エムエスツデー 2008年9月号

製品別情報

避雷機能付き8ポートスイッチングハブ(形式:SHSP)に
交流電源用を追加! 避雷対策がより身近に!

(株)エム・システム技研 開発部

は じ め に

図1 SHSPの外観と寸法 工業用の避雷機能付き8ポートスイッチングハブとしてSHSPを発売し、1年半近くが経過しました。厳しい環境中での使用を前提とし、避雷機能と耐環境性能を重視したスイッチングハブとして、SHSPは多くのお客様にご支持いただくことができました。

 これまではDC24V電源用の製品だけだったため、お客様から、パソコンと組み合わせて使用する目的でAC電源用の製品に対するご要望を多くいただくようになりました。これは、屋外に近い制御盤などの限られた場所だけでなく、工場など屋内の設備においてもEthernetに対する雷被害の危険性を懸念されるお客様が増えてきたからだと思われます。

 大部分のパソコンは交流電源で動作するため、SHSPを組み合わせようとすると、今まではわざわざDC24V電源装置を用意しなければならないというご不便をおかけしていました。これを改善するために、今回、交流電源(AC100~240V)用の製品を新たにSHSPに加えました。この結果、DC24Vが供給されていない場所でも手軽にパソコンなどのEthernet機器と組み合わせてSHSPをご使用いただけるようになります。

 発売当初にご紹介した内容と重複する部分が多々ありますが、この機会に、改めてSHSPの特長とEthernetにおける避雷対策の必要性についてご紹介します。

 SHSPは、Ethernet用の8ポートスイッチングハブです。Ethernetは現在最も汎用的な情報通信ネットワークとして、オフィスはもとよりPAやFAの現場においても、PLCなどの制御機器やHMI(Human Machine Interface)の通信に数多く利用されています。しかしEthernetの普及はオフィスなど事務分野が先行していたため、使用される環境については、初期にはあまり考慮する必要がありませんでした。したがって、信頼性が求められる工業分野でEthernet機器を使用する場合は、とくに使用環境に対する注意が必要になっています。

 エム・システム技研が工業分野の厳しい環境でも安心してご使用いただけるように、広範囲な使用温度、耐振動性、電磁的特性などの耐環境性能に加え、避雷機能を備えた製品としてSHSPを開発したのには、このような背景があったのです。

1.外観と寸法

 図1SHSPの外観と寸法を示します。盤内設置に配慮して、縦置きで幅をとらない構造にしました。しかも、8ポートでありながら、ケース幅は40mmに抑えています。

2.機能と特長

 SHSPの機能と特長を以下に列挙します。

 (1)100BASE-TX/10BASE-Tに対応しています。

 全ポートにAuto−Negotiation機能(100M/10M、Full Duplex/Half Duplex自動切換)、およびAuto- MDI/MDI-X機能(ストレート/クロス自動切換)を標準装備しているため、ネットワークの構築および接続機器の変更が円滑に行えます。

 (2)シリアルポートにパソコンを接続することで、パソコンにインストールしたコンフィギュレータソフトウェアからAuto-Negotiation機能のON/OFF設定や通信速度の設定がポートごとに行えます。

 Auto-Negotiation機能に対応できない古い機器を接続する場合や、通信状態が悪く通信が安定しないとき、意図的に通信速度を下げたい場合に有効です。

 (3)全ポート避雷機能付きです。

 IEC61000-4-5(EMC-Surge immunity test)では、建築物非密集地域に敷設した屋外ケーブルに接続する場合を、雷被害的に最悪条件と想定し、この場合の雷サージ試験の基準レベルを4kVとしています。しかし、誘導雷の大きさは、雷の規模やケーブルの敷設条件によって大きく変わり一義的には決められません。

