エムエスツデー 2010年10月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

エム・レスタ」の話

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 宇宙科学研究所(ISAS、現宇宙航空研究開発機構(JAXA))が2003年に打ち上げた小惑星探査機“はやぶさ”が、7年1か月後の今年6月13日に60億キロメートルの旅を終えて帰還し、そのカプセルが無事回収されました。まさに快挙というほかありません。
 地球から3億キロメートルも離れた小惑星“イトカワ”に、2度までも軟着陸して帰還したのですから、全くの驚きです。
 3億キロメートルといえば、光の速さが毎秒30万キロメートルですから、地球から発射した電波が届くのに1000秒かかることになり、また、1000秒といえば16分強です。ということは、“はやぶさ”からの情報は16分前のものであり、かつ“はやぶさ”に活動指令を出しても16分後でなければ届かないわけで、都合、1回の制御に往復32分余りかかり、それも途絶えがちの極めて厳しい通信環境の中で超遠隔操縦を成功させたわけですから、「ISAS/JAXA・川口研究室」の人たちの活動には感激をもって拍手を送りたいと思います。

小惑星探査機「はやぶさ」と小惑星「イトカワ」のイラスト

 ところで話は小さくなりますが、次にエム・システム技研の創業商品、電子式計装機器専用避雷器エム・レスタについてお話ししたいと思います。
 今から40年前に、私は「北辰電機」という計装機器大手の会社で計装システムのエンジニアリングの仕事をしていました。その頃には、アナログ方式の電子式計装システムが完成の域に達していました。もちろん計装信号にはすでにDC4~20mAが採用されており、センサからの信号は長距離間を正確に伝送できたため、広い浄水場の集中管理を可能にしていました。
 しかし、そこには新たな問題が発生していました。それは、数十キロメートル離れた所に落ちた雷や、雲の上だけで鳴っている雷によって、広い浄水場の各所に設置された電子式計装機器がしばしば破壊されることでした。

 その頃私が担当していたのは、大阪府、大阪市、奈良県、奈良市などの浄水場の計装工事でした。そして困ったことには、工事の完成が近づいて機器の調整に入る頃になると、雷が発生して流量計や水位計の発信器がしばしば壊れました。壊れるといっても姿、形は何ともないのですが、出力信号が出なくなってしまうので、サービス部門の人たちは、雷が発生した翌朝は大変だったようです。
 私はサービスエンジニアの人たちの多数の報告書から、故障した発信器の壊れ具合がどんなものかを調べてみました。その結果わかったのは、ほとんどの場合、発信器の出力トランジスタのベース・エミッタ間が機能を失っているか、その近くにあるゼナーダイオードが短絡状態に壊れていることでした。
 1972年に零細企業としてスタートしたばかりのエム・システム技研にとって、この計装用避雷器は恰好の開発テーマとなりました。計測信号の伝送ケーブルを雷電波が通過するときに電磁誘導が発生し、線間および線・大地間に高電圧が発生することは、電磁気学を習った私にはよく理解できました。その雷が通過する時に発生する電圧は、電磁誘導ですから必ずケーブル線の線間に正と負のサージ電圧を続けて発生するに違いないと考えました。当時はアナログ信号を伝送するのに比較的耐電圧の高いシリコントランジスタが用いられていましたが、耐電圧値は正方向には高くても負方向にはわずか数ボルト程度しかないため、そのことが雷被害を大きくしていると確信しました。

 そこで電子式計装機器専用避雷器として非対称回路のものを考案し、エム・レスタという商品名で発売しました。性能的には自信がありましたが、誰でも経験するとおり、近くに雷が落ちるとすごい雷鳴と稲妻が発生し、時には停電になったりするので、実際に理屈どおりエム・レスタを取付け配線して「本物の雷の洗礼を受けたらどうなるか?」には少し不安がありました。でも、間もなくこの不安は杞憂であることがわかりました。

 京都府福知山市にある長田野(おさだの)浄水場で雷事故が発生し、計装工事を担当していた知り合いのエンジニアから相談を受けました。さっそく場内の配線図を見せてもらい、エム・レスタの取付け箇所と配線要項を打合せし、初めて数十台の大量出荷となりました。
 その後しばらく連絡がなかったので、心配になり直接浄水場に電話を入れたところ、「相変わらず雷は多発しているが、うちの浄水場の発信器類に被害はありません」との返事でした。
 「ヨシ!これでいける!」と確信した私は、さっそく雷電圧を模擬したサージ電圧の発生機能を組み込んだデモトランク(通称パチトラ)を用意し、全国行脚を始めました。

 中でも記憶に鮮明に残っているのは、信州は上田の「畑かん」(畑地灌漑)の遠隔自動撒水設備の一件と、栃木県那須塩原市(旧 黒磯市)の「鳥野目浄水場」での手柄話です。
 畑かんの一件は、当時富士工機(株)の小池様から「雷に強い自動撒水設備を作りたい」とのお話をいただき、現地の土地改良区で計画されている自動撒水設備のテレメータとして、雷サージが侵入しそうな所には全てエム・レスタを配置した、エム・システム技研製のテレメータ「DAST-L」をシステムとして納品することになりました。
 結果は上々でした。「サービス区域内にある鶏舎に落雷があり、鶏100羽ほどの被害があったにもかかわらず、エム・システム技研製のテレメータには全く異常なく、一方、隣のサービス区域の他社製テレメータは甚大な被害を受けました」と、担当された小池様からレポートをいただき、今もそのレポートを大切に保管しています。

 那須塩原市(旧 黒磯市)の鳥野目浄水場では、(1973年頃)電子式計装機器を使用する最新式の集中管理システムを導入されたのですが、雷被害が多発して対策に苦慮しておられるとの情報があり、エム・レスタを数箇所設置していただきました。その結果は、エム・レスタを取付けた所はすべて異常なく、取付けていない所は以前と同じように被害が出ました。
 それから間もなく、必要箇所全てにエム・レスタを設置していただくことができ、鳥野目浄水場の大野場長から「正常に運転できるようになりました」と、お礼とお褒めの言葉をいただきました。

 こうしてエム・システム技研の創業商品エム・レスタは、市場から高いご評価をいただいて売れ行きが飛躍的に伸びました。そしてそこから得られた資金を、その後のエム・システム技研を決定づける「エム・ユニット変換器シリーズの開発に投入することができて、発展の糸口をつかむことになりました。本当にありがたいことです。

 今回は、書き残しておきたかったエム・レスタの誕生秘話を、『エムエスツデー』ご愛読の皆様に感謝の意を込めてご紹介させていただきました。

初期の「エム・レスタ」のカタログ類と広告

エム・レスタ は(株)エム・システム技研の登録商標です。

(2010年9月)


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