エムエスツデー 2006年1月号

データロガー今昔

第1回 IT時代とデータロガー

は じ め に

 現在、私たちは、普段の暮らしの中で、IT環境を当たり前のように享受しています。職場や家庭、公共施設など、あらゆる場所にはパソコン(PC)が浸透し注1)、また、ほぼ1世帯に1台の割合で携帯電話(ケータイ)が普及しています注2)。そして、世界中の情報は、インターネット上に溢れ、必要とあらばたちどころに手に入れることができます。さらに、買い物、入出金、乗り物の予約などなど、PC、ケータイ、インターネットを利用してできることは枚挙にいとまがありません注3)。現代は、これら(PC、ケータイ、インターネット)が私たちの周りにあまねく在(あ)り、これら抜きでの生活を考えることすら難しい時代であるともいえます。しかし翻れば、ITが脚光を浴び始めたのはごく最近(ここ数年)のことであり、わずかに時代を遡っただけで現代とはまったく異なる環境が在ったことを思い起こせます。かくも足早で、果てしない技術の進歩の果てに、今があるともいえます。

 ところで、ITの基礎となるのはデジタル技術であり、近年のデジタル技術の驚異的な進化が今日のIT環境をもたらしたといえます。私たちが携わる計測、制御の分野も、デジタル技術に多くのものを依存していて、現在ではIT環境とも密接な関係があります。

 本コラムでは、計測、制御の分野におけるデジタル技術や、それらを基礎とした製品、システムが、時代とともにどのように移り変わってきたかを解りやすくご紹介したいと思います。しかし、一口に「計測、制御の分野におけるデジタル技術」といってもあまりにも漠然としていて、捕らえどころがありません。

 そこで、少々無理があるかもしれませんが、デジタル技術の象徴として「電子計算機=コンピュータ」を取り上げ、さらにその解りやすい応用例として「データロガーシステム」にスポットを当て、その姿が時代とともにどのように移り変わってきたかを追跡してみたいと思います。

図1 1960年代前半のデータロガー((株)北辰電機製作所製)

 さて、データロガーは、計測、制御の分野における重要な機能要素として、相当に古い時代から存在していました。データロガーの主な仕事は、その名のとおり操業データを収集し、記憶媒体や記録紙などの媒体に記録(ログ)を残すものです。収集するデータは、多くの場合は一定時間(たとえば、1時間)毎のデータですが、その他バッチプロセスにみられるような、1バッチ(1操業サイクル単位)毎に集計したデータなどもあります。このように、比較的単調な仕事でありながら、多量のデータを、決められたタイミングで、正確に(しかも、飽きもせず、疲れもせずに)処理する必要がある仕事は、昔からコンピュータの得意とするところでした。工業用コンピュータ(プロセスコンピュータ=プロコン)の黎明期において、その主な用途の一つがデータロガーであったことも理にかなっていました。プロコンの出現は1960年代ですから、約40年前の話です。

 そこで、現在を起点として、過去を約10年単位で振り返りながらデータロガーの変遷を辿ってみることにします。

現代 − PCとWeb、SCADA

 最近は、SCADAという言葉が一般化し、しばしば耳にすることがあります。ご存じの方も多いと思いますが、これはSupervisory Control and Data Acquisition の略です。Supervisory Control(監視・制御)という広義の名称が冠として載っているものの、実際にはData Acquisition、つまりデータ収集機能に重きが置かれて通用している例が多いといえます。したがって、SCADAもデータロガーとほぼ同じ意味の言葉と考えて差し支えないと思われます。現在は、パソコン上で動作する各種のSCADAソフトウェアが市場に数多く流通しており、プロセス産業をはじめ、その他の製造業、公共機関、学術・研究機関など幅広い分野で、多くのユーザーに利用されています。

