、同一プリント基板上に所定の仕様に対応したチップ部品を自動実装することで、目的の製品を自動的に高速で作成する生産技術を確立しています。近年その表面実装部品そのものがどんどん小さくなり、同一回路の製品でも、設計変更が日常的に必要になってきています。

 エム・システム技研では、工業計器メーカーとして、ドラッカーの言う「企業特有の使命を果たす」ために、創業時から現在まで数千機種にも及ぶ製品を、廃形を出すことなく作り続けています。
 10年前、20年前、30年前に発表した製品も漏れなく作り続ける努力は、一度エム・システム技研製品をご採用いただいたすべてのユーザー様に対して、永続的なご安心をお届けする努力なのですが、現実問題として、そこには多くの困難が待ち受けています。
 この度のタイの大洪水で、三洋電機のあるトランジスタが突然入手困難になりました。このトランジスタは使い易いため多くの製品に使用していましたので、製品の性能を損なうことなく他の部品に置き換える、膨大な設計変更作業が必要になりました。それも極めて短期間にです。もちろん、設計陣が頑張ってくれたお陰で、支障なく問題を乗り越えることができました。
 既存製品について、その構成部品を変更すると、当該製品のUL、CEなどへの適合性の再確認も行わなければなりません。品質保証部門も多くの作業をこなすことになりました。本当にご苦労様でした。
 「廃形を出さない」という方針は、電子式工業計器メーカーの道を選んだエム・システム技研にとっての「特有の使命」であり、私たちはこれを守り続けてゆく覚悟です。それも、従来どおりの短納期を守りながらですから、現場はよくやってくれています。
 そしてこのような部品入手困難の問題は、エム・システム技研にだけに発生しているわけではなく、同業者も事情は同じで、必ず対応を迫られているに違いありません。

団扇

 一般的に見て、工業計器の市場は縮小方向にあると見てよいでしょう。多くの先輩大手メーカーの中から、古い機種を次々と生産中止するところが出てきても不思議ではありません。
 エム・システム技研は、それら先輩大手メーカーの生産中止機種に関しては、エム・システム技研が受け皿になって、ユーザー様の工場の操業継続に支障が出ないよう貢献するチャンスなのだと認識し、商品開発に当たってゆこうと考えています。

 新しいネットワーク環境に対応した新製品の開発にも、もちろん注力して参りますが、こうして取り残されようとしているマーケットを生かすための努力も、必ずやエム・システム技研の成長につながるものと確信して活動しております。 

 つまり技術の進歩とはこういうことなのですね。

祇園祭 = 京都市

(2012年6月)


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