 そのためSHSPでは、ポートと接地間に試験印加する雷サージ試験レベルを10kVとし、さらに過酷なレベルでも耐えられるようにしました。

 (4)避雷回路の寿命状態をLEDで表示します。また、接点信号出力機能を備えていて、交換時期、破損状態、停電などを遠隔管理できます。

 (5)耐環境性に優れています。

 CE EMC指令に準拠 注1)
 耐振動性(掃引):10~150Hz/1G 注2) X、Y、Z方向 各80分
 使用温度範囲:−5~+60℃

 標準的なスイッチングハブは、人間の生活する環境温度を基準としているため、最高使用温度は40℃~45℃が一般です。しかし、SHSPは最高使用温度を60℃まで上げることによって、ご利用いただける領域を拡大しました。

 (6)自然環境保護に配慮したRoHS 注3)対応です。

 (7)便利な35mmDINレール取付けに対応しています。

 (8)電源、接点信号出力、接地端子には信頼性が高いねじ端子を採用しています。

 (9)交流電源でもACアダプタを必要とせず、端子台に電源ケーブルをそのまま接続できます。

 (10)DC電源用には電源端子を2組備えているため、電源の冗長化が図れます。

 (11)省電力設計です。また、放熱性の高い金属ケースの採用によって機器の内部蓄熱を抑え、信頼性を高めています。

3.Ethernetでの避雷対策の必要性

図2 屋内配線にも避雷対策は必要 Ethernet機器は、一般にLANケーブルが屋内配線であることから、雷被害に対して無縁であるようにいわれています。しかし、屋内配線を理由に安全といえるのは、電磁波に対して十分な遮蔽が期待できる建物内に限られます(図2)。

 工場などでは隣接する建屋の設備間をLANケーブルで接続する場合もあり、その場合は十分の遮蔽効果が得られない可能性があります。

図3 電磁波により誘導雷サージが発生 ある文献には、『1km離れた場所に、30kAといった中程度の落雷が発生した場合、地面から10mの高さに敷設された電線には、10kV以上の誘導雷サージが発生する』と記されています。これは、屋外配線に対する値ですが、雷の電磁気エネルギーはこのように強大であるため、たとえ屋内配線であっても、遮蔽が十分でなければ、建物の壁を通過して侵入する電磁波によって、ケーブルに誘導雷サージが発生することになります(図3)。

図4 LANケーブルに高電圧を誘発 また、避雷針と接地極を結ぶ避雷導線に落雷電流が流れ、そのとき発生する強磁界が、やはり建物の壁を通り抜け、避雷導線に平行に敷設されたLANケーブルに大電圧を誘発することも考えられます(図4)。

 あるいは、LANケーブルから誘導雷サージが侵入しなくても、接地間電位差が問題になることもあります。工場のように広大な建物内でEthernet機器を使用すると、襲雷時には各設置点ごとに接地電位が不均等になります。これに対して、各Ethernet機器はLANケーブルでつながっているため、接地電位の差が有害電圧としてEthernet機器にかかることになります。

図5 接地間電位差が有害電圧として働く  これらのLANケーブルに重畳した誘導雷サージや過電圧によって、そこにつながるEthernet機器は破損してしまうことが考えられます(図5)。

 LANケーブルに雷サージが加わった場合、スイッチングハブが壊れるだけでなく、そこに接続されるEthernet機器にも被害が及ぶ恐れがあります。仮に損傷を免れても、機器間の通信は寸断され、データの送受信が行えなくなります。SHSPを使用することによってスイッチングハブ自体だけでなく、接続されているEthernet機器、さらにはネットワーク全体を守ることが可能です(図6)。

図6 SHSPで避雷対策 なお、電源端子に関しては、他の電子機器と一括で保護する必要があるため、別途、電源用避雷器をご使用ください。接点信号についても、遠方に信号伝送する場合には、別途避雷器を設置してください。

おわりに

 Ethernetの利用が広がるにしたがい、避雷対策はますます重要なものになっていくと考えられます。今回の交流電源用製品の追加によって、さらに幅広い領域でSHSPをご使用いただければ幸いです。

 交流電源用SHSPは、発売を今秋に予定しています。ぜひ、SHSPの採用についてご検討ください。

注1)DC24V電源用のみ
注2)加速度単位、G=9.81m/s2
注3)RoHS:『エムエスツデー』誌2005年1月号「計装豆知識」参照。


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