 ここでは、現在のデータロガーの代表例として、エム・システム技研製の最新SCADAソフトウェア(製品名:SCADALINX HMI、代表形式:SSDLX注4))を中心に構築したシステムを取り上げてみます。ここで、データロガーとしての収録点数は、アナログ入力256点、ディスクリート(状態=接点)入力128点という条件で、プロセスの監視、ならびに日報、月報、年報を作成するものとします。図2は、データロガーシステムの全体構成図です。以下に、システムの構成と機能、仕様について簡単に説明します。

図2 「SCADALINX」によるデータロガー構成例

 まず、アナログ入力信号、状態入力信号はリモートI/O装置(形式:R3シリーズ)から取り込まれ、すべてデジタルデータに変換されます。データは、フィールドネットワーク(Ethernet)経由注5)でPC(サーバ)に取り込まれます。PCには、「Windows XP」のOS上で動作する「SCADALINX HMI」のパッケージソフトウェアが搭載されています。

 パッケージソフトウェア中には、データの監視・操作・収録を行うための、様々なアプリケーションソフト、ならびにアプリケーションソフトの構築を行うためのビルダソフトなど各種のソフトウェアが用意されています。監視・操作は、クライアントとなるPC(サーバ用PCと同一のPCでも可)に標準装備された、Webブラウザ(インターネットエクスプローラ)の画面を通じて行います。さらに、LANやイントラネット経由で、もう一台のPC(クライアント)のWebブラウザ画面からも同等な監視・操作を行うことができます。また、サーバは収録したデータをもとに日報、月報、年報のデータを作成します。作成したデータはハードディスクにファイル保存され(10年分のデータが保存できます)、クライアントのPCの画面に表示したり、帳票としてプリンタに自動印字することができます。

 ここで、SCADALINX HMIを搭載するPCの仕様を表1に示します。

表1 SCADALINX HMIを搭載するPCの仕様 

CPUクロック速度 3.0Ghz(Intel Pentium4相当)
メインメモリ容量 1.0Gバイト
ハードディスク容量 150Gバイト

 

 なお、図2に例示した、PCを含めたシステムのトータル価格は、定価でおおよそ300万円注6)です。

 さて、読者の皆様は、ここに挙げたPCの仕様が現在ではごく普通のものであり、とくに瞠目すべき点もないと思われるかもしれません。また、PCを利用したシステムであれば、トータル価格もそれほど驚くほどのことはないと感じられるかもしれません。しかし、ここで、これらの仕様、価格をぜひ記憶に留めておいていただきたいと思います。これらの数値がどれだけの意味をもつかについて、次回以降で比較していくことにします。

注1)我が国のパソコン世帯(単身世帯含む) 普及率:78.2%(2003年末時点、総務省情報通信政策局「通信利用動向調査報告書世帯編」より)。
注2)携帯電話世帯(単身世帯含む)普及率: 93.1%(同上より)。
注3)
インターネット世帯利用率:88.1% (単身世帯を含む全世帯に占めるインターネットを利用した世帯員がいる世帯の比率で、パソコンや携帯電話などインターネットの利用機種や利用場所を問わない。2003年末時点(同上より)。
注4)
SCADALINXについては、『エムエスツ デー』2004年3、4月号の「新計装システム「SCADALINX」(その1)(その2)」、2004年12月号「Web対応SCADALINX HMIのシステム生成」でご紹介しています。
注5)
フィールドネットワーク、およびそれ を利用するリモートI/O装置も計測、制御分野におけるデジタル技術の一つの粋といえますが、本コラムでは説明を割愛させていただきます。フィールドネットワークについては『エムエスツデー』2006年1月号から連載が始まった「工場通信ネットワークのお話」をぜひご参照ください。
注6)
ハードウェアおよびパッケージソフト (製品名:SCADALINX HMI、代表形式:SSDLX)の価格(15万円)の総計です。パソコン1台、およびプリンタ1台の価格を約23万円として含みます。HUBやネットワーク関連費用は含みません。

SCADALINXは、エム・システム技研の登録商標です。

【(株)エム・システム技研 システム技術部】

 


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