エムエスツデー 2010年4月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 桜が咲く美しい春がやってきました。今から遡ること38年前、株式会社エム・システム技研は独立企業としてスタートしました。資本金百万円で、社員一人のスタートでした。
 その頃の計装業界は、空気圧式計装が片隅に追いやられ、全電子式計装システムの全盛期であったように思い出されます。「高度成長」といわれていたその頃には、水島、君津、千葉、鹿島、和歌山等々、主として表日本の臨海地域に世界最大級の鉄鋼一貫工場の建設が進んでいました。石油、石油化学のコンビナートの建設も盛んでした。人口の都市集中が進んだこともあって、大都市ではもちろんのこと、中小都市においても広域の上・下水道システムの構築が盛んに行われていました。計装業界には、それらシステムの自動化と集中管理化を具体化するための計装機器の旺盛な需要があり、その市場争奪戦が激しく展開されていました。
 大手の計装機器メーカー各社は、2線式差圧伝送器に代表される各種発信器に始まり、DCS、シングルループコントローラ、記録計、各種設定器、電空変換器、電空ポジショナ、そしてコントロールバルブまでを自社ブランドで用意して、各工場の計装システムを一括受注する形で激しい受注競争が行われていました。
 そんな時期に一人で計装機器のメーカーを目指して起業したのですから、私も無鉄砲で若かったのですね。

円山公園の枝垂桜イラスト

 私は、ユーザーの工場群の中で使用されている電子式計装機器には、計装機器メーカーによって異なる電流信号が使われていることに着目しました。DC10~50mAを採用していた横河電機と富士電機、DC2~10mAを採用していた北辰電機と日立製作所、DC1~5mAを採用していた東京計器、そして始めからDC4~20mAを採用していた山武ハネウエルといった具合でした。
 「これらの電流信号を他の電流信号に変換する変換器を作ったら便利に利用してもらえるのではないか。しかも、こんな特殊な変換器を作る大手の計装機器メーカーはないので、独自のマーケットができるにちがいない」と考えて、「信号変換器」を自社の主力製品に据えることにしました。ついでながら、電力計測用のCTの出力AC0~5AとPTの出力AC0~110Vを入力として、計装用の直流電流信号にして出力する変換器も製品に加えました。このようにして、計装機器の隙間を埋める変換器を「プラグイン方式の筐体」に収納して商品化をすすめ、現在の「M・UNIT変換器シリーズ」の原形が出来上がりました。

 販売活動は、カタログを作るところから始め、そして変換器を売っていただける販売会社を探し出し、コンビナートを積極的に一緒に歩き回ってPRに汗を流しました。少しずつお客様が付いて、引続きご注文がいただけるようになるのに2~3年はかかったと思います。その間資金をつなぐために、できる仕事は何でも引き受ける便利屋として走り回っていました。
 販売が軌道に乗るにつれ、自分のシステムエンジニアとして働いていた頃の経験から、計装システムを構成するのに便利と思われる機能を次々と変換器の形に製品化し、商品系列に加えてゆきました。
 パルス変換器、演算変換器、メモリ変換器、選択変換器、警報設定器、電空変換器等々、思いつくものは何でも商品化しました。
 当初難しかったのは、電空変換器でした。でも、これもアメリカ製の圧力センサICを見つけてそれを購入し、出力空気圧を電気信号に変換してフィードバックすることにより、難無く商品化に成功しました。

 それから三十有余年、時は経ち世の中が大きく変わりました。トランジスタが高性能化し、低価格化しました。オペアンプと呼ばれるアナログICも安価にいくらでも手にはいるようになりました。ワンチップCPUが現れて便利になり、変換器の中に組み込むことができるようになりました。パソコンが現れ見る見る高性能化して、安く手に入るようになりました。PA(プロセスオートメーション)業界の隣のFA(ファクトリオートメーション)業界からはPLCが開発され、ものすごいスピードで機能を向上させて安く手に入るようになりました。計装システムのネットワーク化が進みました。ネットワーク化するための専用チップが容易に入手できるようになりました。アナログ信号をModbus、CC-Link、DeviceNetなどの通信ネットワーク技術で自由に送受信できるようになりました。
 エム・システム技研は、これらの背景をいち早く利用して次々と新製品を世に送り出し、計装システムの隙間を埋めるインタフェースメーカーとして、ユーザー様から期待していただけるようになりました。
 液晶技術の発達は、チャートレス記録計の商品化を可能にしました。液晶表示器電力マルチメータも容易に商品化できました。

 そこへリーマンショックがやってきました。計装機器の大手メーカーは、すでに国内需要の減少を受けて海外ビジネスに活路を見出したり、事業規模の縮小を余儀なくされているところにこのショックですから、事業の選択と集中へ向かう現象が加速することになりました。
 エム・システム技研は、PIDコントローラの技術も修得して出荷実績を重ねてきましたが、多くのユーザー様からのご要望もあり、ここにきて、名実共にご評価いただける高機能シングルループコントローラの開発に着手いたしました。
 こうしてエム・システム技研は、気がつけば計装用パネル計器の総合メーカーになっていたと思う時期が間近に迫っているように思われ、感傷に似た気持ちになっています。

桜の小枝イラスト

 工業用計装機器は、お買い上げいただいたお客様の工場で音もなく働き続けています。工場のプラント設備は50年、60年と働き続けます。でもそこで働いている計装機器は、15~20年経つとリプレースされます。そのときに新設のときと全く同じ更新用製品の供給が保証されているとすれば、お客様にとって何よりの安心材料になるはずだと思います。
 エム・システム技研は、ほとんど例外なく守ってきた「廃形機種を出さない」という企業理念でお客様の信頼にお応えし続けて参りました。「お客様にきっとお役に立つエム・システム技研」の今後の活躍にご期待ください。

 「MST(エムエスツデー)」の編集に当たっては、日頃のご愛顧にお応えしようと、お客様にお役に立つ情報をお届けしたいとがんばっております。引き続きご愛読いただけますよう、よろしくお願い申しあげます。 

(2010年3月)


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